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イギリスのNHSとは#1

先月から、医師の働き方改革がはじまりました。それもあってイギリスの医療制度について質問されることがちょこちょこあったので、改めて日本とイギリスの医療制度を比較してみました。

患者の立場から

日本では比較的最近乳幼児医療費の自己負担が0割になりましたが、イギリスでは年齢問わず、自己負担が0で有名な医療制度、NHSがあります。そこだけ切り取ると「いいじゃん」と思うかもしれませんが、実情はだいぶ違います。

まずは日本で話をしても、あまりピンと来ないGPのシステムです。GPはgeneral practionerの略で、日本語では「家庭医」と訳されることがあります。日本の公立の小中学校のシステムを想像してもらうとわかりやすいと思います。A市〇〇という地域に住んでいる人は、その通学圏内の学校に通うことになりますね。選べるとしても2−3カ所から一つ選ぶことになると思います。同時に2カ所の学校に通うこともできません。GPの仕組みはそれに非常に近く、居住地によって登録できるGPが5-6件存在します。ひとりGPのところもありますが、大抵の場合2−3人、大きいところになると5−6人の医師が一つのクリニックに属しています。1カ所のGPに登録をし、そのGP内にいる医師の診察を希望することができます。

イギリス人は風邪や発熱では基本受診はしません。咳や発熱の症状で予約をとろうと電話をすると、受付で「それは大変ね。Boots(薬局)で解熱剤を買って、水分をとって、3日間ぐらいおうちで寝てなさいね」と返答されます。予約はとらせてもらえず、受診もできません。

例えば、もともとお腹が弱く、下痢をしやすい人がいるとします。その人がここ1週間は特に軽い腹痛と下痢を一日3から4回しているとします。受診しようとしてGPに電話をすると、受付で「それは大変ね。一番はやいところだと、来週の木曜日の15:20だけど受診できる?」という感じの返答がきます。今日診て欲しいというリクエストはほぼ無理で、数日は待つことになりますし、基本時間指定はできずクリニックが指定した時間に受診します。交通機関の遅れ(イギリスの交通機関は遅れるのが普通です)などで15分予約の時間に遅れてしまうと、必ず咎められます。遅刻や無断キャンセルを3回繰り返すとそのGPでの登録は解除されてしまいます。そして、一つの予約で1件の相談しかできず、「ついでに他のことを相談」ということはできません。

また、高齢のおばあちゃんが年々膝が悪くなってきていて、GPが膝関節置換をすれば、彼女のQOLが上がるのではないかと判断したとします。GPからその地域の基幹病院の整形外科に紹介状を書きます。基幹病院の整形外科から「◯月◯日 10時に外来に来てください。」という手紙が届き、これは普通数ヶ月後の日付が入っています。(都合が悪く予約変更をすると、更に数ヶ月後になります)無事、基幹病院の整形外科を受診し各種検査をした後、手術をした方が良いという結論に至ったとします。実際手術をするのはその半年後ということも稀ではありません。

例えば、60代男性が胸痛でGPに問い合わせたとします。糖尿病や高血圧の既往がある男性です。すぐにGPに来てくださいと言われます。GPが診察を行い、狭心症の可能性が高いと判断、すぐに地域の病院に連携し救急車で運ばれます。NHSのシステムではどこで狭心症を起こしても、30分以内に病院に辿り着けるような地理的配置になっています。

何が言いたいかというと、イギリスの医療システムでは、命に直接関わることでない場合、かなり「待つ」ということです。そして患者さんにあまり選択肢はありません。もちろん心筋梗塞だったり、悪性腫瘍だったり、はやい対応が必要なことに関しては待ちませんが、利便性のための選択肢は患者にはありません。「待てない」「お金持ち」はプライベートの病院にかかります。プライベートの病院には、患者の立場からも医師の立場からも関わったことがないので、実際どのようなサービスなのかはわかりませんが。

私個人としてはイギリスの医療制度は、必要なところに必要な治療を届けられる医療と思っています。実際私がGPに行ったのは10年で15回程度。生理不順のためホルモン療法をしていたので年3回程度通院していました。救急外来のお世話になったことはありません。風邪は人並みにひきましたが、薬局で解熱剤を買って使用するぐらいで、咳や鼻汁に関してはあまり内服しませんでした。これは日本に帰ってきた今でも変わらず、自身の子供にも風邪薬を内服させることはあまりありません。

さて、今日本では医師の働き方改革がはじまっています。もし、日本でこのGPの体制が導入されたら、皆さんはどう感じますか?


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