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『ルール34』の起源とか発展とかの解説

『ルール34』とは

 『ルール34』をご存知でしょうか。

Rule 34: There is porn of it.
Rule 34: If it exists, there is porn of it.
Rule 34: If it exists, there is Internet porn of it.
Rule 34: If you can imagine it, it exists as Internet porn.

 これらの記述で表現される、インターネットにおけるポルノの普遍性を説明した英語圏のインターネットミームです。これらの文章の後ろに「No exceptions.(例外なし)」と付くパターンもあります。

 掲載されるウェブサイトによって表記に細かい差異はありますが、まとめて日本語に意訳すれば以下のようになるでしょう。

ルール34:どんなものにでも、それのポルノがある。例外は無い。

 日本には似たような概念のミームとして『ネッ広』がありますが、これは「説明」というよりは意外性や感嘆の表現でしょう。

 『ルール34』は言語を跨いだインターネットミームとしては最も有名なものの一つと言えるでしょう。このミームはインターネットカルチャーに多少詳しい方なら目に入れたことがあると思います。

 一般的に『ルール34』は、インターネット上のあるあるネタや経験則を「規則」としてまとめた4chan(のランダム板/b/)発祥の『Rules of the Internet』というネットジョークの中の一つであると説明されます。

 日本語ではニコニコ大百科やピクシブ百科事典などでこのミームが解説されています。

 またその起源に関してはWikipediaが出典付きで説明しています。

 しかし起源についての記述はどれもあっさりしており、内容についても簡単な説明のみでミームの解説としては少し物足りません。といわけで備忘録がてら、インターネットで集められる限りの情報を集めてまとめたものがこのnoteになります。翻訳のガバはご容赦ください。(『Rules of the Internet』の全体像についてはそのうちまとめたいと思います)

『ルール34』の起源

 先にも述べたように、一般的に『ルール34』はジョークルール『Rules of the Internet』の中の一つであると説明されます。しかし時系列を調査すると、この説明には少し解説が必要であることがわかりました。では『ルール34』はいつ、どのように生まれたのでしょうか。

 オンライン上で話題になった画像や動画、キャッチフレーズ、ウェブサイト、ネット上の有名人(インターネットセレブリティ)など、様々なインターネットミームやオンライン現象の記録と解説を行うウェブサイト「Know Your Meme」では『ルール34』の起源を以下のように説明しています。

Lurkmore Wiki(インターネットのサブカルチャー、民間伝承、ミームを解説するロシア語のMediaWikiを活用した非公式オンライン百科事典)によると、『ルール34』はZoom-Outというサイトに投稿されたウェブコミックに由来し、そのページは2004年10月5日にGoogleにキャッシュされていたという。
2009年5月、Something Awful (アメリカのユーモアサイトの電子掲示板)ユーザーのElectric Eggsというハンドルネームの人物が、「Ask me about inventing Rule 34(ルール34の考案について質問してください)」というタイトルのスレッドを投稿した。その中で彼はIRCのチャットルームでこの格言を学んだ後、妹とそのウェブコミックを創作したと主張している。

 しかし現在Lurkmore Wikiには『ルール34』を独立した項目として説明しているページは存在しません。

 またWikipediaでは『ルール34』の起源を(日本語版、英語版どちらも同じ内容で)以下のように説明しています。

『ルール34』は2003年にZoom-Outというサイトに投稿された『Rule #34 There is porn of it. No exceptions.』というタイトルのウェブコミックが発祥の可能性がある。これは『カルビンとホッブス』(『ピーナッツ』のような漫画)のパロディポルノを見た者にショックを与えるために、ピーター・モーリー・スーターという人物が描いたものである。

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 結局、詳しくはどういうことなのでしょうか?  Know Your Memeの解説ページの翻訳と情報の出典をもとに詳細を調べました。

 Something Awfulの質問スレッドは2009年5月19日に立てられており、その当時のセッションの様子を下記のアーカイブから窺うことができます。

 このスレッドでスレ主(Electric Eggs)は『ルール34』について以下のように説明しています。

・当時、自分と妹は一緒にウェブコミックを創作して遊んでいた。
・自分がストーリーを考え、妹が絵を描いていた。
・ほとんどは大したものではない(drossな)内容だった。
・それなりにフォロワーがいて、時々冗談を言ったりして楽しんでいた。あの頃はよかった。
・ある日、誰かが『カルビンとホッブス』のパロディポルノを送ってきた。
・それを受けて、インターネット上のポルノの範囲がいかに馬鹿げた広さを持っているかについて、ちょっとコミカルな一コマ漫画を描いて投稿した。
・その後は大学や私生活が忙しくなったこともあり更新をやめた。
・ある日、自分が参加していたIRCのチャットルームで『ルール34』について誰かが話し始めた。
・驚いてGoogleで検索してみたところ有名なネットミームになっていることに気付いた。
・発端となった絵は自分の家のロフトのどこかにしまってあるはずだ。

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 (↑このイラストが当時投稿されたウェブコミックだそうです)

 上記のスレッドでは起源とされる漫画を描いた人物の本名(ピーター・モーリー・スーター)は出てきません。人物名についてはWikipediaに出典として挙げられている下記の書籍に記載されているようです。

 この書籍の中で『ルール34』の起源を説明している部分を下記の書籍から日本語で参照できます。

 この書籍の内容を引用しているニューズウィークの記事が存在します。該当部分は記事の2ページ目から登場します。(この記事自体が上記書籍を一部抜粋した紹介記事になっています)

 この記事の内容をまとめると以下のようになります。

・2003年、ピーター氏がまだ16歳だったころ、彼の友人から『カルビンとホッブス』に登場するカルビンと彼の母親が激しいセックスをしているパロディポルノが送られてきて、それに非常にショックを受けた。
・その後、その時の自分の様子を描いた一コマ漫画を作成し「インターネットルール34 どんなものでもポルノになる」というキャプションを付けて画像共有サイトに投稿した。
・サイトに載った漫画はすぐに流れてしまったが、キャプションはネット上でまたたく間に広まった。

 Something Awfulのスレッドで語られている内容と一致します。

 これらの情報をまとめると、『ルール34』はピーター・モーリー・スーター氏が自分の漫画にジョークとしてナンバーを振ったキャプションが起源であり、『ルール34』の発祥は『Rules of the Internet』より先にあった、ということになります。

 すなわち、
・ジョークとして『Rules of the Internet』が成立した。→その中の34番目のルールが『ルール34』である。
 という流れではなく、
・「インターネットには様々な規則や経験則をまとめたルール一覧が存在し、その中の34番目にこのような記述がある」という架空のルールを持ち出したジョークイラストのキャプションがミーム化した。→その後、その他のルールを埋める遊びが発生した。
 という流れだったと考えられます。

 つまり『ルール34』は『Rules of the Internet』の中の一つというよりは、それ単体で独立したネットミームであり、そして『Rules of the Internet』の核であるということですね。(もっとも、現在においては『Rules of the Internet』の中の一つと表現しても問題ないと思います)

*補足
 ミームとしての『Rules of the Internet』の出現が2006年以降なので『ルール34』がそれより前から存在していたことは間違いありません。
 しかし2000年初頭にネチケットという言葉があったように、当時はネット社会のマナーやローカルルールに対する意識が高く、それ故それに関するジョークも多数あったのかもしれません。そのようなものがあったのなら、「2003年頃のオンラインコミュニティでは『インターネットには成文化されたルールがある』というジョークがよく話題になっており、ピーター少年はそれを踏まえてキャプションを考案した」という可能性はあります。
 また『Rules of the Internet』の成立以前からインターネット上のルールをでっち上げる「遊び」が存在していても不思議ではなく、『ルール34』はそれらの「なんとなく言及されていたルール」を集合させるきっかけになったのかもしれません。

 Know Your Memeではピーター少年が「インターネットにおけるポルノの普遍性についての格言」を知った後に漫画を創作したと説明していますが順序が逆なようです。Wikipediaの記述は少しわかりにくいですが「パロディポルノの存在を知った者に、このようなルールがあると知らしめてショックを与える」という意味なのでしょう。

 2003年にイラストがZoom-Outに投稿されてから『ルール34』の概念はあっというまにインターネット上に拡散し、2004年頃には英語圏インターネットコミュニティの共通認識として受け入れられるまでになりました。しかし初めて「よく使われる修辞である」として辞書系サイトに登録されたのは2006年に入ってからでした。2006年3月30日にNukeitallというユーザーがパロディ系辞書サイト「Urban Dictionary」に投稿したのが初めてとのことです。

*補足
 2008年2月17日に/b/で「Rule 34 thread」というスレッドが立てられ、『ルール34』を示す画像を大量に投稿する「祭り」が発生しています。既にスレッドが落ちているため画像を見ることはできませんが、当時スレッドが大いに盛り上がっていたことが下記のURLから窺えます。このため、「『ルール34』は2008年にインターネットに登場し始めた」と説明している辞書もあるようです。
https://web.archive.org/web/20080310045632/http://4chanarchive.org/brchive/dspl_thread.php5?thread_id=54532196

『ルール35』

 日本ではあまり知られていませんが『Rules of the Internet』には『ルール34』を補足する『ルール35』というルールが組み込まれています。

 『Rules of the Internet』自体が歴史のあるミームで、時代が下るにつれて拡張・記述の修正が繰り返されています。そのため『ルール35』はいくつかの種類がありますが、概ね以下の2種類で、初期は上、後期は下の内容で記述されています。

Rule 35: The exception to rule 34 is the citation of rule 34.(ルール34の例外はルール34の出典である)
Rule 35: If no porn is found at the moment, it will be made.(現時点でそれのポルノがなければ、将来的に作られる)

 初期の『ルール35』の「citation」は「出典」や「引用元」を意味します。つまり「創作ポルノの元ネタは例外」という意味ですね。(Wikipediaで[要出典]の注意書きをよく見かけると思いますが、英語では[citation needed]と記述されます。ちなみにそれ自体もミーム化しています)

 また後期の『ルール35』の記述は、より強力に『ルール34』の穴を塞いでいると言えるでしょう。あまりにマイナーな題材や新しく生まれたものなどは当然ながら例外になるわけですが、それでも人目に付けばいつかは創作ポルノの元ネタになるということです。

 『ルール34』と『ルール35』の概念をまとめると「ポルノに関するシナリオ、テーマ、スタイルなどの想像を挟む余地がわずかでもあれば、絶対に無いと思えるようなものでもそれのポルノは既に作られインターネット上に存在している。もし見当たらなくても、それが作られるのは時間の問題である」と説明できるでしょう。(日本にはキャラメルコーンやエビフライをテーマにした総受けエロ同人誌が存在しますからこの概念には説得力があります)

『ルール34』の発展

 Googleトレンドを用いた調査では『ルール34』は『Rules of the Internet』に記載されるあらゆるルールの中で最も検索されているルールであり、他を突き放した圧倒的な検索件数を誇ります。

キャプチャ

【Google トレンドによる調査】
https://trends.google.com/trends/explore?date=all&q=Rule%2034,the%20rules%20of%20the%20internet,the%20100%20rules%20of%20the%20internet,rules%201%20and%202,Rule%2064

 今や『ルール34』は国境や言語を越えて崇拝すべき名言として扱われています。また多くのメディアや研究者、作家たちも興味深いミームであるとして好意的に評価していると言えるでしょう。

 2009年10月23日に米国高級紙のデイリー・テレグラフに掲載された記事では「インターネットのもっとも重要な10個のルール」の一つとして『ルール34』を紹介しています。

 2013年2月15日にCNNは『Rules of the Internet』を解説した記事を掲載し、その中で『ルール34』を「おそらく最も有名なインターネットのルールであり、主流のカルチャーの一部になっている」と紹介しています。

 『ルール34』の起源を解説した『A Billion Wicked Thoughts』の著者である研究者のOgi OgasとSai Gaddamは『ルール34』について、書籍の中で以下のように語っています。

Today, Rule 34 thrives as sacred lore on blogs, YouTube videos, Twitter feeds and social networking sites. It's frequently used as a verb, as in 'I Rule 34'ed Paula Abdul and Simon Cowell on the judging table'." They propose the reason why the maxim resonated with so many people is because it "certainly seems true" for "anybody who has spent time surfing the Web

今日、『ルール34』は、ブログ、YouTube、Twitter、(あらゆる)SNSなどで、神聖な伝承として繁栄している。"I Rule34'ed Paula Abdul and Simon Cowell on the judging table" のように動詞としてよく使われている。これほど多くの人が共感したのは、この格言が「ネットサーフィンに時間を費やしたことがある人」にとって「確かに真実である」からだ。

 またカナダのSF作家 コリイ・ドクトロウは自身の著書『Context』(2011/10/1)の中で『ルール34』を以下のように評価しています。

【Context - Cory Doctorow | Googleブックス】
http://xn--https-lw3dh//books.google.co.jp/books?id=9OmOH9nkYTEC&pg=PA70&redir_esc=y#v=onepage&q&f=false
Rule 34 can be thought of as a kind of indictment of the Web as a cesspit of freaks, geeks, and weirdos, but seen through the lens of cosmopolitanism, Rule 34 suggests that the Web has given us all the freedom to consider that the rules we bind ourselves by are merely local quirks, and to take the liberty to turn our sweaters inside out, practice exotic forms of vegetarianism, or have sex while wearing giant anthropomorphic animal costumes.
Rule 34 bespeaks a certain sophistication—a gourmet approach to life.

『ルール34』は、ウェブがフリーク、ギーク、および変人たちの巣窟であるということのある種の告発と考えることもできるが、(全世界の人類を自分の同胞と捉える)コスモポリタニズムのレンズを通して見ると、『ルール34』は、我々を束縛するルールはその地域だけの奇癖にすぎず、セーターを気ままに裏返しにして着てもよいし、異国風の菜食主義を実践してもよいし、あるいは擬人化された巨大な動物きぐるみを着てセックスをしてもよい、と考えるあらゆる自由をウェブが我々に与えてくれていることを示唆している。
『ルール34』はある種の洗練された、人生への美味なるアプローチなのだ。

 これはつまり『ルール34』は「我々の常識というものは、実際には自分や周囲が勝手に定めたもので、実のところそれらに縛られる必要はない」という事に気付かせてくれる言葉なのだ、と結論付けているわけですね。

最後に

 『ルール34』は2004年頃から現在に至るまで世界中のインターネット上で幾度も言及されているネットミームですが、そもそも「『それ』のエロが見たい」という情念は、人種・国籍・国境・時代を越える、遮ることのできない普遍的な感情なのかもしれません。エロ二次創作についての評価は様々な意見がありますが、フィクションを自由に楽しむ文化がある限りエロ二次創作を無くすことは間違いなく出来ないでしょうし、それがあること自体がある種の自由の証明であるのかもしれません。

 インターネット空間は基本的に自由であるということを頭の中に置いておくと豊かなインターネットライフを送れるのではないでしょうか。インターネットを「怒りを見つける場所」にしてしまうと人生は貧しくなるでしょう。悪いインターネットをやめて人生を始めましょう。


補1
2007年5月に『ルール34』に当てはまる画像を検索できる画像投稿サイト「rule34」が開設されています。こちらのサイトの解説はピクシブ百科事典をご覧ください。

補2
イギリスのSF作家チャールズ・ストロスによって『ルール34』のタイトルを冠した小説が書かれています。

しかしなにやら色々あってシリーズ完結には至らず。

補3
2018年11月15日、ren(@drypiss)というオンラインストリーマーが、18禁コンテンツの視聴が許可される年齢に達したことを祝い画像投稿サイト「rule34」でエロ画像を大いにに楽しむ様子を撮影したジョークビデオをTwitterに投稿して話題になりました。


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