英エリザベス女王の死因「老衰」の発表にまつわるニュースあれこれ / 日本以外では「老衰」は珍しい死因?

(全文公開)

このニュース。
英女王の死因は「老衰」 死亡診断書公表 写真4枚 国際ニュース:AFPBB News https://www.afpbb.com/articles/-/3426449

「老衰」とは英語でどう言うのだろう。

エリザベス女王の死亡診断書に書かれた死因は「old age」

死因は「老衰(Old Age)」とされた。職業欄には「女王(Her Majesty The Queen)」

https://www.jiji.com/jc/article?k=2022093000151&g=int

報道で「老衰」と翻訳された言葉の元の英語表現が何かを書いていた日本語メディアは時事通信社のみだった。「old age」。そのまま訳せば死因は「老齢」とか「高齢」。

日本以外では「老衰(old age)」は珍しい死因?

エリザベス女王は、スコットランドのバルモラル城を訪問中に死亡した。よって、スコットランド国立公文書館(NRS)が死亡診断書を出すこととなった。
エリザベス女王の死因「老齢(old age)」は、日本では普通に受け入れられる死因だが、イギリスにとっては特定の病気や症状が書かれていない死因は戸惑うものであるらしく、スコットランドメディアが、なぜ死因に「old age」とだけ書かれたか、詳しく解説している。

エリザベス女王:スコットランドの死亡診断書に「old age」を記載できますか? - スコティッシュ・デイリー・エクスプレス https://www.scottishdailyexpress.co.uk/news/scottish-news/queen-elizabeth-can-you-old-28114354

記事によれば、毎年NRSはスコットランドの全ての死者の死因リストを発表するが、これに「老齢(old age)」は含まれていないという。これはWHOが発表する死因分類に「old age」が含まれていないからだと。
一方で、スコットランドでは、特定のガイドラインの条件を全て満たせば、医師は「老齢(old age)」や「老衰(frailty due to old age)」と死因に書くことはできるという。
その条件は「故人の健康状態を長期間診てきた」や「死亡の原因となる特定の病気やけがが見つからない」などといったものであり、エリザベス女王は当然これを全て満たしていた。
故人の家族が「old age」という死因に納得できない場合は更に調査をするようなガイダンスもある。
2021年のスコットランドの63587人の死亡記録のうち、死因が「old age」だった人は284人だったという。日本の場合、2021年の死者およそ144万人中、死因が「老衰」とされた人は約15万2000人なので(URL)、日本と比べれば、スコットランドで死因に「old age」と書かれるのは珍しいことだと分かる。(とはいえ、エリザベス女王の夫で2021年に亡くなったフィリップ殿下の死因も「old age」だった(URL))
WHOは最近になって国際的死因の分類に「Senility」を置き換えて「old age」を加えることを提案したが、少なくない医師らから批判が出ているらしい。

Wikipedia英語版に「老衰」という項目がない!?

調べてて驚いたのが、Wikipedia日本語版の「老衰」の項目の他言語版へのリンク。「老衰」の英語版項目が存在していないのだ。

Wikipedia日本語版の「老衰」の他言語版へのリンク一覧。英語版へのリンクが薄色になっていて「老衰」に当たる英語版項目が見つからない状態。

Wikipedia英語版で、日本語版で「老衰」の英訳とされている「Senility」という言葉を検索しても、「Dementia(認知症)」という項目に飛ばされるだけである(「Senility」には老人性痴呆という意味もある)。
リンクが貼られているアラビア語版、ポルトガル語版、スウェーデン語版の項目を読んでも、「老化」の説明が書かれているのみで、死因としての言葉の説明はない。
「老衰」という死因がWikipediaで説明されている国は日本だけというので驚いてしまった。

エリザベス女王の死因発表で日本の「老衰」が海外メディアでも注目

米ウォール・ストリート・ジャーナルが、日本で多用される死因の「老衰」について、良い点や懸念される点をレポートしている。(記者は日本人名だが)

老衰は死因? 日本の医師に異論少なく - WSJ https://jp.wsj.com/articles/can-you-die-of-old-age-more-doctors-are-saying-yes-11663304190

・厚労省は、「老衰」は高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない場合のみ用いる、と強調。
・老衰は医学的に定義されていないため、一部の大学病院では死因に書くことが避けられている

エリザベス女王がイングランドで死亡していたら死亡診断書は発表されなかった

今回スコットランド当局が、エリザベス女王の死亡診断書を発表して、その画像も世界中で報道されている。しかしイングランドにあるウィンザー城やバッキンガム宮殿で亡くなっていたら死亡診断書はなかった。

エリザベス2世女王は近親者がバルモラルに向かう途中で死亡し、死亡診断書が確認された https://www.telegraph.co.uk/royal-family/2022/09/29/queen-elizabeth-died-old-age-death-certificate-shows/

英テレグラフの記事によれば、1836年に成立した出生および死亡登録法は「イングランドにおける陛下の臣民の」死亡を規定しており、国家元首の国王・女王は死亡届けも免除されているという。
しかしスコットランドの法律では、「全ての死亡(all deaths)」を登録するように定められているので、そこに女王と臣下の差はなく、女王の死亡証明書が作成されることになったのだという。

(終わり)

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