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負担付遺贈の遺言書か、ペット信託か

割引あり

1.はじめに


遺言書は絶対に書いておいた方がいい!

なぜ、日本人が遺言書を書こうとしないか
というと、私は 家制度、家督制度が原因
ではないかと考えています。

昭和22年、戦後すぐに民法が改正されて
家督制度は廃止され、長男長子だけが家を
継ぐのではなく兄弟みな平等となりました。
それから既に76年ほど経過しています。
(2024年3月現在)

なのに、家督制度が原因だなんて、何を
言っているのだろうと思われた方
多いかもしれませんね。

でも、結婚式を挙げる時は〇〇家と△△家
最後に両家を代表して新郎の父からご挨拶
~って、私も子供の結婚披露宴で挨拶しました(笑)
それはどうでもいいのですが、
お葬式の時も 〇〇家 と表記されます。

日本人の心の中には意識しているかいないか
にかかわらず、ずっと家制度があります。
そして、家督制度ではその財産は長男長子が
継ぐものと決まっておりました。
そう、よほどの理由が無い限り、わざわざ
遺言書を書く必要はなかったのです。

お父さんは生存中に家督を長男に継がせて、
ご自身は隠居生活に入る、という隠居制度も
ありましたしね。
今はまるで隠居生活は絶対許さないと言わん
ばかりの苛斂誅求の贈与税制度ですが、
その頃は家督を生前に継がせてもほとんど
影響がないような課税制度だったそうです。

ところが、中小企業の社長さんに70代後半
や80代の方がびっくりするほどたくさん
おられて、90代の社長さんまでおられる。

ご本人が元気でまだまだ頑張るんだというの
なら、まだしも、贈与税が大変なので、仕方
がないから というのでは、国策としてその
ようにならざるを得ないようにしてしまって
いることに、ちょっと異常ではないのかなと
さえ思ってしまいます。

昔は、何代もの家族が同居していたので隠居
したお父さんやお母さんが認知症になり
介護が必要になっても、家族みんなで見守る
ことができたし、そもそも70、80代まで
長生きする人が少なかったから、介護期間も
もちろん個人差はあったでしょうが、さほど
長くはなかった。

今のような、核家族でもないし、100歳迄
生きても何の不思議もない超長寿社会でも
なかったのです。

今や時代も環境も完全に変わってしまって
いるのに、家制度の考えは日本人の無意識な
心の中にあるのだと思います。

なので、わざわざ遺言書を書く必要がないと
無意識に思いこんでいる。

さらに
私の周りで遺言書を書いている人はいない。
そもそも、遺言書は大金持ちがするもので
私たちのような庶民がするものではないと
考えてしまうのだと思います。

相続財産が少ないほど揉めていると
いう何十年も実証されたデータが
あるにもかかわらず、どうして
お金持ちだけが遺言書なんですかね?

そして、もうひとつ 遺言書と遺書とを
はき違えている人がとっても多いようにも
思います。

私たちが「遺言書は家族のためにも書いて
おいた方がいいですよ」と提言すると
縁起の悪いことを言わないで下さいよと
言わんばかりの怪訝そうな顔をされる。

自殺とかで死ぬ前に書くのが「遺書」、
「遺言書」は日本の法律では15歳から
書くことができるもので、まったく違うもの
です。

兄弟みな平等になったからこそ、そこに
いわゆる「争続」になる要素が生じました。
自分が亡くなった後、草場の陰から、愛する
自分の家族が自分の財産のことで言い争い、
憎しみ合うようになる姿は見たくないです
よね。

ぜひ、若くて元気なうちに「遺言書」を
書いていただきたいと思います。
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2.ペットに財産を相続させたい?


前節で、若くて元気なうちに「遺言書」を
書いていただきたいと思います、
と書きました。

あまり早く書いてしまうと、それに縛られて
自分のお金を自由に使えなくなってしまう
ではないかと相談会のときやセミナーの後で
質問されたことがあります。

それは 例えば長男に2000万円、二男に
は前に留学費用を出したのでその分考慮して
1500万円というように金額で記そうと
するからですよね。
そもそも自分(遺言者)が亡くなった時に
上の例なら3500万円がなかったらどうす
るのだ、だから自分のお金なのに遺言書
書いてしまうとそのお金を残して
おかなければならなくなり、
自由に使えなくなってしまう。
なので遺言書はあまり早く書けないんです
という理屈です。

お金は自分が死ぬときにいくら残っているか
なんてわかるはずがありません。
私が遺言書作成のお手伝いをするときも
もちろんケースバイケースですが
〇〇銀行△△支店の口座において
医療費や税金、葬儀費用等の債務を支払った
後の残額において60%を長男、40%を
次男というように割合で指定していただく
ようご提案することが多いです。
こうしておくと遺言書を書いた時点で、予想
することができない死亡時の預貯金残高を
気にする必要はなくなります。
もちろん、絶対金額を記すこともありますが
その場合も遺言者がお亡くなりになる時に
遺産がどのようになっているのかわからないので
ある予備的な記述を必ずしています。
長くなりますので、ここでは略します。

遺言書を書くことによって、後顧に憂いなく
すなわち、自分の財産のことで残された家族
が揉めることを気に病む必要もなく、活き活き
と人生を楽しむことができるのです。
実際に、私のお客様でも遺言書を書いてから
急に明るく元気になられた方が多いですね。

さて、私には家族同然のペットがいるけど
他には兄弟姉妹や甥姪しかいない。
あるいは、配偶者や子供のことよりも
私のかわいいペットちゃんに財産を最優先で
残してあげたい。
こういうご相談を受けることがあります。
つまり、ペットに財産を相続させたい
というご相談ですね。

ペットは人ではないので、直接財産を相続
させることは我が国の法律では不可能です。
遺言書でも ある人にペットのために使って
欲しいと託して財産を相続もしくは遺贈する
ことができますが、それでは亡くなった後に
本当にご本人の思いの通りにペットのために
その遺産が使われているのかどうか、わかり
ませんね。

しかも、そもそも、この一連の投稿で
ご案内しているように、我が国は超高齢社会
超長寿社会です。
飼い主さんであるご本人が、認知症等に罹患
してペットの面倒を十分に見れなくなったら
どうなるのでしょう。
亡くなった後のことも、生きているときの
ことも考えておかなければ、愛するペットちゃん
を守ることはできません。

3.ペットのために負担付遺贈?


これから ペット信託®のお話をしていきたい
と思います。
ちなみに、「ペット信託®」は登録商標です。
本ブログは筆者が商標使用許可をいただいています。

愛情信託 LOVINGTRUT のお話を遺言書を絡め
ながら、これまでお話してきましたが、
ペットも当然、家族の一員。
人によっては、ペットだけが私の家族ですと
断言する人さえもおられます。

ペットのためならどんなことでもしてあげたい、
何があっても守ってあげたい。

ペットを愛する人の気持ちは本当に純粋だと
思います。

さて、
「自分にもしものことがあったら
ペットに自分の財産を相続させたい
遺言書にその旨を書いておきたい」
このような希望を述べられる方は
結構おられます。

それに対して、法律家は次のように答えます
「ペットは法律上の人として扱われないので
あなたの財産を直接相続させることは
できません。」

そして、その代替策として
負担付き遺贈>を提案する先生が多いよう
です。

負担付き遺贈> ???

遺贈というのは、遺言書で相続人以外の人に
贈与することだと思ってください。
その遺贈が負担付き ということは
例えば 次のようなことです。

A子さんは、10年前にご主人を亡くして
今は大阪で老犬Bと一緒に暮らしています
A子さんには子供が一人、長男Dがいます
Dは東京のペット禁止のマンションに
配偶者E孫のFと3人で暮らしています。

もしも自分が老犬Bより先に亡くなったら
Bはどうなるのかと考えました。
東京にいる長男家族には託せませんし、
頼れるのは、いつもA子さんが体調が悪い
ときにお世話になっているペットシッター
のHさんだけ。

そこで、
ペット専門という法律家に相談してもらった
ところ、老犬Bが天寿を全うし、懇ろに葬る
までに必要となるであろう250万円と
Hさんへの御礼50万円を加えた300万円
遺言書でHさんに<負担付き遺贈>する
ようにとアドバイスを受けました。

この負担というのは、もちろんHさんが
A子さんが望むように老犬Bの世話をし、
懇ろに葬ることです。

このような負担を請け負うことを条件に
Hさんは300万円を将来A子さんが
亡くなったら受け取ることができるのです

はい、<負担付き遺贈>の遺言書を書いた
A子さん、これで安心して老後を送ることが
できます・・・ね?

え、本当に、間違いなく
「できます」 と言い切れるのでしょうか?
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4.負担付遺贈よりペット信託を


かわいい うちの子のために
負担付き遺贈>の遺言書を書いたA子さん

安心しても大丈夫ですか?
そりゃ、もう、お金を払ってプロの法律家が
大丈夫って言ってくれたんだから大丈夫に
違いないでしょ。

はい、そこに何も誤りはないのです。
間違ってなどいないのです。
プロの法律家はA子さんに確認したはずです。

ペットシッターのHさんはA子さんからみて
信頼のおける方ですか?
あなたの死後、HさんはキチンとA子さんの
かわいい愛犬Bや新しく飼おうとしている
子猫ちゃんのことを面倒見てくれる方です
よねと

依頼者であるA子さんがHさんなら大丈夫と
言われたので、その言葉を信じて、遺言者の
想いとして<負担付き遺贈>の遺言書を作成
したのでしょう。

別にHさんの身辺調査を念入りにした訳では
ありません。
戸籍謄本や住民票などでの確認くらいは
されているかとは思いますが。

確かに、Hさんはキチンとした人で、老犬B
やA子さんが飼おうとしている子猫ちゃんの
ことをしっかり天寿を全うしてくれるまで
世話をしてくれるかもしれません。

でも、A子さんが亡くなった後に、
300万円もの大金が負担付であるとはいえ、
Hさんの口座に一括で振り込まれるのです。

さて、老犬Bだけなら、天寿を全うするまで
の期間も短いでしょう。
しかし、子猫ちゃんは もしかしたら15年
くらい預り続けなければならない。

老犬Bだって病に侵されていて、治療費や
手術代がかなりかかるかもしれない。

A子さんは2カ月1度ペット美容室にBを
連れていっておりましたが、そのお金も
馬鹿にならない。

A子さんが遺言書を書く時はHさんもご主人
とうまくいっていて幸せな日々を送っていた
から、誠意をもって優しい気持ちでA子さん
や老犬Bと接することができていた。

しかし、A子さんが亡くなるころ Hさんは
ご主人と離婚し、生活費にも困窮していた
としましょう。

そこに、イキナリ目の前に300万円が
赤の他人だった亡A子さんの遺言執行者から
連絡があり、自分の口座に振り込まれてきました。

Hさん、この300万円どうするでしょうね

負担付>といわれても、最初に遺言執行者
からその旨説明されただけで、その後、特に
監視が付いているわけでもない。

さて、
老犬Bと子猫ちゃんはどうなるのでしょうか

5.ペットシッターさん、お願いよ


ペットシッターのHは、ペットのことは若い
時から大好きですし、亡A子さんから遺言書
で託された大切な子達なのですから、守って
あげたいという気持ちで一杯でした。

でもHにだって、自分の生活があるのです。
いつしか、生活に追われて、そんな気持ちは
萎えてきていったのかもしれません。
老犬Bや子猫ちゃん(以下、Cと呼びます)
が天寿を全うするまで大切に預かるという
負担付であるとはいえ、生活に困っている今
Hの目の前に遺贈された300万円がある
のです。

Hのアタマにあることが浮かびます。
少なくとも50万円は自分への謝礼である。
さらに、負担義務を果たす上で、この子たち
に掛かる費用を極力抑えることができれば、
この子達が亡くなった後に残ったお金は
すべて自分のものである。
しかも遺言書で託された果たすべき負担を
確実に実行していたかということを定期的に
監視する人などいないのだ。
無いとは思うが東京にいる長男Cが仮に
チェックしようとしても説明はいかように
でもつくであろう。

ならば、医療費もフード代も極々必要最小限
のものにすればいいし、美容代など無くても
何も老犬Bや子猫Cが生きていく上で支障が
ある訳ではない。正直BとCはできれば少し
でも早く死んでくれた方が助かるのだ。

実際に、老犬Bは体調がすぐれないのに獣医
に連れても行ってもらえず、子猫Cはやせ衰
えて、大部分の毛が抜け落ちた状態で Hが
望んだとおり早死にすることとなりました。
もちろん、懇ろに葬られることもなく。
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