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埃に塗れた亀甲縛り

東海道新幹線の在来線乗り換え改札を出て、浜口首相遭難現場に歩いていくと少し長めのスロープがある。
東京駅の構内は凸凹してるので、ベビーカーを押すことの多い筆者にとっては大切なアクセスルートだ。

そのスロープは階段5段分ほどの段差に着床させようとしてるため、横方向に緩やかな勾配を取りながら、大きくUの字を書いて下階と接続を行っている。
スロープ自体はUの字の頭部分に柱を抱かせて蓋をされたような形となり、ぽっかりと何も使えない空間ができてしまっている。
そして、その中に夥しい量の椅子が無造作に積まれて保管されているのだ。

椅子の名は Chair One と言い、フランス人建築家のコンスタンティン・グルチッチによって2003年に生み出された。

実はこの椅子、駅構内の新幹線待機エリア付近や在来線トイレ付近に数脚配置されており、誰でも自由に座ることができる。
黒、白、赤とバリエーションがあり、見た目は亀甲縛りの紐を固めたような結構斬新な形をしている。
フレームをメインに組んだ椅子となるため、座面の実面積は少ない。
見た目程座り心地は悪くないが、お尻の肉の少ない筆者には尾骶骨に少々座面を感じる。

話を冒頭のスロープに戻すと、そこを通るたびベビーカーを押しながら何て勿体ないんだろうと感じてしまう。というか使ってないなら何脚か譲って欲しい。

筆者は意外と古風な考えを持っており、物を大切に使い続けるといつか魂が宿り、所謂、つくも神が誕生すると思っている。
その物の本分に沿ってこちらが大切に道具を使い続けた上で、多大な時間を経てなおその形を留めていれば、風格を帯びてなんだか神々しさがでてくるのもわからなくはなかろうか。
そして、スロープの彼らは椅子の本分を全うしたいだろうに何と酷い仕打ちを行うんだJR東日本さん、といつも思ってしまう。

一層そう思わせるのが、あまりにも長期放置し過ぎてすごい量の埃に塗れている点だ。
最早黒いのか白いのかすらわからない程の灰色の綿帽子を被っている。
雪やこんこんと言い得ても、仕打ちとしては雹をぶつけてると言った方が合ってる気がする。

構内備品である以上、いち電車利用者にできることは何もない。
ただ、筆者は建築に携わる設計者または研究者でもあるため、ハプリック空間の使われない什器のありようを改めて考えさせられた。

是非東京駅を利用した際には、どんな椅子なのか?そしてどんな仕打ちをうけているのか?を見て欲しいと思った次第だ。

最後に、Chair Oneの定価が1脚約90,000円だと知って見た場合、その勿体なさに拍車がかかり脱輪脱線状態なのは鉄道会社として軌道修正した方がよいのではなかろうか、と提言してみる。





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