冬の風物詩アンビエントの2004年/Various Artists - Pop Ambient 2004 [Kompakt]
Artist: Various Artists
Title: Pop Ambient 2004
Label: Kompakt
Genre: Ambient,
Format: LP, CD
Release: 2003
ドイツ連邦共和国の西部のライン川流域に位置する都市ケルンに拠点を置く、1998年に設立されて今もなお活動している老舗かつ名門テクノレーベルKompaktより、Pop Ambientシリーズの2004年版。
2001年のリリースを皮切りに2024年の現在もシリーズとして継続し、花柄のジャケットで統一され、年末にリリースされることでお馴染み、冬の風物詩アンビエントのPop Ambientシリーズ。Pop Ambientの新作を見かけるだけで、年末感を感じさせてくれる。
Kompaktに所縁のアーティストやテクノ作家やアンビエント作家によるアンビエントコンピレーションである本作もとい本シリーズ。
本作は、Brian Eno的な解釈である「家具のようにそこにあっても日常生活を妨げない音楽、意識的に聞かれることのない音楽」なタイプのアンビエントであり、壁紙のように環境に自然と溶け込んでいて、それでいて美しくも淡く穏やかな時間を約束するような、鎮静剤のような作用を持ち合わせている。スローテンポであるため、忙しい現代社会とSNSの発展により加速する時間の流れにより狂った体内時計を巻き戻してくれるようにも感じる。濃密な電子音響のレイヤーにピアノやギターといった生楽器の音が散りばめられ、ドローンミュージックのような心地良さがある。ヘッドホンやイヤホンで聞けば鎮静作用の接種になり、スピーカーで流せば部屋の空気感が一瞬にて変わる。
注目すべき収録アーティストとしては、日本人であるTestuo SakaeによるPass Into Silence名義であろう。Kompaktが海外のテクノレーベルであり大手レーベルであること、テクノは依然としてヨーロッパの勢力が強く、そのシーンを牽引しており、そういった状況の中で日本人が収録されることは快挙である。本作である2004年に続いて2005年、2006年と収録され、Pop Ambient 2025にてほぼ20年ぶり(!?)に収録されていることも見逃せない。
Pass Into Silence - Sakura
モジュラーシンセの音を色の付いた水滴として垂らして、それが平面に滲みこむような、そんな現れては消えていくような儚さのある楽曲。どこか優しさや郷愁感といった空気感の中で過去を思い返すような内省的な楽曲のように感じる。
アンビエントの楽しみ方は、やはりフィジカル媒体としてのレコードでの視聴であるだろう。原曲としてそのまま楽しむという意味合いでは、媒体問わずもちろん楽しむことができる。レコードプレーヤーで再生するときに、回転数はLP盤であれば33 1/3回転、EP盤であれば45回転である。レコード媒体でのアンビエントの楽しみ方の一つとして、再生する回転数を変化させるという点である。アンビエントというジャンルの性質上、ビートはほぼなく、BPMという概念があるのかないのかも怪しいところであるため、レコードの回転数を変化せても違和感のないものが多い。作家たちの意図する楽しみ方ではないだろうが、回転数を変化させて聞くと従来とはまた違った感覚で2度美味しい音楽となる。
Donnacha Costello - To Thee This Night (I Will No Requiem Raise)
回転数を変化させる楽しみ方で特筆すべきは、B4. Donnacha Costello - To Thee This Night (I Will No Requiem Raise)である。一抹の憂鬱さを内包する感傷的なギターサウンドで幕が開ける印象的なアンビエントであるが、この楽曲の回転数を33 1/3回転から45回転に上げ、ターンテーブルのピッチコントローラーをやや下げる(BPMを落とす)と、哀愁漂う疾走感のある曲に変化し、これがどうして中々良い塩梅の音楽へと変化する。
アンビエントの楽しみ方は無数にあり、再生する媒体や機材によってまた別の顔を見せてくれるものもあり、アンビエントは壁紙のように部屋に溶け込んでいるようにも見えるが、向き合ってみると新しい発見がそこには隠されている。