見出し画像

ゴールド 金と人間の文明史-53 貨幣改鋳、インフレ、投機

戦時中にインフレが起こるのは世の常だった。

支出が一気に増え、品物やサービスの生産が落ち込むからである。


そして、戦費調達の問題をいっそう困難にしたのは税制だった。

16世紀の税制は下層階級にほぼ全てを負担させていた。そして、インフレが進行する過程で支払いを最も滞納したのは、もちろんその下層階級だった。

それゆえ、巨額の財政赤字が生じ、政府は膨れ上がる負債を抱え込むしかなかった。


この負債を解消するために二つの資金調達法があった。

一つは、スペインの「アシエント」、フランスの「グラン・パルティ」だった。いずれも、形式としては資本市場での借入であり、非公式の交渉によってイタリア、オランダ、ドイツの銀行家の口座に負債を積み上げていく従来の方法を補うものだった。

もう一つは、おなじみ -王室の資金調達法- の通貨の価値を引き下げることで貨幣供給量を増やす方法である。

カールⅤ世は1537年にようやく -コルテスとピサロが底なしとも思えた金塊の穴を見つけた後だったが- 、この方法を実行した。

ヘンリーⅧ世は1540年代の対フランス戦争を直接の契機として、1542年から1547年までこの方法を実行した。ヘンリーⅧ世の手口はあまりにも露骨だったため、それは大貨幣改鋳と呼ばれるようになった。


こうした社会情勢の中で、お金が乱費されたのは君主が政治的立場を守ろうとしたためばかりではない。

インフレそのものがどうしても支出を促すのである。

インフレになると消費者、特に事業家と農民は買いだめ -お金よりも品物の価値が高くなるため- に走る。

そして、買いだめは投機 -予想される価格の上昇に対抗するために、あるいは買った品物をもっと高い値段で売るために- の形をとる。

こうした行動が価格上昇の勢いに拍車をかけ、さらなる買いだめと投機を促すのである。


ゴールド 金と人間の文明史 ピーター・バーンスタイン

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?