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常夏、それは苦しい

リップスライムの楽曲と言えば何だろうか?
"熱帯夜"のイントロなんて怪しげかつ情熱的だ。
"楽園ベイビー"も爽やかでバカンス気分になれる。
筆者は楽園ベイビーが好きだ。

子供の頃、楽園ベイビーのMVを初めて見た時、夜のプールサイドで楽しそうに楽曲を演奏するお兄さん達にはかなり強い憧れを抱いた。
ラップ調な歌詞も、オーソドックスなJ-POPしか知らない少年にとってはかなり斬新だった。

歌詞にある"ココナッツとサンシャイン・クレイジー"は未だに意味はわからないが、脳内で容易にリズム再生できる。

リップスライムの楽曲によらずとも、ココナッツと聞けば陽気で"ゆったり"した夏のビーチを想像できる人も多いのではなかろうか。
特にこの"ゆったり"が重要であって決してギラギラではない。
オレンジレンジにイケイケな日もあるが、波打ち際でゆったり過ごすことはどこへ行っても捨てられない。

筆者が上京して間もない頃、ある晴れた日曜の朝、東京駅から歩いてすぐの丸ビルに立ち寄ったことがある。
当時、皇居側のアトリウム空間の2階に休憩用の椅子がまばらに配置されていた。
そこにはアカプルコチェアとココナッツチェアがアトリウムを囲むようにいくつも置いてあった。

もちろん、今回はココナッツチェアに焦点を置く。

ジョージ・ネルソンというアメリカのデザイナーが手掛けたもので1955年に登場した。
漫画・SPY FAMILYの表紙はミッドセンチュリーチェアと共に主要キャラが飾られることで知られるが、第9巻表紙に本椅子は登場している。

なお、2023年現在、丸ビルアトリウムに椅子はなくなり、駅側の小さな吹き抜けスペースにベジブルチェアとココナッツチェアが2.3脚置かれている。
恐らくコロナ禍を経て縮小したのだと思われる。

ココナッツと冠するだけあって、座面は奥が深い上にやや低めで、すっぽり包んでくれるためゆったり座ることができる。
今の設置場所だとボーっと赤レンガの東京駅を眺めることができる。

ご存知の方も多いと思うが、ココナッツはゆったりな南国イメージを想起させる一方で、過去に何度か人間をあの世に送った実績がある。

椰子の木陰でのんびり過ごす人を見つけると、呪いのような確率で重量物のココナッツが突撃かまし、この世から消し去ろうとしてくるのだ。
げに恐ろしく、不意に魔神の斧で攻撃されるかのようだと思った。

のんびり隙だらけの時に攻撃されると防ぎようがない。
もしかしたら、公共の場でココナッツチェアに座る際も、緊張と緩和のバランスは保っておいた方が良いかもしれない。

さて、大人になってから知ったのだか、リップスライムの楽園ベイビーのMV撮影は寒さ残る日本の3月の夜に行われたらしい。
夏のリリースのためにはそのくらいの時期に撮影が必要で、冷えるけれども南国イメージを崩さないよう薄着で撮影していたが徐々に唇が青くなり、最後の水中に飛び込むシーンは辛かったと何かの記事で読んだことがある。とても苦しそうだ。

案外"ココナッツとサンシャイン・クレイジー"は、狂気染みたココ椰子の一面を端的に表す言葉として最適だったのもしれない。


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