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片翼の天使 - 2章

地上の季節が
春、夏、秋、冬、と
回り回って、時が経ち
天使も季節の変化を
理解出来る様になってきた。

今日は川の側で
水の流れを眺めて過ごし
ポカポカ陽気の中、
ボンヤリとしていた。

そんな時に
妖精に話し掛けられた。

「ねぇ、天使様。
1日で色が変化する花があるって
聞いたの。
天使様は知ってる?」

「え?…あぁ!多分、
酔芙蓉の事じゃないかしら?」

ぼーっとしてる時だったので
慌てて妖精に答えた。

「本当に、そんな花あるの?」

「有るわよ」

「見てみたい!何処に、あるの?」

と妖精が天使に詰め寄る。

「何処って…。
此処からじゃ少し遠いわよ」

「天使様、連れて行って。お願い‼」

と妖精に懇願されて連れて行く事に
なってしまった。

ーーー

森に有る酔芙蓉を見る青年。
幼い頃を思い出し花に見入っている。

青年を探していた女性が青年に

「シン。探したよ。
また、ここに来てたの?」

と、呆れた様子で声を掛ける。

「あぁ、アンリごめんね。
この花が咲くと
毎年、見たくなるんだ」

と嬉しそうに言う。
シンが酔芙蓉に
真っ白い翼を持つ、あの人を重ねて
見ているのは明白。

シンにとって、あの人は恩人であり
それ以上に思いが
有るのかもしれない…。

アンリがシンに
それとなく好意を伝えても
上手く躱され続けてた。

ー何時も、側に居るんだから
 私を見てよ

と、思う日々が続くだけ。

幼い頃から一緒に居て
お互いの事を良く知ってる。
だからこそシンに好意を持って
貰えない事に淋しさが募るだけ。

いつかシンに
思いが通じる日が来ると信じてる。

だって、
私は幼い頃から
シンだけしか見ていないから。

幼き頃の思いを
変わらず持ち続けているアンリと
酔芙蓉を見ていたシン。

2人の間に
バサッと風が吹き抜ける。

アンリは驚き眼を閉じ
シンは振り向く。

すると、
シンの前に
真っ白い羽根が
フワリフワリと落ちて来て
思わず手に取った。

その羽根は
綺麗な真っ白。
あの翼の有る
あの人を思い出させる。

会う事はもう無いと言われてたが
毎年、酔芙蓉が咲くと思い出さずには
いられない。

人では無い、あの人。

手の中の羽根を見つめて
思わず

「サラ?」

と言っていた。
天使は名前を呼ばれ驚いた。
知らない人間に呼ばれたからだ。

人間に見つからないよう
妖精と共に姿を隠し、
この森に来たのだ。
天使は人間に問い掛ける。

「誰?何故、私の名前を知ってる?」

私の姿を見た2人の人間は
驚いた顔をしていた。

シンは、

─まさか再び、会えるなんて─

と、信じられ無い気持ちで
一杯になった。

それと、サラが初めて会った時と
全く変わらぬ姿にも驚いた。

まるで、
歳をとっていないかの様に
見えるのだ。

─そんな事って
  有るのだろうか…─

驚きと不思議な気持ちで
サラを見つめ、

「僕はサラに幼い頃、
怪我を治してもらったシンだよ」

と告げた。
そう言われ、サラは驚き
シンの姿を改めて見てみる。
サラの記憶の中のシンは
幼い子供の姿のまま。

こんな、青年に成長してるなんて…。
サラは想像もしていなかった。
シンと視線が合うと人懐っこい笑顔で
笑いかけられる。

一緒に来た妖精がサラの耳元で

「天使様、人間と知り合いなの?」

と妖精は怯えながら言う。
妖精は人間が怖いのか
人間に見えぬ様に姿を隠したまま。
サラは妖精の言葉に頷いた。
そして、シンに話し掛ける

「シンだと気付かなくて、
ごめんなさい。
見違える程に変わっていて…

元気にしてた?」

「勿論、サラのおかげで
この通り、元気に過ごせてたよ」

と、怪我した所を軽く叩いてみせた。
シンの側に居たアンリが
サラに

「驚いたわ。あなたは変わらないのね。
まるで、歳を取ってないみたい」

と、アンリに言われ
サラは近くに居た女性が
あの時の女の子だと気付いた。

「私達は人間と違って長い時を
生きるからだと思うわ」

と、サラは答えた。
アンリは長い時とは?と、
思いはしたものの、
それ以上聞く事はせず

「そうなの?」

と曖昧な返事。
今度は、シンがサラに

「此処には、何しに来たんだい?」

と聞いた。サラは

「酔芙蓉を見に来たの。
此処のは綺麗だから」

と微笑みながら言う。
シンはサラを見て
幼い頃は、優しく笑う表情が
印象的だったが、今の笑顔は…
綺麗だと思う。

こんなに綺麗な笑顔は見た事がない。

子供の頃は気が付かなかった。

サラの持つ美しさに。
整った顔立ち艶のある長い髪
真っ白い翼。
そのどれもが、綺麗で…

だから僕は

「さっき落ちて来た羽根。
サラの?僕が貰って良いかな?」

と聞いた。サラは、あっさりと

「良いわよ」

と言った。
僕は嬉しかった。
まるで宝物を手に入れたみたいで。

「ありがとう。大切にする」

と言って、羽根を大事にしまった。

ーーー

アンリは皆と別れ家に着いてから
今日、あった事を父親のダンに話した。

父もシンが怪我した時に翼がある、
あの人に会った事あるので
とりあえず、話しておきたかった。
話しを聞いたダンは

「長い時を生きるって
不老不死って事か?」

「そんな感じ、じゃない?」

私は、話しの途中で
シンが羽根を貰った時の
嬉しそうな笑顔を思い出し
不愉快な気分になってきた。
そんな私にダンは

「怪我を治せる
不思議な力もあったからなぁ。
何か肖りたいものだな」

と言う。
内心ムカムカしていた私は自暴自棄に

「そんなに肖りたいなら
羽根でも貰ったら‼
シンは貰ってたわよ」

と言った。
父は、まだ話したがっていたが
私は、あの人の事を話す気分では
無くなった。

「お父さん、悪いけどもう寝るわ」

と言って、私は自分の部屋に行った。

ーーー

仲間の元に帰ったサラは、
再び人間に会った事を話したら
前回と同じ様に心配されてしまった。

「私達が、
人間と会う事が
罪になる事は無いけれど
自分と違う存在が居るってだけで
諍いが起こる事があるのよ」

と言われた。
サラは仲間の言う事が
分からなくはないけど、
言葉が通じるならば
そう、悪い事は起きないのでは?と、
気楽に思っていた。

ーーー

アンリの父、ダンは稼ぐ為に
街に出て働く事があった。

その日は、泊まりで稼ぎに出ていて
夜は飲み屋で
仕事仲間と酒を飲んでいた。
ダンは、酒に酔った勢いで
シンの怪我の時の事と
アンリから聞いた話しをしていた。

だが、仕事仲間は
ダンの話しを信じられない感じだ。

「そんなもん、お前の作り話だろう?
酒に酔ってるからってホラ吹くなよ」

「嘘じゃねーって!
そん人の羽根も貰ったって言ってたし、
俺も、見た事あるんだぞ‼」

と話をしていると、
知らない奴に声を掛けられた。

「その話が本当ならば
その羽根、俺も見てみたいなぁ」

と突然、話に割り込んで来た。
ダンは、見知らぬ男に

「誰だ?お前ぇ?」

と言うと

「俺?俺は、まぁ誰でも良いじゃん!
ねぇ、その羽根を見せてもらうこと
出来ないかなぁ?」

と軽い感じで言われ、ダンは

『酔っ払いだと思って
 揶揄ってるんだな!コイツ!』

と思い、

「お前には関係ない話だ!
あっちに行けよ!」

と追い払おうとしたら

「もし、その羽根が本物なら、
高値で買い取るよ?」

と耳打ちされた。

ーーー

翌朝、ダンは帰り支度をして
宿屋を出て行こうとしたら
俺に客が居ると言われ行くと、
昨夜の見知らぬ男が居た。

『あいつは昨夜の…』

ダンが近付くと見知らぬ男が

「昨夜、言った
羽根を高値で買うって話は…
本気だよ」

と笑いながら言った。

昨夜、飲み屋で、見知らぬ男は
たかが羽根に、とんでもない値段を
耳打ちして言ってきた。

俺が一生賭けても稼げない額だ。

羽根が欲しい理由は分からないが、
この男と知り合いになれば
損は無さそうだ。
ダンは

「アンタ何者だ?」

と聞いた。見知らぬ男は

「俺かい?
領主の息子って言えば分かるかい?」

と言った。領主の息子って言えば
噂でも有名な放蕩息子。
なる程、金なら有り余る程、ある筈だ。

コイツに、羽根を渡せば
俺は遊んで暮らせる程の金が
手に入る。
こんな、美味しい話。
乗らない訳にはいかない。
と思いながら
ダンはニヤニヤと笑う。

ーーー

領主の息子は
心を闇のモノに侵食されし者。

飲み屋での話を聞いた時直ぐに
『天使の羽根』だと気が付いた。

羽根さえ有れば
天使をおびき寄せる事が
出来るはずと、
領主の息子は、誰にも気付かれぬ様に
独り、ほくそ笑む。

ーーー

家に帰ったダンは
娘のアンリに

「シンが貰ったって言ってた
羽根を譲って貰えないか
聞いてみてくれないか?」

と、言う。アンリは訝しげな表情で

「何でよ?」

と、聞くと

「街で翼がある、あん人の話をしたら、
その羽根を
なんと!欲しいって言う人が
現れたんだよ!!」

と嬉々として語る。

「そん人さぁ、
羽根を一生、遊んで暮らせる程の金で
買い取るって言ってるからさぁ…
なぁ、何とかシンから
貰って来れねえか?」

とアンリに言う。
アンリはシンが羽根を
誰かに譲る筈ないと思い

「無理よ!」

と言うと

「盗んででも良いから貰って来いよ」

とダンは
アンリに怒気を含んで言った。

ーーー

アンリは、

『いくら父親の言う事でも
 聞けない事があるわ』

と、思い、
道を歩いていると、シンに会った。

シンの首からは、布袋が下がっていた。

貰ってた羽根もあの布袋の大きさ、
くらいだったと思い
指差しながら

「シン、もしかして
羽根が入ってるの?」

と、聞いた。
シンは嬉しそうに

「そうだよ。御守りに、なると思って」

と笑顔で言う。
アンリは複雑な気持ちで

「もし、私が羽根が欲しいと言っても
譲って貰え無いよね?」

と一応、聞いてみた。
シンは

「悪いけど、あげる事出来ないよ」

とシンが言った。
アンリは内心、そう言われる事は
分かってたけど、
シンから、はっきりと言われた事に、
ショックだった。

『シンは、あの人の事が好きなんだな』

そう、改めて分かった気がした。


ーーー

アンリが家に帰ると
父のダンが居て顔を見るなり

「羽根は貰えたか?」

と聞いてきた。
アンリはダンの態度に呆れながら、

「シンが大切にしている物を
貰える訳が無いでしょう」

「貰え無いなら多少、金払うからとか
色々、方法はあるだろ?」

「お金を払っても譲る気が
無いと思うわ。もう、諦めたら?」

とダンに諭す様に言ってみたが、
聞く耳を持たずに

「じゃあ、明日はシンに直接、
譲って貰えないか聞くわ」

と言った。ダンの様子が何としても
手に入れたいと思ってる様に見えた。


ーーー

シンが朝起きたら
妹が熱を出して魘されてた。

妹の症状を近所の婆様に
見て貰ったら

「高熱の出る流行り病だろうから
早めに熱を下げる薬を
飲ませた方が良いだろう」

と、言われた。
薬は街まで行かないと無い。
それに、お金も僅かばかりしか無い。

『手持ちの、お金で
 薬が手に入るかどうか…』

なんて考え、気ばかり焦る。

ただ、苦しそうな妹を見ていると
何とかしてあげたい、と思い

「母さん、僕が街まで行って
薬を買って来るから」

と、シンは言った。シンの母は

「薬代の足しに持って行って」

と死んだ父さんのから貰った髪飾りを
シンに渡した。
とても、母が大事にしていた物だ。

「此れは大事な物だろ?
持って行けないよ」

「娘が助かるなら安い物よ。
お父さんも許してくれるわ」

そう言って、清潔な手拭きの布に包んで
シンの手に持たせた。

「分かった。預かっておくよ」

と、母の気持ちを受け取った。
母も僕も妹を助けたい気持ちは
同じ位に強い。だから、

『きっと薬を手に入れて
 帰ってくるから』と、

そう、願いを込めて
シンが大切にしていた
サラの羽根を妹の枕元に置いた。

ーーー

少しでも早く薬を買って帰りたいと
言う思いから、近所に住む
アンリの家を訪ねた。

そのアンリの父親は街に
度々、仕事に行っていた為
馬を持っていたからだ。

話を聞いた、アンリの父親は

「それは大変だ。直ぐに街に行こう」

と言ってくれ
直ぐに出る支度をしながら

「街まで、俺も一緒に行ってやる。
良い薬屋も知ってるから
案内してやるよ」

と言われ、シンは有難かった。

「助かります。有り難う御座います」

と、シンは
アンリの父親に頭を下げ感謝した。

ダンが奥の部屋に行った
隙を狙ったかの様に
アンリがシンの側に来て

「シン…。あの、
とにかく、気を付けて…」

と、心配顔でシンに言う。
シンの妹の事が心配で
言ってるんだと思い、

「大丈夫。薬を直ぐ、
手に入れて戻って来るから」

と言った。
だが、アンリは首を振り小声で

「そうじゃなくて!
今、詳しく言え無いけれど
シン、本当に気を付けてね!」

と言われた。
アンリはシンの事を
心配している様子だった。
シンは何で
心配されているか分からず、

「ぇ?あぁ、気を付けるよ」

と言った。

シンはアンリの心配そうな表情が
気になりはしたものの、
ダンの、

「シン。準備出来たから行くぞ!」

と、声を掛けられて外に出た。

ーーー

馬に乗って街までの道のりの間
ダンに

「もし、薬代が足りない時は
僕は街で薬代を街で稼いで行くので
薬を先に妹に届けてくれませんか?」

「なんだ、金目の物を
持って来たんじゃないのか?」

「一応は…」

と、言って鞄の中にある、
母から預かった物を
布に包まれたままで見せた。

「でも、売るのは…
なるべく売らずに済ませたいんだ」

と、シンは言った。
すると、ダンは、
ニヤニヤ笑いながらシンをみる。
そして、

「売りたい物があるなら、
高値で買い取ってくれる人を
知ってるよ」

とシンに言う。
シンは、ダンのニヤニヤ笑いに
背筋がゾッとする。
ダンに何かの違和感が有った。
だが、それを無理やり打ち消し、

「分かった。もしもの時はお願いする」

と言い、先を急いだ。

街に着いてから
直ぐに、薬屋に行き
薬の金額を聞いたら思った以上に
高い。持金では、足りない。
だから僕は

「直ぐに金になる仕事紹介出来ないか?
薬を早目に欲しいんだ」

と薬屋に聞いた。

「直ぐに金になる仕事なら
領主様の屋敷に行った方が
早いんじゃないか?
屋敷では人手が欲しいと聞いたよ」

と店主が言った。

シンと一緒に来た、
ダンは少し前迄
そんな話を、聞いた事なくて

「領主に何か有ったのか?」

「さあ?なんでも男手が要るらしいよ」

それを聞いてシンは

「其処で、雇って貰えたら
薬を先に、貰えないですか?
足りない分は、
其処で、働いて払いますから!
お願いします!」

と店主にお願いした。
店主は仕方無さそうに、

「領主様の所に雇って貰えたなら
お金は後で良いよ」

と言ってくれた。シンは店主に

「有り難うございます!」

と言って薬屋を出た。

ーーー

シン達は直ぐに領主の屋敷に行き
屋敷の者に仕事を探している事を
伝えた。だが、其処で聞いた話は

「領主様は、屈強な体格や力を
持っている者を探している。
お前達は、その条件に、
当て嵌まらないのでは?」

と言われた。
屋敷の者が門の奥の広場を
指差した方を見てみると、
熊でも倒せそうな大男がいる。
屋敷の者は続けて、

「領主様は、あの者の様に強い者を
集めているのだ」

と言われた。
大男は広場で鍛錬中で
力強さが見ている者に伝わってくる。

シンは、その大男に比べると
足元にも及ばないと思う。
だが、妹の為にも諦める訳にもいかず
屋敷の者に、

「男手が欲しいなら何でもしますから!
雇って貰えないですか?」

と言うと、
屋敷の者がシンを冷めた目で見た。
そして、屋敷の者はシンに

「領主様は
『人を殺せる程の強い者なら尚良い』
と言っていた。お前に出来るのか?」

と言われ。
シンはゾッとした。
とてもじゃ無いが
それは出来ないと思い
もう、
その場を立ち去るしかなかった。


ーーー

屋敷の広場を眺めながら
年老いた領主が息子に問う。

「お前の言う翼の有る者を捕らえれば
長寿の力を得る事が出来るのだな?」

「勿論ですよ。
人よりも永く生きる存在。
その者の血肉を手に入れれば、
長寿が手に入ったも同然ですよ」

笑顔で答える息子。
それを聞いて不敵に笑う
年老いた領主。

「それと、翼が有る奴らは
直ぐに、飛んで逃げようとしますから、
捕まえたら逃げられ無い様に
翼を切り落とした方が良いですよ。
この剣で。」

と年老いた領主に剣を差し出した。

その剣は切れ味鋭い幾人もの者を
斬り付けてきた呪われた剣。

闇に蠢く汚れた者達をも
斬りつけてきた。

その剣で、天使に斬りつけるなんて
見物だな。

と、領主の息子は不敵に笑う。

年老いた領主が広場の大男を
眺め見ているので
息子も広場の方を見てみると
門の所には、
"あの飲み屋の男"の姿が有った。
側には若い男もいる。

─もしかしたら、思っていたよりも
 羽根が早く手に入るかもしれない─

と思い。
嬉々として使用人を呼び付ける。
そして領主の息子は使用人に、

「今、門の所に居る男2人に
『屋敷に用が有って来たのなら、
 私が聞いてやるから』と、
言って連れて来い」

と、使用人に命じた。

ーーー

仲間の元に居るサラは
熱も無いのに身体に気持ち悪さを
感じていた。
不愉快感が抜けず我慢出来ない、と思い
年長の天使の元に相談しに行った。
年長の天使はサラに

「何も身体は異常は
無いみたいだけど…?
具合悪い感じがするのよね?」

「はい。そうなんです…」

「何かしら?変な物を食べたとか
何時もと違う事をしたとか
思い当たる事は無いの?」

と聞かれても、

「何時も通りに過ごしてますし
何も変な事はしていないと……!!」

サラは言葉を続け様として
急に戸惑った。
何処からか声が聞こえてきたのだ。
そんな、サラの様子を
見ていた年長の天使が

「どうかしたの?」

と聞いてきた。サラは、

「声が聞こえてきて…
『苦しい…辛い…』って何かしら?」

それを聞いた年長の天使は、
何かに気付いたらしく

「サラ、あなたの羽根を誰か拾って
持ってる者がいるんじゃないかしら?
サラの羽根を持ってる者が
具合を悪くしてると
サラに伝わって来るのよ」

と言われ、サラは驚いた。

「羽根に、そんな力があるの?」

「知らなかったの?
羽根は地面に落ちたら消えるけど、
誰かが落ちる前に拾ったなら
消え無いわ」

と言われた後、サラは恐る恐る

「羽根は拾われたんじゃなく
私があげたの…人間に…」

と、言うと年長の天使が呆れた顔で

「人間に関わらない方が良いって、
知らなかった訳じゃ無いでしょう!」

「ごめんなさい。
羽根でこんな事になると、
思って無かったから」

「とにかく、自分の羽根を
取り返して来なさい!」

「分かったわ」

と、サラは答え地上に
直ぐに、行く事にした。


ーーー

地上に行く途中でふと、
年長の天使が、

『羽根を持ってる者が
 具合を悪くしてると
 サラに伝わって来るの』

と、言っていた事を思い出す。

もしかしたら
シンが今、具合悪く
しているって事なの?

と、心配になってきた。
地上に着くと、顔馴染みの妖精に

「天使様、お久しぶりです」

と声を掛けられた。
少し焦った様子の
サラが気になったのか

「何か、有ったんですか?」

と聞かれた。
その妖精に羽根の事を話すと

「天使様、私も一緒に連れてって下さい。
協力しますから」

と言ってくれた。
サラは独りでは、少し心細かったから
嬉しかった。

「有り難う。
そうしてくれると助かるわ」

「天使様、羽根の場所は
分かってるのですか?」

「私の羽根だから何方の方向に
有るのか、意識すれば解るわ」

と、言って妖精と一緒に
サラの羽根の有る方へと行く。

ーーー

サラと妖精が羽根の気配を辿って
着いたのは、
小さな村の一軒家の窓の側。

「天使様、此処なの?」

「そうみたい、
此処から中に入るわよ」

と家の中に入った。
すると、其処には熱に魘されて
眠ってる人が居た。
サラはその者の顔を覗き込んで見た。随分と苦しそうな表情で
熱に魘されてる人間。
シンに似ているがシンでは無い人。

そう言えば、妹が居ると話していた。
妹かな?と、
思い額に触れてみる。
側に居た妖精が

「此の人間、苦しそうね。助かるの?」

「熱が引かなければ
危ないかもしれないわ」

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