見出し画像

微生物、アニミズム、脱植民地化、気候変動フィクション:発酵休学の振り返り

この8ヶ月、本当に発酵した日々を過ごすことができました。
どんどん微生物やアニミズム、脱植民地化に対する探求を深めながら、アウトプットをし続ける中で沢山の発見をしました。
今日から大学に復学し、学びを再開する前に、この休学期間の自分自身の振り返りをしたいと思います。

予想外の学び・微生物とアニミズムを深掘りたくて休学

去年の春学期、ずっと楽しみにしていたインドでのチベット・スタディの留学がコロナの影響で中止になりました。アメリカの大学も通い始めてちょうど2年が経ち、折り返し地点に立ってみたときに自分が残りの大学生活で送る日々が想像できてしまいました。(おそらく授業をとって、ちょくちょく日本に帰り、卒論を書いて、院に進学でもするのかな。?みたいな)
予想外に起こる出会いや発見が大好きな自分としては、想像がついてしまった未来をできる限りめちゃくちゃにしたい、もっと予想外な人生にしたい!と思い、じゃあ休学しようと決めました。

大学に入ってからふつふつと抱いていた「気候変動を引き起こした文化とは何だったのか?」という問いがありました。(自分的にこのトピック話しすぎ感ありますが、何度でも書きます)
その問いを考えるためにエコロジー思想やネイティブアメリカンの人々の文学を学んでいました。その中で気づいたことが「人間は生態系の循環の一部なのに、自然から分断され搾取を行う構造になっている」ということでした。西洋的な自然観では自然は人間の「所有物」とされ、支配される対象になったことが、自然を好き勝手にしていいという思想に繋がったと。

一方で先住民族の人々は、自然のなかで私たちは全ての生き物と繋がっており、自然の恵みがあるから生きているという世界観を持っており、これは生態系サービスなしには生きれない人間の実態に沿った考えだと気づきました。

こうしたKinship(類縁関係)と呼ばれる、あらゆる生き物と親族のようなつながりを見出し、ケアしあう文化を知った時に、これは日本のアニミズム文化とも通じると思いました。八百万の神を見出し敬ってきた精神性こそ、現代において私たちが依存している生態系の働きに則った社会を作るプラクティカルな文化なのではないかと感じ、2021年ごろからアイヌの人々の自然観について学んだり、アニミズムに関する書籍を読みあさっていました。

その中で、日本各地で残るアニミズムや信仰の歴史を実際に足を運んで学びたいという思いがどんどん募っていきました。

それと同時に、気候変動を引き起こした文化を再生産しないために、自然の中で他の生き物たちと再接続した文化を作り出すことをどうできるか探求する中で、特定の動物や生き物にフォーカスを置けないかと探していた時に、自分の体に住む微生物に注目しました。私たちの体には1000兆を超える常在細菌が住んでいると思った時に、私は微生物のアパートのように思えてきます。
そして常在細菌は私たちの消化活動だけでなく、メンタルヘルスにも影響を与えていたりすると知り、もしかしたら私は微生物からのメッセージをずっと無視していたのではないかと思うようになりました。
分類的には「非人間」とされる微生物たちに、私たちを人間たらしめているとされる「思考」なども影響されていると考えると、どんどん「人間ー非人間」の境界線がぼやけていく感覚を持ちます。
自分の身体をずっとケアしてくれていた微生物のメッセージをどうやったら聞けるようになるだろうかを知りたいという思いが爆発して、結果的に微生物まみれの休学期間になりました。

休学中:微生物・気候変動フィクション・脱植民地化・発酵を深める日々

鳥取県のパン屋タルマーリーでインターンシップ(7~8月)
アメリカで微生物についての関心が深まっていく中でリサーチの一環で読んだ本がタルマーリーの渡邊夫妻が書いた「菌の声を聞け」でした。
微生物を変えるのではなく、人間が変わり周囲の環境を整えることを通じて、理想の菌に現れてもらうという関係性に衝撃を受け、アメリカから履歴書を送り、1ヶ月間鳥取県の智頭町でインターンとして働かせていただきました。「菌の声を聞け」の中で、その場所や環境の変化が菌の状態に影響を与えると書いてあるのは本当なのかを確かめたく、インターンに行きました。実際にパン職人の方とお話をしていると、本当に自分自身の調子が悪かったり、悩んでいると青カビが出ると話していて、やはり菌とのコミュニケーションは思わぬ形で起きているのだなと感じました。そして、微生物と共に働く上では「観察すること」が何よりも大事だと学びました。仕事の効率をできる限りよくして、酵母や生地と向き合う。それによって菌とシンクロするような感覚になるのだと知りました。
オーナーの渡邊格さん、麻里子さん、スタッフの皆さんにも本当によくしていただき、ビールも沢山飲み、超幸せな1ヶ月間でした。実際に無肥料無農薬の野菜や食べ物を沢山食べた1ヶ月を経て、自分の体も良い環境で育ったものは感覚的に分かるほど研ぎ澄まされ、実際に身体性も解放されていました。

山伏修行体験(9月)
アニミズムの実践としての山岳信仰にアメリカでとても興味を持ち、休学前から山伏の星野先達の講演などを聞いていました。休学すると決めた時に、真っ先に山伏修行体験が頭に浮かび、出羽三山での山伏修行体験に参加しました。
山伏修行で何をするかなどは多くは語ってはいけないため、書けることは限られますが、振り返ると頭よりも身体の感覚で学んだことの方が多かったように思います。初めて登った月山で見た光景に不思議と懐かしさを覚えたり、地下足袋で山を歩き自分の足で山を感じたり、自然の暴力性を身体で学んだり。考えたことよりも、身体で感じたことをはっきりと覚えています。限られた装いで身体を持って環境と繋がるという初めての体験でした。


こんな写真しか撮る暇がありませんでした笑

脱植民地化とフェミニズム・反レイシズムについてのウェビナーを開催(9月)
気候変動問題はどのように解決できるのかということを考えていく中で、今まで帝国的に自然を支配するエコロジーを世界に広めた植民地主義を根本から変える必要があると気づきました。そして日本に帰ってくる前に参加したカリブ哲学のサマースクールで、政治的・物理的な植民地支配だけでなく、文化的に西洋中心的な価値観や世界観を批判し、文化や歴史を脱植民地化することの重要性を学んだ一方で、日本でアクティビストとして活動している中で脱植民地化について全く知らなかったことに気づきました。日本・東アジアのコンテクストにおいて脱植民地化をどのように語るかを考えるために、同じ問題意識を抱いていた仲間と自主編集のZineを作るプロジェクト「複数形の未来を脱植民地化する」を立ち上げました。
そのプロジェクトの一環として、サマースクールで出会ったニューヨーク市立大学のLaRose Parris教授を招き、家父長制や人種差別、そして気候変動といった課題がいかに植民地主義の歴史でつながっており、脱植民地化を実現する必要があるかをお話いただきました。結果として200人を超える方に申し込みをいただき、脱植民地化のトピックがいかに日本でも関心を持たれているかを気づくことができました。
アーカイブ動画はこちらからご覧いただけます。


寺田本家での蔵人体験(10月)

下北沢で飲んでいる時に、偶然発酵デパートでイベントをされていた千葉県の酒蔵「寺田本家」の当主・寺田優さんにお願いをして、10月に蔵人仕事のお手伝いに伺わせていただきました。
実際に蔵に入り、お米を冷ましたり、麹室に入って麹を仕込んだりする仕事を一緒にさせていただく超貴重な時間でした。
とても印象的なのは、お米を潰しながら一緒に歌を歌ったことは、まるでお米や酒、一緒にものづくりをする微生物に祈りを捧げているようにも思えました。
何より働いている寺田本家の皆さんがとてもオープンで外から来た自分を受け入れてくださったことに、どんな菌も受け入れる寺田本家さんの姿勢を感じました。

100BANCHに入居・微生物のケアを中心に日々をデザインし直す実験を実施(10月-12月)
タルマーリーや寺田本家での経験を踏まえて、パナソニックが運営する実験区100BANCHにて微生物をケアすることを中心に日々をデザインし直す「菌曜日/Kin-Kin」というプロジェクトの一環として、身体を使った微生物との関係性を深める実験を行なっていました。自分の身体の住人としてずっと私をケアしてくれていた微生物たちの存在を認識した上で、どのように微生物とともにいる感覚を強められるのかが最初の問いでした。
メンターについてくださった「腸と森の土を育てる」著者の桐村里紗さんのサポートのもと、10人の参加者の方を集め、毎日2食は食物繊維と発酵食品という腸内細菌を育てる食事をし、身体(メンタルとウンコ)がどう変わるかを観察しました。最初に自分一人でこの実験をやった時には、全く微生物をケアしてる感覚にならなかったため、ライングループで微生物のTipsを送ったり、微生物Botがリマインドするような仕組みを作ったりと色々と工夫しました。

おじさん構文の菌もいました。

参加者の方のエンゲージメントも高く、皆さん活発に「これは菌ちゃんケアにいいですか?」と質問をしてくれていました。
2週間の実験を通じて、確実に自分の身体の変化を感じると同時に、自分の身体に住む微生物を愛しく感じるようになり、当初の目的は大成功しました🦠
この実験についてはまた別で記事を出したいと考えていますが、意識とケアを向け続け、微生物について語ることにより、異なる関係性を築くことは可能なのだと感じることができる実験でした。

イベント「気候変動を微生物中心の未来で変える」を開催(12月)
100BANCHでのKin Kinプロジェクトの締めくくりとして、微生物を起点に都市や身体、未来を考えることがいかに気候変動を考える上で可能性を持つかということを考えるイベントを開催しました。
ゲストには、メンターとして関わってくださった桐村里紗さんと、都市の微生物解析や多様性向上のための事業を行う株式会社BIOTAの伊藤光平さんをお招きしました。

ワークショップは超大盛況でした🦠

気候変動を引き起こしている根本にあるのは、はっきりと境界を示すことができない生態系を白黒はっきりつけようとする二元論の世界観なのではないか。その二元論をぼやかし、私たちを土や環境と繋いでくれる存在としての微生物の可能性について語り合いました。「自然のシステムを模倣していくだけでは間に合わない気候変動の現状の中で、アグレッシブに生態系の再生に取り組む必要がある。」とお二人が語っていたことがとても印象に残っています。
ワークショップでは、「2045年の菌道具を考える」をテーマに、家事・恋愛・育児・スポーツ・ライブの場面において微生物を増やす・共にあるための道具を参加者の皆様と考えました。微生物を噴射するペンライト、家の中に土を内包した部屋を作る、より多くの微生物を獲得することを競うサッカーをつばを撒き散らすメガホンで応援するなど、最高のアイデアが沢山生まれる時間になりました。
アーカイブはこちらからご覧いただけます。

気候変動フィクションをテーマにした身体ワークショップを企画・開催(1月)
気候変動アクティビストとして、「現在のシステムを変えなければならない!!」というメッセージを言いながらも、そのシステムが変わった姿を想像することができない。現在のシステムがどのように問題かを知れば知るほど、変えるのが難しく思えて絶望するという感覚がありました。
気候変動に取り組み続けるためにも、「自分が生きていたいと思える未来」はどうやったら見えてくるのかずっと考えていました。その中で、「気候変動フィクション」に可能性を見出しました。
フィクションやSFは今の社会では不可能に思える未来を妄想し、そんな世界になったらどうなるだろうかという物語を生み出し、歴史的にも様々な技術を生み出してきました。現在のシステムの外に出て解決策を考える必要がある気候変動こそ、フィクションの力で”out of the box”に考えることの可能性があるのではないかと思いました。

Ministry For The Futureが邦訳される日が待ち遠しい。。!

「希望的な未来を描く」上でとても大きかったのが、授業の中で出会った”Ministry for the Future (未来世代の省)”という本です。

国連に未来世代を代弁する省庁ができるというところから始まる物語ですが、この本で初めて「気候変動を解決する未来」を初めて想像することが出来ました。この気候変動フィクション小説をベースに、実際に本の中に出てくるキャラクターたちになって身体を動かしてみるというワークショップを行いました。Social Presencing Theaterという、頭ではなく身体に委ねた時に、私たちはどうシステムの中で変化するのだろうかを理解するワークショップでした。

実際に山伏修行でも感じたことでしたが、身体に委ねた時に自分の頭では思いもしなかった形に身体は動き、自分に思いもよらぬ示唆を教えてくれます。それは微生物のような自分の中にいる存在たちに委ねることかもしれないですが、やはり身体が「気持ちいい」と感じる未来を選択したいと、このイベントを通じても感じました。
今の社会に感じている違和感や気持ち悪さを無視することなく、身体や他の生き物の視点から考えることが、より希望的な異なる未来を描けるのではないかと思っています。

終わりに

ここまで読んでくださりありがとうございます。
超長い振り返りになってしまいましたが、その分濃い休学期間を過ごすことができたのだと思い大満足です。
(授業が本格的に始まったらきっと振り返りなんて出来ないだろうと思い、半ば焦って書いた文章なので、また戻って加筆したり直したりしたいと思っていますが、ひとまず書くことができてホッとしてます。)

休学期間が始まった当初、微生物やアニミズムなど、ここまで気候変動と全く異なるように思えることをやっていてアクティビストとして大丈夫かなと不安になっていたことを思い出します。しかし根本で通底していたテーマである、「気候変動の根本を問い、解決する文化を想像する」と「異なる未来の可能性を描く」ということは変わりませんでした。

微生物に関する探求は、気候変動に対する新たなアプローチを示してくれました。人間が健康であるためには、常在微生物が健康である必要があり、そのためには元気な微生物と一緒に食べ物が育つ健康な環境が大切であるというプラネタリーヘルスの考えの先には、「個人のウェルビーングの達成が、地球のウェルビーングの達成」と重なる可能性があると思います。自分たちが気持ちよくなることをしていたら、気づかずうちに環境が良くなってたという状態を微生物を媒介してもっと作れないのかと考えています。

一方で、私たちは、微生物に「たかられている」とも言えると、ある知り合いと話していました。そう考えるとある意味、私たち人間も地球にたかっているのではないかと考えられます。しかし、それにしては「たかり方が下手だよね」と気づいた時に、今までの倫理的・正しさを基にしたメッセージではなく、人々の欲を肯定したままで「もっと賢くたかろうよ」という言葉も生み出せると思いました。生態系の中での、他の生き物へのたかり方は微生物がよく教えてくれるような気がしています。

そして気候変動の状況はどんどん緊迫しているからこそ、希望を捨てないためにどうにかして、生きたいとそれぞれがワクワクできる未来の形を妄想していきたいと思っています。私たちの想像力を解放し、それぞれが異なる複数形の未来を描くための材料を、これからも探し、提案していけるようになりたいと考えています。

そのような気候変動の異なる未来を描きたいと考えられている仲間にもバシバシ繋がりたいです。

もっと変態に、もっとワクワクキャハキャハできるよう、これからも学びを進めていきます!

2023年も、もっと面白いことがしたい!


2023年1月23日

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?