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広島県人はお好み焼きの夢を見るか?

腰が砕けた頃、ようやくマツダ王国の入口もとい新幹線広島駅に到着する。
広島に行く際は、仕事よりも妻から仰せつかった大事な任務がある。
胡町にある三越伊勢丹の穴子飯屋・上野の"柴きくらげ"を無事に購入できるか否か。
到着する前から正直それしか考えていない。

新幹線ホーム階からエスカレーターで改札階に至ると、真っ赤なマツダ車がお出迎えしてくれるのは毎度気持ちが良い。
広島の工業工芸紹介ゾーンに燦々と君臨している車体は、カープのイメージカラーも踏襲しているのかもしれない。
鯉のぼりの季節になるとさらに映えるのだろう。

紹介ゾーンはちょっとした休憩スペースも併せ持っており、そこに置かれている什器が今回の椅子・ヒロシマチェアだ。

2008年、日本人デザイナーの深澤直人さんとマルニ木工によって送り出された。
なお、マルニ木工は広島きっての老舗家具メーカーである。

僅かに傾斜のついた座面は長時間座っても太腿の負担が少なく、つい触りたくなるアームのエッジはこだわり抜いたディテールとなっている。
この絶妙な肘置きかつ掌置きは一体どうやって導いた寸法なのか、と何度も確かめ触ってしまう。
背中にフィットする笠木も、太くもなければ細くもない、木造エルゴノミクスの頂点じゃないかと勝手に思っている。

知られたエピソードだが、その洗練されたデザインが認められヒロシマチェアは米国アップル社にも採用されたことで有名だ。

GAFAの一角を担うIT企業が、自社の椅子として純木を選ぶというのが個人的には面白い。
対極にいるかと思いきや、デザインを媒介に急激にITと木工の距離が縮まったようにも見えた。

スティーブ・ジョブズの話で好きなエピソードがある。
iPod開発の折、ジョブズが室内の水槽に機器をぶち込んで、空気がポコポコでるのを差し示し"まだ隙間があるじゃないか"と開発チームの心を砕いたらしい。
エンジニアには気の毒だが、洗練され小型軽量化が進み、当時SONYのウォークマンの追随を許さないデバイスを完成させている。

iPhonも手の平に世界を乗せるようデザインされており、筆者が学生の頃に初めてiPhoneを手にした時は、本当に片手サイズに納まり驚嘆したのを覚えている。
尤も、近年はメモリやら性能やら色々機能追加されて、手の平では収まりきらず年々大きくなっているのは少し気になる。

洗練という意味では、広島焼きも同じではないかと思う。
小麦粉と水とキャベツ、最後にソース。
メイン料理としてはシンプル過ぎる。

昨今はモダンと称して焼きそばが入るのが一般的だか、米を主食とする我々農耕民族の発想とは思えない創造性を含みソフィスティケートされた料理、それがお好み焼きではなかろうか。
3度の飯よりお好み焼きだと曰う広島県人の言い分もわからなくはない。
何より美味いしい。

あと、生地が関西よりも圧倒的に薄い。
過去に薬研堀 八昌で食べたお好み焼きは、その薄いのにしっかりした味と生地に感動した。
本当に美味しい。
iPhoneの新作発売に並ぶ熱狂的マックユーザーの如く、開店前から辛抱強くならんだのも良い経験だったと思っている。
アップルショップとは全く異なるが、システマティックに何枚も焼かれる鉄板のお好み焼きも、段々とiPadに見えてこないことも、、いや、それは流石に共感が得られず石が飛んできそうだ。

今後、職人・デザイナーよろしくAIが日常に席巻すれば、料理・プロダクトに関わらず、創作活動はAIに取って代わられるかもしれない。
それでも、人に感動を与えるアウトプットは人の創作によって生み出されて欲しいと思っている。

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