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ゴールド 金と人間の文明史-57 私的通貨と貨幣としての金

貨幣の概念はすっかり変わっていた。

君主の定める伝統的な公的通貨 -政府公認の発行物として刻印が押される硬貨- のほかに、私的通貨 -商人や銀行家のあいだの取引で支払いに使われる信用手段- がともに貨幣として流通していたのである。


現代の世界でも同じだ。

紙幣で支払う代わりに、もっぱら小切手を切ることで商売が成り立っているということは私的通貨が機能しているのである。

このやり方が最初に発達したのが15世紀から16世紀だった。為替手形の使用が普及して、見本市での取引業務が処理されるようになり、外国為替の取引がその主要な活動になっていった時代である。


私的通貨 -私的な世界で動かされるお金- は、何らかの通貨単位 -ドルやユーロなど計算の単位となるもの- で表示されなければならなかった。それが、取引の規模を定義し、支払いの当事者が使う現地通貨を定義するのに便利な「通貨交換比率基準」である。

計算単位は抽象的な概念である。小切手が動かすドルは見ることができなし、触ることも、齧ることも重さをはかることもできない。


この世紀の発展を考えると、その後の欧米における貨幣としての金の価値の歴史はここでほぼ決まったと言っていい。

ときとともに金貨の流通は減っていき、金塊はきわめて大規模な取引を処理するときなどしか使われなくなった。


だからといって、金への執着が薄れたわけではない。金の価値が低くなったわけでもない。それは、19世紀のゴールドラッシュを考えればよく分かるだろう。

だが、システムにおける金の役割は本質的に変わり始めていた。


ゴールド 金と人間の文明史 ピーター・バーンスタイン

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