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ゴールド 金と人間の文明史-52 際限のないインフレは人々に相当の圧迫感を与えた

価格上昇が最も激しかったのは原料、とりわけ食料品だった。

イングランドでは1480年から1650年の170年間で、材木、家畜、穀物の価格が5倍から7倍に上がった。一方、賃金の上昇率は日用品の半分以下だったため、貨幣の持つ購買力、労働収入の購買力は空恐ろしいほどの割合で下がっていった -際限のないインフレは人々に相当の圧迫感を与えたに違いない- こととなる。


このインフレの原因は何だったのだろうか?

当時の文献では、農業の衰退、異常に高い租税、人口の増加、市場操作、高い労働コスト、放浪、贅沢、ジェノヴァ人のような商人の策謀といくつもその原因が挙げられている。


現代の専門家のあいだでは、人口の急激な増加 -ヨーロッパではペストの流行と100年戦争による人口減を回復しつつあった- に対して食料供給が追い付かなかったことがインフレに火をつけたのだとする説もある。

農業生産高が人口の急激な増加に遅れを取ったと思われるが、それ以外にも二つの要因が食料不足を招いていた。

一つは農業が耕作から牧畜に転換 -羊の飼育の方が食物の栽培より儲かるようになった- したことである。

もう一つは労働力が都市へ流出しつづけたことである。


1538年にドイツのある著述家はこう記している。

-どこへ行っても人がたくさんいる。誰も身動きがとれないほどだ-

おそらく彼はフィレンツェを旅行してきたのだろう。フィレンツェでは1561年の一世帯の人口が7.8人 -120年前の2倍- になっていた。


ゴールド 金と人間の文明史 ピーター・バーンスタイン


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