見出し画像

音楽とは、芸術とは何なのかを問う/Walter Marchetti - Per la sete dell’ orecchio [Alga Marghen]

Artist: Walter Marchetti
Title: Per La Sete Dell’ Orecchio
Label: Alga Marghen
Genre: Concrete, Experimental
Format: LP
Release: 2010


イタリア共和国の実験音楽レーベルAlga Marghenより、1950年代より活動していたフルクサス一派の一人、Walter Marchettiの1984年作の再発盤。

A面は水面に石を投げ込む音、B面は虫の鳴き声というシンプルな構成。

何故これが音楽としてリリースされたのか?と思うのは無理もないことだと思う。それほどまでに意味がよく分からない楽曲である。そもそも楽曲なのか?とも思うほどである。

Artとは何か?Designとは何かという切り口に焦点を当ててみる。個人的な見解を言えば、アートとは自己表現であり、デザインとは情報伝達であると思う。極論であるが、自己表現に重きを置くなら情報伝達は必要ないだろうし、情報伝達に重きを置くなら自己表現は必要ないだろう。何故なら目的が鈍るからだ。一般的なことを言えば、アートは問題提起であり、デザインは問題解決であるという。どちらの見解にせよ、概念の問題であるため、数学的に表現し得る明確な境界線や分別はなく、実際のところ、それを判断するその人個人の感覚に委ねられるのではあるが。

これは音楽なのか?と感じる。まさに、これが問題提起であるのだろう。このためだけに存在しているのではないだろうかと思う。音楽とは何なのか、果ては芸術とは何なのかという問いを考えるトリガー。それがこの盤の役割なのではないだろうかと思う。

そのトリガーとして、催奇的までに繰り返される、A面の単発音とB面の持続音、日常生活で聞いたことのある音を用いた、単発音と持続音という両極端な音の比較。それが本盤の意図ではないだろうかと思う。シンプルかつ日常生活に馴染みのある音なので、余計な感覚が混ざりにくいようにも感じる。もちろん、具体音なので、それに纏わる記憶が想起されはするのだけれど。

メロディー要素皆無の音の繰り返しに、ただただ、これは一体何なのだろうかと禅問答のように自問自答する。音楽と言えるのかどうかは個人の判断によるものであるが、一般的な音楽的な快楽ではなく、哲学的な快楽、没入状態を求める修行僧のような献身さを追いかける人向けの何か。

これを聞いた結果、どうなるのか?という意味において、実験音楽というジャンルを象徴とする内容なのではないだろうか?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?