見出し画像

仔ギツネ観察と文庫本 (自然観察にっき)

北海道十勝地方に暮らして、はや10数年。

わたしは大学で野生動物の勉強をしてきた人間で、十勝にいるうちに毎年4~5月に「子ギツネ観察」をするようになりました。陽射しがどんどん温かくなってくるこの頃、その年生まれの子ギツネたちが、巣穴から出てくるようになるのです。そのふわふわなキツネたちを、彼らの暮らしを邪魔しない距離から日がな一日眺めるという、ワイルドなのかのんびりしているのかよく分からない時間を過ごしています。

子ギツネ観察のすすめ

絶対にキツネにストレスを与えたくないので、著名な写真家の方の書籍などを参考にして十分な距離をとり、姿も隠します。あとは子ギツネが巣穴から出てくるのをじっと待ちます。4~5分で出てくることもあれば、4時間待っても出ないときもあります。こればかりは運と忍耐です。

待ち時間のテクニック

バードウォッチングや野草を観察しながらキツネを待つのもとても豊かな時間に感じますが、さすがに1時間半くらいで他のことをしたくなります。そこで取り出すのが、最良のパートナー、文庫本です。スマホと違って電池がなくても長時間持つし、音も出ない。なによりこのアルド・レオポルド著「野生のうたが聞こえる」は、自然豊かなアメリカの風景と、野生動物たちとの出会いが鮮やかに描かれていて飽きません。さらにわたしがこの本を読む場所が場所だけに(町外れの日当たりのよい川沿いの林の土手っぱら)、まるで本の中の世界に入り込んだような臨場感を楽しめます。

豊かさを知る

木もれ日の中、シジュウカラやアオジのさえずりを聴きながら、新居を探すエゾオオマルハナバチの女王を応援しながら、そしてときどきキツネの巣穴の入り口をチェックしながら本を読んでいると、エゾヤマザクラの花びらがひらひらとページに落ちてきました。いま、春は真っ盛りだ!と感じ、胸がとても温かくなりました。子ギツネはまだ、顔を出していないのに!(笑

結局この日は、4時間粘ってもキツネたちは現れませんでした。残念な気持ちが無いとは言いませんが、子ギツネ観察をはじめて4年目。こういう日がほとんどだと知っているので、なんてことはありません。なにより、春の林に自分が溶け込んだ感覚を得られた時間こそが、とても幸せでした。

おまけ

ちなみに、子ギツネが現れていたらこんな感じでした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?