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"なんてことない"の魅力

「家、ついて行ってイイですか?」というテレビ東京の人気番組がある。
ご存知の方も多いと思うが、テレビスタッフが通りがかりの素人に取材を申し込み、OKが出ればそのままその人の家まで付いて行き、家や暮らしの様子、普段の生活をカメラに納める素人主体の番組だ。

その番組に筆者の高校時代の友人が出演したことがある。
OA直後に収録動画を見せてもらったが、友人の立ち振る舞いに関心してしまった。
中々自分じゃテレビに映って自信満々に喋られない、というのが素直な感想だったので、心の底から脱帽した。
収録動画にはその友人の彼女も一緒に出演しており、その数年後に2人は結婚した。

嬉しいことにそんな2人の結婚式に呼ばれ、しっかりと横浜の式場内に例の収録動画も流して笑いも取っていた。

素敵な式を満喫した後、横浜港大さん橋の近くにある"象の鼻テラス"に寄った時に、"なんてことない"スツールがたくさん置かれているのを見つけた。

前置きが長くなったが、その子達は"スツール60 "と呼ばれる椅子である。
テラスにあったものの座面は黄色、黒、白の3種類だった。
スツールなので移動させやすく、本来の配置からかけ離れてバラバラに点在し、テラス利用者は思い思いに座っていた。

本当にシンプルなスツールなので同じような型の製品が世の中にたくさん溢れている。
IKEAにも似たようなのが格安で売っている。
なお、当該スツールは定価で40,000円前後する。

作者はアルヴァ・アアルトと言い、建築を学んだ人間なら誰でも知っているフィンランドの巨匠が1933年に生み出した。

別に座り心地が飛び抜けて良いわけでもないが、少し腰をかけたり、ちょっと談笑したり、手に持って場所を移動したりするのには最適なサイズとなっている。

1枚の丸座面にL字の脚が3本または4本だけで構成されており、あとはネジ留するだけの超シンプルセットとなる。
出荷も容易なこともあって、発表から瞬く間に世界中へ広がっていった。
生産・販路・使い勝手を考慮し、最初にこれを思いついた1933年の先人には頭の下がる思いである。
詳細は割愛するが、当時は世界大戦の影響もあり大変な時期に出来上がった椅子であることも付け足しておく。

ただ、簡素化されたものの真価は意外とわかりにくい。
その分模倣品も世の中に溢れてしまった。

街中でスツール60らしきものを見掛ける度に、本物か模倣品かはしれっと確認するのが癖なのだが、半々くらいの割合で本物を見るため、意外と頑張っているようで何よりだ。
小さい事だが、脚の長さ、座面の幅や厚み、手触り、といった所に模倣品と明確な差がある。

物事は簡素化・要約されると、裏のドラマが見えなくなってしまう。
一方で、本当は色々な思い、苦悩、トライアンドエラー、そして形にできた時の喜びがあるはずだが、それが見えてしまうのもそれはそれで興醒めに感じる。

すると、"なんてことないはずなのに、何故だかイイんだよな"というのが粋で良い物なのではなかろうか、と思ってしまう。
テラスのスツールが浜っ子の粋なセンスで選ばれたものだと信じたい。

冒頭の例の収録動画は15分程度の尺で、当時初めて見せてもらった後、集まっていたメンバーで「内容も面白いな!」とコメントを寄せ合っていた。
当の友人からは「実際はもっと撮影時間も長く、夜通しカメラが回っていて、撮影後もスタッフと連絡とったり、ネットでは結構悪口書かれていたりと意外と大変だった。」と言っていたのが印象に残っている。

スツール60 、友人のテレビ出演、横浜が何となく自分の中で繋がる気がした。

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