合衆国の有権者は金本位制を選択した ゴールド101
長年に渡る景気後退と企業活動の悪化が1896年にピークに達すると、ようやく最悪の事態は合衆国で過ぎ去った。
そして、1890年代の末までに物価は10%あまり上昇した。
しかし、この時点で金本位制が完全に勝利を収めたわけではなかった。
金本位制への攻撃
1896年に銀の熱烈な擁護者は金本位制に攻撃を加えた。
その攻撃を加えたのはウィリアム・ジェニングズ・ブライアン、1896年の大統領選挙の民主党候補者だった。
そして、攻撃の相手は金本位制が優れていると力説した共和党候補者ウィリアム・マッキンリー。
貨幣制度が争点となった大統領選
1896年の大統領選は、合衆国史上唯一の「どんな貨幣制度とるべきか」が争点となった選挙だった。
選挙戦が進展するあいだ、両陣営とも本位貨幣をめぐる複雑な問題を扱った選挙用文書を大量に発行し、その問題を理解するよう支持者に熱心に説いた。
有権者がそうした啓蒙活動に参加するように求められた点でも合衆国の歴史に例のないものとなった。
※ブライアンの1896年7月9日の民主党大会での「金の十字架」演説は有名である。少し長くなるがその演説の一部を紹介する。
「われわれは、どんな布陣で戦うかを問題としません。複本位制はすぐれているが、他の国ぐにが助けてくれるまでその制度をとれないと言う人には、こう答えましょう。イギリスがそうしているからという理由で金本位制をとるのではなく、まず複本位制を回復し、合衆国がそうしているからという理由でイギリスに複本位制をとらせようでありませんか、と。彼らがあえて公開の場で金本位制をすぐれた体制として擁護しようとするなら、われわれはとことん戦います。われわれの背後には、わが国および世界中で生産に従事している民衆がいます。われわれは、通商上の利益、労働者の利益、そしてあらゆる場所で骨身を惜しまずに働いている人々に支えられています。われわれは、金本位制を要求する人たちにこう言おうと思います。この茨の冠を労働者の額に押しつけるようなことはさせない。金の十字架に人類を磔にするようなことはさせない、と」
金本位制の大勝利
この大統領選はマッキンリーが勝利した。
しかもかなりの票差での大勝利だった。
選挙戦中、ブライアンの派手な選挙戦のため国民の間では不安やいら立ちが高まり株価は暴落していた。
しかし、選挙の後一週間もしないうちに株価は急上昇し金利も大幅に下がった。
金銀複本位制は数世紀の歴史を持つ伝統的な制度だった。
しかし、現実は金が20年以上に渡って合衆国の唯一の本位だったため、有権者は複本位制に馴染みがなく、複本位制は信頼すべきでない新規の考え方と見なした。
有権者の啓蒙活動を準備し、実行するための財源を潤沢に共和党が持っていたということもあるが、有権者は金本位制を選択したのだった。
ゴールド 金と人間の文明史 ピーター・バーンスタイン
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