介護職不足の原因と対策|無料分析ツールで地域別データを深堀り
この記事のポイント
・介護職不足の4つの原因が分かる
・国が行っている5つの対策が分かる
・今後、介護職不足が解消されるのかどうかが分かる
・無料分析ツールで地域別の介護職不足状況が分かる
今回は、介護職不足の4つの原因と5つの対策を整理しつつ、オープンデータを活用して市区町村別の介護職不足の状況を深堀していきます。
このままだとヤバイ!介護職員は34万人不足する
厚生労働省から、2025年時点の介護職の不足数が公表されています。
その数、なんと34万人です。
なぜこんなにも介護職は不足してしまうのでしょうか。
原因は、「需要」と「供給」の両面から考えることができます。
介護職の必要数は、年間5万人のペースで増えていく
介護職の必要数(需要)は、2020年には216万人ですが、2025年には245万人まで増える推計です。今後、5年間で25万人も必要数が増えていくのです。
年間5万人のペースで、介護職の必要数は増えていきます。
これだけ介護職が必要となるのには2つの理由があります。
① 世界トップの高齢化率
日本の高齢化率は世界トップであり、今後しばらくは世界トップであり続けると考えられています。
平成30年高齢社会白書では、世界の高齢化率の推移が比較されています。
2015年時点で日本の高齢化率は26.6%でした。直近(2019年)の高齢化率は28%を超えるまで進捗しています。
高齢社会白書には記載がありませんが、2位はイタリアの高齢化率23%ですので、世界的に見て日本は圧倒的な高齢化社会であることが分かります。
さらに、日本の高齢化率は、このまま38%程度まで上昇を続けますので、これからも介護需要は増えていくと考えられます。
② 単身高齢者世帯・老夫婦世帯の増加
介護人材の必要数が増えている背景には、単身高齢者世帯・老夫婦世帯の増加という問題もあります。
昔は、サザエさん的な3世代世帯(高齢者・子・孫)が多く、高齢者の介護を家庭で行うことができていました。
しかし、現在では、核家族化が進み、単身高齢者世帯・老夫婦世帯が増加ました。結果として、家庭で高齢者の介護をすることができなくなりました。
動画でその変化をまとめていますのでよろしければご参考ください。
恐ろしい変化です。(※音はBGMだけですので、無音でも見ていただけます)
介護職になる人は、本当に年間1.6万人も増えるのか
介護職がどの程度増えるのか(供給)を整理してみましょう。
厚生労働省では、2020年時点で203万人いる介護職が、2025年には211万人に増えると推計しています。
年間1.6万人ペースで増えていく推計です。
平成30年高齢社会白書で、介護職数の推移を見てみると、最近は介護職の数はあまり増えていないことが分かります。
このままでは、年間1.6万人ペースで介護職が増えていくという推計さえも下回り、さらに介護職不足は深刻化していく可能性があります。
・・・
なぜ、介護職になる人は少ないのでしょうか。
長崎県福祉保健部にて、介護の仕事に対するイメージを調査しています。
「給与など雇用面での待遇が悪い」と「体力的、精神的にきつい」に多くの回答が集まっていることが分かります。
① 給与・待遇が悪い、②体力的・精神的な負担が大きい ことから、介護職が敬遠されている様子が伺えます。
改めて介護職不足の原因をまとめると以下のようになります。
国は5つの対策を行っている
国は、介護職不足の現状を受けて5つの対策を行っています。
対策1 介護職員の処遇改善
対策2 多様な人材の確保・育成
対策3 離職防止・定着促進・生産性向上
対策4 介護職の魅力向上
対策5 外国人材の受入環境整備
より具体的には以下の通りです。
非常に幅広く対策を行っていることがわかります。
例えば、対策1では介護職の待遇改善を行っています。平成 30 年度 「介護労働実態調査」の結果 を見ると、少しずつですが待遇が改善されていることがわかります。
しかし、これらの対策がうまくいったとしても、介護職の不足は解消されそうもありません。原因と対策をまとめてみるとそれがよくわかります。
国は、「介護職になる人が少ない」という供給不足に対する対策は行っています。一方で、「介護職がたくさん必要になる」という需要増加に対する有効な対策は打てていません。
需要の増加に有効な対策が打てない限り、年間5万人ペースで介護職が必要になっていきます。
供給側の対策が、どんなに上手くいったとしても、年間5万人ペースに追いつくことは容易ではないと考えられます。
今後、益々介護職不足が深刻化することは間違いないでしょう。
無料分析ツールで市区町村別にデータを分析してみよう
日本全体で介護職不足が深刻化することはわかりました。
しかし、実際には地域によって介護職不足が非常に深刻な地域と、介護職は不足しているもののなんとかなっている地域があります。
ここからは、もう少し身近な問題として、市区町村別に状況を見ていきましょう。
オープンデータを活用した、介護職の不足状況を確認する為の無料の分析ツールをを作成していますので、こちらを使って説明していきます。
▼無料分析ツール:75歳以上人口と75歳1千人対介護職数の関係
無料分析ツールでは、「75歳以上人口」と「75歳1千人対介護職数」を地域別に分析します。
「75歳以上人口」は、介護の必要性(需要)を確認するために役立ちます。
介護サービスの利用者は高齢者の中でも、75歳以上の後期高齢者が圧倒的に多いという特徴があります。
年代別の介護給付費を比較したグラフが以下の通りです。
65~74歳が1人当たり年間58千円の介護給付費を使っているのに対して、75歳以上は1人当たり年間498千円の介護給付費を使っています。
75歳以上人口が、介護サービスの需要に直結していると言って問題ないでしょう。
「75歳1千人対介護職数」は、介護職の供給状況を確認するために役立ちます。
75歳1千人に対して介護職が何人いるのかを比較することで、どれだけ需要をカバーできているのかを確認することができます。
無料分析ツールの使い方
具体的に無料分析ツールの使い方を見ていきましょう。
3つの段階に分けて「75歳以上人口」と「75歳以上1千人対介護職数」の関係を確認できるようになっています。
まずは左上の ①地方別の状況 から見ていきます。
①地方別の状況
横軸を75歳以上人口、縦軸を75歳以上1千人対介護職数としています。
右に行くほど75歳以上人口が多く、上に行くほど75歳以上1千人対介護職が多いことを示しています。
このように分けてみると、右下のエリアは75歳以上人口が多く、75歳以上に対する介護職数が少ないエリアとなり、介護職不足が深刻であることがわかります。
一方で、左上のエリアは、75歳以上人口が少なく、75歳以上に対する介護職数が多いエリアとなり、介護職不足が軽度であることがわかります。
介護職不足が深刻な右下のエリアには、関東・近畿・中部が位置しており、大きな傾向として、大都市圏の方が、介護職不足が深刻であることがわかります。
もう少し詳しく見てみます。
大都市圏の中で、近畿と中部は75歳以上人口が同程度です。
しかし、75歳以上1千人対介護職数は近畿が90人程度で、中部が85人程度です。75歳以上人口が同程度の場合、より下にある方が介護職不足が深刻ということを表しています。
近畿と中部では、中部の方が介護職不足が深刻と言えます。
②都道府県別
続いて、都道府県別のデータを見ていきましょう。
最初は47都道府県が全てプロットされています。このままだと見にくいため、分析したい地域に絞り込みます。
地域への絞り込みは、対象の地域をクリックすることで行うことができます。
関東だけに絞り込まれた状態で、都道府県別の介護職の不足状況を見ると、東京が最も右下に位置しており、介護職不足が深刻であることがわかります。
2番手としては、神奈川県・埼玉県・千葉県が候補になります。
そして2番手の中で、最も75歳1千人対介護職数が少ないのは埼玉県になります。
③市区町村別
最後に、市区町村別のデータを見ていきましょう。
市区町村別の状況もプロット数が多いため、絞り込みを行います。対象の都道府県をクリックすることで、絞り込みを行うことができます。
市区町村別のデータについて、最も知っていただきたいのは、同じ県内でも市区町村によって介護職不足の深刻度はバラバラであるということです。
埼玉県内でも介護不足が深刻な市区町村とそうでない市区町村があります。
冒頭、介護職不足が軽度であると紹介した地域(大都市圏以外の地域)でも、もちろん介護職不足が深刻な市区町村がたくさんあります。
市区町村別のグラフで、下の方に位置している市区町村ほど介護職不足が深刻な市区町村となります。
市区町村となると県内に絞ってもプロット数が多いため、上部に検索窓を設置しています。
検索窓から市区町村を選択することで、選択した市区町村がハイライトされ、探している市区町村を見つけることができます。
ぜひ、あなたの地域の介護不足状況を確認して事業展開の参考にしてみてください。
また、今回は説明しておりませんが、ほかにも介護職不足に関する無料分析ツールを公開しています。
例えば、都道府県別の介護職の年収ランキングや、有効求人倍率と看護不足の関係なども調査することができます。
無料分析ツールの上段のタブから確認することができます。よろしければ合わせてご参考ください。
今回利用したデータは以下にまとめています。気になる方はチェックしてみてください。
▼今回のデータの出典
おわりに
今回は、「介護職不足の原因と対策|無料分析ツールで地域別データを深堀り」と題して、以下の事を説明しました。
・介護職不足の4つの原因
1 【需要面】世界トップの高齢化率
2 【需要面】単身高齢者・高齢者夫婦の増加
3 【供給面】給与・待遇が悪い
4 【供給面】体力的・精神的負担が大きい
・国が行っている5つの対策
対策1 介護職員の処遇改善
対策2 多様な人材の確保・育成
対策3 離職防止・定着促進・生産性向上
対策4 介護職の魅力向上
対策5 外国人材の受入環境整備
・今後、介護職不足が解消されるのか
需要の増加を止めることができず介護職不足は益々深刻化する
・無料分析ツールで地域別の介護職不足状況が分かる
市区町村によって、介護職の不足状況はバラバラ。
ぜひ確認してみてください。
今回の記事を含めて、「病院・介護施設の市場調査ができるようになるnote」シリーズでは、病院・介護施設の市場調査の方法を紹介しています。
取り上げる調査項目は以下の7つです。
今回の記事は、項目4の「医療職・介護職の需給状況」になります。
毎週火曜日に更新していますので、興味を持ってくださった方はフォローいただけると嬉しいです。
また、Twitter、Instagramでも情報発信をしています。医療介護データ研究所を応援してくださる方がおりましたら合わせてフォローいただけると嬉しいです。
それぞれのメディアは以下のように使い分けていきます。
▼note
医療介護のデータ活用をするための教科書的な記事を提供していきます。時事ネタというよりは、昔の記事を読んでも、学びになるようなストック型の記事を提供していきます。
▼Twitter
医療介護×データをテーマにしたリアルタイムな情報を共有していきます。ホットなニュースの共有やコメント、毎朝のクイズ、noteやInstagramの更新情報を発信しています。
ヘルスケア FREE BOOKSというアカウントで、ヘルスケア業界の様々なデータを7ページのFREE BOOKにして紹介しています。データを知ってもらうきっかけになるような、目で見て直観的に楽しめる情報を提供しています。
以上です。
またぜひ見てください。どうぞ宜しくお願いします!
記事を読んでくださりありがとうございます。読んでいただけることが励みになります。もしサポートいただけましたら、研究活動に使わせていただきます。