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"Time" 徒然(宇多田ヒカルと小袋成彬と色々)

やや遅れて宇多田ヒカルの新曲『Time』を聴いた。

早く聴くんだった。"Prisoner Of Love" を超えて、Hikkiの今までで一番の曲だ。

If I turn back time
Will you be mine?

私はいま「別に落ち込んでもいないし、ハイテンションでもない」という至極落ち着いた状態だ。こういうときに、Timeの静かなサウンドがどっぷりと刺さる。

思いを伝えられなかった「友」? を思う歌だ。過ぎた時間は取り戻せないし、取り戻したとて今はたぶん変わらない。そんな諦念というか、《無理に前を向こうとしない、何かのメッセージを届けようとしていない》スタンスが、「らしい」と思った。

「Time」が醸す何とも言えない懐かしさに膝を打つファンは数多い

と、下記Real Soundの記事にだいたい言われちゃっているけれど、20年前からずっと宇多田ヒカルの世界は、響くベース音とシンプルなシンセで聴かせる「青い炎」が核だった。


Timeの第一印象では、このところリピートしていたアルバムFantômeの6曲目、『ともだち with 小袋成彬』と同じ空気を感じて嬉しくなった。この曲も「友達にはなれない」もどかしさに貫かれていた。


小袋成彬さんについては、「ともだち」を聴き始めた数ヶ月前に何か書こうと思っていたのだけど、アルバム『分離派の夏』を出した時にかなりのパブリシティを打っていて、2年前の記事を読み漁ったら相当語り尽くされた感じがした。

CINRAにある柴那典さんのインタビューを読むと、どの質問にもストレートに答えない「難しい人」だなと思う(それでも的確について行く柴さんのインタビュー力は、さすがの本職と唸らされる)。


宇多田ヒカルと小袋成彬のコラボレーションは、「ともだち」が出発点らしい。Timeの頃にはもう、すっかり共鳴するパートナーとなった落ち着きを感じる。

CINRAの記事と同じ2018年、宇多田ヒカル『初恋』の特設サイトに、座談会コンテンツが発表されている。ここで二人は「他者の存在」と、自己/他者の存在をどう作品づくりに組み入れるか、みたいな話をずっとしている。長い対談だけれど、お互いに好きなことを言い合っている空気を楽しめる。


この対談に出てくる3人目、演出家の酒井一途さんは、小袋さんの友人として『分離派の夏』のInterludeに「語り」で参加している。歩きながらの短い話だけど、彼らに共通する闘争心みたいな強さを、端的に感じた。


ところで昨夜、このnoteを書こうとしながら座談会コンテンツを読み込んでいたら、もう一人タイムラインに上がってきたのでむりやりつなげる。

藤井風の最新作『キリがないから』。

これも時間と向き合う曲だ。しかもスタンスが全然違う。

何も知らない十四の秋
いつまで引きずる中二の時
ここらでそろぼち舵を切れ
いま行け、未開の地

Tokyo RecordingsのYaffleさん(小袋さんの盟友)をサウンドプロデュースに迎えたデビューアルバム『HELP EVER HURT NEVER』が先週出たばかり。強い上昇気流を感じる22歳だ。彼が「いま行け、未開の地」と歌う力強さと、デビュー20周年を過ぎた宇多田ヒカルの揺るぎない安定感と。

そのどちらもが、今聴く私を、勇気づけてくれる。


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