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イギリスのNHSとは#4

過去3回で、イギリスのNHSのシステムについて患者の立場から、そして医師の立場から、少し考えてみました。イギリスを離れて15年になる私ですが、医師の働き方改革がはじまって、今感じていることをまとめてみます。今回が最終回です。

完璧な医療制度をつくるのは不可能に近い

私は日本とイギリスの医療制度しか良く知りませんが、二つを比較検討してみても完璧ではありません。なぜならニーズに合った形で「制度」というものが発足したとしても、社会の変化とともにそのニーズは日々変化していくからです。「制度」は形にはめて分かりやすい体制を整えるのには適していますが、変化に柔軟に対応することにおいてはなかなか厄介なものです。これは医療制度だけではなく、政治制度や教育制度などにも当てはまると言えるでしょう。

完璧な医療制度は無理。しかし、より良い医療制度とは日本にとってはどんなものでしょうか。

現在の日本の医療制度での現実

箇条書きにしてみます。

  • 医師が働きすぎている(労働時間が長すぎる):イギリスと比較するとはこれは明らか。特に研修医についてはイギリスの医師は日本の2/3程度の労働時間であるが、それでもNHSを離れる医師を多く知っている→日本では 医師の働き方改革が始まった

  • 医師の数が足りない:例えばイギリスと日本を比較すると、イギリスでは人口1000人に対し2.8人(15年前も同等)、日本は2.4人(15年前は2.0人)。日本は医師免許を持っていてもフルタイムで勤務をしていない女医もそれなりの数がいると考えられる。(私も今は週30時間勤務に減らしている)OECD(経済協力開発機構)の加盟国38か国の平均は3.5人であり、日本はまだまだ医師不足であるといえる。

  • 医師は自分の希望診療科にほぼ100%進むことができる:これはまだまだ医師が足りていない現実があるからかもしれない

  • 地域によって医療格差がある:例えば私が住む埼玉県東部は人口がそれなりに多い割に、かなりの医療過疎地域である。これもあってか、日本でもイギリスのように地域で差が出ない様な制度をという動きはあるものの、もう少し医師の数が増えないと不可能だろう。

  • 医療費の自己負担額が3割以下。高額療養費制度を利用して月10万まで。ほとんどの自治体でこども医療費助成制度あり(ただし入院費支払い等で一旦窓口負担が必要になる場合あり):NHSは医療費はただであるが、薬代はかかってくる。子どもの処方(16歳未満)は無料だが、その他は一剤£9.90であり、解熱剤などは薬局で購入した方が安い。

  • 救急車が無料:実体験として、大雪の日に発熱のための救急車要請が多かった。救急隊に拒否の権限がないため、その場合も救急搬送先を探し送り届けなくてはならない

  • 救急車の搬送先を救急隊が見つけなくてはならない:イギリスでは救急車が要請された場所で搬送先は既に決まっているので、救急隊は直ちに搬送するのみ。ただし、救急要請が必要ない症例に関しては救急隊に搬送拒否の権限がある

  • 患者が受診したい病院を選べる:クリニックにかからなくても選定療養費を払えば、大きな病院に直接受診できる。クリニックも自分で行きたいところを選べる

  • 患者が受診したい日時を選べる:イギリスでは全くと言っていいほど選べない

  • 患者が自分で受診科を考え、行ける病院を探さなければならない:イギリスではとりあえずGPに相談したら、それなりのところにつなげてもらえる。これは医師の立場であってもかなりありがたい制度である。実際私は自分のことを相談できるかかりつけ医が欲しいと日々感じている。

色々課題はあります。が、意識改革はすぐにできます。違った視点から物事を俯瞰してみることによって、気がついたり見えてきたりした時がそのチャンスです。意識改革から少しずつの社会は動いていきます。この記事がその糸口となったら嬉しいです。


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