見出し画像

【Information】メタバースヨコスカ「SARUSHIMA WORLD」お披露目 観光とゲームの両立策

 2023年12月28日、VRSNSであるVRChat上にて横須賀市が公認・公開を務めるワールド「SARUSHIMA WORLD(メタバースヨコスカ)」が公開された。
今回の記事ではメディア向け公開イベントの様子などをまとめてお伝えしていく。


猿の居ない島、猿島

 そもそも「猿島」とはどこにある場所なのか、ご存知ない読者の方も居られるだろう。
今回の舞台となる猿島は、神奈川県横須賀市の沖合に浮かんでいる無人島である。
京急線「横須賀中央駅」から徒歩約15分の位置にある三笠ターミナル/猿島ビジターセンターという港から毎日定時運行のフェリーが発着しており、そこから島へ渡る事ができる。


 この猿島はその名前から猿が多いのではないかと思う方もいるだろうが、実はこの島には猿は一匹も居ないのである。
その名前の由来は日蓮上人の足跡が元となっている。
時は鎌倉時代、千葉から鎌倉まで布教に向かおうと船に乗った日蓮上人であったが船が嵐に遭い、何とか流れ着いたのがこの猿島である。
無人島であったこの島に上陸した日蓮上人の前に、突如真っ白い大きな猿が姿を現す。
その猿はどうやら陸地の方角を指差し、その島から去れと伝えたという。
かくして日蓮上人は難を逃れ、無事本土へ戻る事が出来たという伝説が残っている。
これが「猿島/去島」とこの島が呼ばれる由来とされているのだ。

猿島と戦争の歴史

 猿島を語る上で欠かせないのは、戦争との関わりだ。
猿島が諸外国に認知されたのは、江戸時代のマシュー・ペリー提督が来航した時期の話となる。
海上で測量を行ったペリーの乗るサスケハナ号は、周辺に島があるという事で船員を派遣。
周辺の湾岸を「サスケハナ湾」と呼び、猿島は発見した船員たちがキャプテンの名を込めた「ペリー・アイランド」という名で呼んだ記録が残されている。


 そんな猿島は海上の防衛の要衝である「台場」としても機能した。
明治時代には陸軍の24cm加農砲(カノン砲)4門と27cm加農砲2門が配備。
時の政府による東京湾要塞と呼ばれる防衛ラインの一角を成していた。
関東大震災で打撃を受けた島は海軍の管轄となり、時は第二次世界大戦に移る。
当時東京に空襲を行っていた爆撃機であるB-29を撃墜する為、対空能力に優れた高射砲が配備され防衛陣地として稼働していたのである。

 こういった歴史を経て、今では観光地として機能している猿島。
夏はバーベキューが楽しめる海岸や、観光案内所も兼ねた海の見えるテイクアウトレストラン「Oceans Kitchen」ではよこすか海軍カレーを始めとした料理が味わえる他、現在は島内の設備が遺構としてその歴史と姿を現代に伝えている。

いざ、バーチャルの猿島へ

 今回公開された「SARUSHIMA WORLD」は、そんな猿島をモチーフとしたワールドとなっている。
ワールド入場後、桟橋からのスタートとなる。
エントランスエリアにはゲームコンテンツを楽しむためのセッティングギミックが設置されており、島全体を舞台にしたシューティングゲームを行う事ができる。
今回のワールドについては「Meta Quest2」や「Android版VRChatβ版」にも対応している為、PC・モバイル問わず入る事が可能だ。


このシューティングゲームは2チーム制の時間制限もしくはフラッグ戦ルールが用意されており、「霊験あらたかなサルは霊力の光を放つことができます」と公式サイトで説明されているサルを持ちながら相手を攻撃し、前者のルールでは撃破数を、後者のルールでは島の頂上部にランダムに設置されるバナナを規定数陣地へと納品する事で勝負が決する。
減った体力を回復できるアイテムも設置されており、起伏に富んだ地形である為非常にアクロバティックな戦いが繰り広げられる。
エントランスエリアには自動でプレイヤーの周囲を旋回するライブカメラもあるため、観戦する側も大盛りあがりとなるだろう。
なお、現在のバージョンでは観戦者も含めゲームを楽しめる推奨人数は「16人」となっている。これを超えた場合、負荷の影響で正しく動作しない可能性がある為要注意である。


 エントランスで説明を受けた報道陣の前に今回公開されたのは、株式会社大丸松坂屋百貨店の手掛ける「大丸・松坂屋アバター販売公式」に対応する「スカジャン」のモデルだ。
以前から公式サイトで配信されているスカジャンのモデルデータアセット「DOBUITA STYLE」が、今回大丸・松坂屋アバター販売公式にて展開されている5種類のアバターに完全対応。
元々のアセットが無料配布されている事から、今回なんと無料で提供されるというのである。
同ショップのアバターを利用しているユーザーには、嬉しいアイテム追加と言えるだろう。


 その後はワールドを巡るツアーへと出発する事になる。
このワールドではジャンプできる回数が通常のワールドと異なる「2回」に設定されている他、ワールド内の各所に筒状の「ジャンプ台」も設置されている。
その為建物や森の中など、高い場所への移動が容易となっている。
これは先述したシューティングゲームのゲーム性にも大きく寄与しており、様々なフィールドを迅速に移動しながらゲームを進める事が出来るのだ。


 島内の遺構もしっかりと再現されており、戦中に活用された弾薬庫や要塞跡を貫くトンネル、そこに設置されたフランス積み(フランドル積み)レンガの長短合わせたデザインなど様々な箇所を巡る事が出来る。
砲台跡に刻まれた溝は熱を逃がす為の排水溝となっており、そういった部分も精緻に作られている。
また、現実世界では階段の風化の為登ることが出来ない展望台の頂上にもしっかりと登れ、そこから島内が一望できる。
こういった事が可能なのは、バーチャル世界ならではと言えるだろう。

撮影スポットで待ち構える報道陣

 もちろん有名な写真撮影スポットとして取り上げられる要塞内の三叉路もしっかりと再現されており、VRChat上でも「映える」スクリーンショットが撮れるだろう。
なおこの島は「仮面ライダー」における敵勢力の一つ「ゲルショッカー」の本拠地として設定されており、島内でバイクを走らせ疾走するシーンなどの撮影が行われたという。
思い思いのアバターでそのシーンを再現してみるのも良いかもしれない。


 なお先述したシューティングゲーム実行時の参加人数想定であるが、プレス向け案内を行っている最中にゲームを開始するギミックが動作不能となった為正確である事が保証された。
20人など観戦者を含めて大人数になる場合は、観戦者とプレイヤーを分ける工夫が必要となるだろう。

リアルとアンリアルの相互作用

 このワールドは、猿島の縮尺をそのまま縮小して設計されたものではないとの事である。
元々猿島の縮尺を2分の1にした上でモデルを構築した所、トンネルも含めて随分と小さい印象を与える物となってしまった。
とはいえ原寸大で猿島を再現しようとすると、今度は島内の移動にかかる時間が大幅に長くなってしまう。
その為「水平方向は縮小するが、縦方向はそこまで縮小しない」という独特の割合で構築される事となった。
そこから生まれたのが、立体的な構造と大きさを実感できるワールド構造であるという。
その為現実の再現ワールドとはまた違う「リアルな圧迫感、閉塞感」を与えるのに一役買っている。


 そしてシューティングゲームコンテンツを実装したのも、ワールドを何度も訪れてほしいからそういう要素を加えたとは横須賀市文化スポーツ観光部の小山田氏の言葉だ。
こういった遺構や史跡を再現するワールドは、その再現性が高いだけではリピーターが定着しづらいというのである。
実際にユーザーが繰り返しワールドを訪れる要素として、エモーショナルな風景だけではなくギミックを活かしたエンターテイメント要素も必要になってくる。
そんな中でフィールドとして島全体を活かしたシューティングゲームというギミックは非常に相性が良いものとなる。
実際にゲームで遊びながら、猿島の地形や景観といった諸要素を覚え、現実世界で猿島に訪れた時に思い返す良いエッセンスとなるのだ。
なおワールド内には「食べられる」よこすか海軍カレーも用意されている。思う存分堪能しよう。


よこすか海軍カレーを食べる参加者

 また今後、このワールドは横須賀市が主体となるイベント会場としても利用される事が計画されている。
その上来年の2024年2月には、更に大きな企画が動き出すという話も伺う事が出来た。
これからもイベントが継続して行われる名所として、リアルでもバーチャルでも、是非一度猿島へ遊びに行ってはいかがだろうか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?