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Power Titan X’es ~eXtra (After Breeze)~


Prologue (Before Breeze)

「進行方向周辺に、高速で上昇する熱源あり」
 評議会館に向かう飛行船の操縦士が、乗員らに報告した。船体には、スターフィールド学生会のシンボル——星を咥えて飛ぶツバメの図——が描かれていた。
「確か、此の辺りには前衛党本部があったな」学生会長のヴィーナスは言った。「演説中に、キングライダーの連中が突撃した様だが」
「熱源を特定。キングビーストの合体機です」
「何だ。尻尾を巻いて逃げたのか」
「どうやら、エネルギーが暴走している様で……」
 其の時、船内に警報音が鳴り響いた。
「プラズマ塊が接近」

「回避しろ」
「言われなくても……やばい。間に合いません」
 プラズマ塊が飛行船を直撃するかと思われた其の時、窓から船内に飛び込んだのは殺傷力の無い青白い光だった。光の奥で破裂音がした後、巨大な菱形の発光体は不安定な点滅を始めた。
「何故、エグゼスが我々を」ヴィーナスは戸惑った。
「大学長から連絡が入りました」通信機の前に控える乗員が告げた。「協議は延期させてほしいと」
「舐めた事を」ヴィーナスは舌打ちした。
「ビーストの暴走はまだ続いているんです」副会長は諭した。「寧ろ、我々も学生を守らなければ」
「……学生の安否を集約する」ヴィーナスは引き返す事を承諾した。「被害が出ていれば、要求内容も増えるな」

eX-III. Demeter

「結局、被害はパワータイタンが未然に防いでしまった様ですね」
 学生会の会議室に委員らが集まる中、副会長が残念そうに言った。
「良かったじゃないか、シリウス」其の点は、ヴィーナスの方が素直だった。「問題は、交渉の件だ。学生のキングライダー関与を黙認していた事が、此方の弱みになるかもしれん」
「其の心配は無いよ」
 会議室にいた一同は身構えた。入って来たのは、キングカラミティが現れて以来の出席となるデメテルだ。
「まだ、遅刻じゃないよね」
「今更、何をしに来た」ヴィーナスはデメテルを睨み付けた。「——とは、言わない。だが、お前は今、どの立場で此処に来た」
「思い出してほしい。貴方達一人一人が、スターフィールドを志した原点を」デメテルはベルトの後方に付けたカラビナから、銅色のカップを外した。
「まさか、お前は11番目の」アルケムの武器を見た事のある者には、其のカップが何であるか一目で判った。
「私は、2代目の錬成(アルケム)」デメテルはカップを机上に置き、席に着いた。「X'es (エグゼス)は2人で1人だし、団結体(ソリッド)なんて百万単位の蜂起だったと言われてる。太陽系では、其れだけ多くの人が巨人(タイタン)として立ち上がってきたんだよ」

「何が言いたい」
 ヴィーナスは問い質した。
「執行部(わたしたち)の決断一つで、潮目は変わる」デメテルは答えた。「生活苦を解消する事なら、私も協力したい。でも、宇宙解放の足を引っ張る様な立場を取れば、却って学生(みんな)の首も絞める事になる」
「そんな調子の良い事、言って」
 委員の一人は憤慨した。
「どうせ、評議会や前衛党のお偉いさんは美味いもん食ってんだろう」
「ファウヌス、其れは無い」流石にヴィーナスも諌めた。「官吏特権があったのは、帝政時代までだ」
「トリトン議長の労働証明でさえ、古典の語彙で言えば“労働者並みの賃金”になってる筈です」シリウスが補足した。
「我々が求めるのは、“必要に応じて受け取る”仕組みだ」
 ヴィーナスは話を戻した。
「だが、“長引く干渉戦争と異常気象が其れを遠ざけている”と。此れが、評議会の常套句だったな」
「常套句っていうか、実際そうだからね」デメテルは腕を組んだ。「時代の変わり目って、濁流に逆らって漕ぎ進めるものだし」
「そういうものだから、エグゼスも我々を助けたのか」ヴィーナスは尋ねた。「見殺しにしておけば、内政問題が1つ減ったかもしれないのに」
「其れじゃ、“問題が減った”事にはならないもの。あ、ピスケスとは直接話して仲直りしてね」
「其れにしても、農業問題が重なったのは不幸な偶然ですね」シリウスは頭を抱えた。
「其れも違うと思う」デメテルは首を振った。「“我亡き後に”の時代に終止符を打っても、暫くは“洪水”の中を生き抜くしかない」
「冗談じゃねえよ」ファウヌスは怒鳴った。「何か、突破口は無いのか。お前、農学部だろう」
「常識的に言えば無茶振りだけど、いいわ。協議迄に考えてみる」
「デメテル……」
 ヴィーナスはデメテルを見詰めた。堂々とした態度で執行部の議論を牽引する姿は、以前の彼女とは別人の様だった。
「お前、変わったな」
「人間だもの」デメテルは微笑んだ。「いや、人間だけじゃないか。ピスケスとアリエスは、エレメンタルだから」

「ハリーの机から、短い手記が見つかったんだって」
 広場のベンチから空を見上げながら、ピスケスは言った。
「ダバラン先生は見せたくなさそうだったけど、見せてもらった」
「それで、何て」アリエスは尋ねた。
「思えば思うほど、自分の痕跡を残したくなる……たとえそれが爪痕であっても——って」
「ああ……其れは見せないわ、普通」
「私は平気だよ。人間には、よくある事だもの」
「そっか。エレメンタルには、恋愛も生殖も無いんだっけ」デメテルは言った。「でも、本当に無いの? 誰かを、好きだなって思う事」
「デメテルは大好き」ピスケスはデメテルに抱き付いた。「……そういう意味じゃないからね?」
「大丈夫。解ってる」
「ところで、よかったのか。協議の方に行かなくて」
「執行部の空気も、ストライキ直後よりは良くなってるし」デメテルは答えた。「貴方達が助けてくれた同胞(なかま)を、私が信じなくてどうするの」

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