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Power Titan X’es ~eXtra (Before X’es)~


eX-I. Pisces

「いつも思うけど、ピスケスって魚介と果物が好きだよね」
 大学のカフェテリアで、ピスケスは何人かの同期と食事を摂っていた。
「そうかも。あと、ドリンクバーは外せない」
「そのジュース、何杯目。水腹になっちゃうよ」
「なったこと、無い」
「やっぱり、水のエレメンタルだから?」
「そうなんじゃない」ピスケスは瞬いた。「でも、パワージェムにはオーガン - organ - って属性もあるでしょ。人間がお肉好きなのも、実は“オーガンのエレメンタル”だからだったりして」
 学友らは皆、沈黙した。ある者は考え込み、別の者はさほど関心も無さそうだった。
——あ、あれ。またやっちゃった……——

「どうしたの。浮かない顔して」
 研究室で放心しているピスケスに、ハリーが声を掛けた。
「だって……」
 ピスケスはカフェテリアでの出来事を話した。
「ちょっと、無神経だったかなって」
「何が」学友の言葉がピスケスを傷付けたのかと思って、ハリーは尋ねた。
「ほら、お肉って食べない人もいるし」
「え、君の方? でも確かに、皆んなが黙ってたら怖いよね」
「先輩がいたら、拾ってくれてただろうなって思うんですけど」
「済まない。昼はスコルピオのメンテで……」
「いやいやいや! 謝ることじゃ無いです」ピスケスは慌て気味に言った。「それに、よっぽど優しい時代になりましたよ。帝国の全盛期とかに比べたら」
「ああ、前に言ってたな。迫害を逃れて、海に潜ってた時期もあるって」
「太陽系の外は、まだそんな感じの星が沢山ですよね」ピスケスは窓越しに空を眺めた。「宇宙の全員(みんな)が解放されないと——」
「——宇宙の誰も解放されない」ピスケスに続いてハリーが唱えたのは、ダバランが学生に説いている合言葉のようなものだった。
「先生に出会ったのは丁度、ケフェウスが宣戦してきた頃だったんです」ピスケスは語った。「砂遊びしてたら、セミフォーマル姿で歩いて来て。“力になってほしい”って」
「じゃあ、スカウトで研究室に入ったようなものか」
「まさか、パワータイタン候補だとは思わなかったですけどね」
「……今までの変身テストは、辛かっただろう」
 丁度この時、ダバランは“10th Titan”の構想を2人のエレメンタルによる合体変身に切り替えていた。
「俺が代わってやれたら、良かったんだが」
「仕方無いですよ。パワージェムだって無尽蔵じゃないし」ピスケスは腰から生えた魚の尾をくねらせた。「先輩は、エレメンタルの友達でも連れて来て下さい」
「知り合いには居ないが……」ハリーは苦笑した。「山とか、探してみようか」
「それ、良い。今度、一緒に行きましょ」

「……なんか、君が俺に敬語なのも不思議だよな」
「確かに……でも、先輩は先輩ですから」ピスケスは笑った。それは、頼りにしていることのピスケスなりの表現だった。
「そっか。まあ、俺は何でもいいけど」ハリーも微笑んだ——それは、本心を隠す為の笑顔だった。

eX-II. Aries

「断る。お前達を此処に置いて、俺だけ太陽系へ逃げるなんて」
 ハーケンベアーは自律式兵器を開発する為に、研究材料としてエレメンタルを掻き集めていた。
「逃げろとは言っていない。お前が宇宙連帯の架け橋になるんだ」マンションの一室でアリエスを諭したのは、反ハーケンベアー同盟「コルヌス」の指導者を務めるギエディだ。
「“自由の国”を謳いながら、殺戮と略奪を繰り返してきたケフェウス連合政権」もう1人の仲間であるドラドも、アリエスに語った。「それと最前線で戦っているのが、革命太陽——」
「そんなことは知ってるんだよ」アリエスは怒鳴った。「言ったよな。憲兵が襲って来たら、俺の能力で同盟(みんな)を守るって」
「私も言った筈だ。我が同盟は、孤高の拳(こぶし)によって闘うのではないと」
 まさにその時、乱暴なノック音が3人の話し合いを遮った。それは明らかに、客人や配達人のノックではなかった。
「噂をすれば」アリエスは2人の仲間を脇に抱え、窓から飛び降りた。非公然アジトとして使われていたその部屋は、古びたマンションの5階にあった。

「指名手配のギエディだ」
 アリエスが降り立った地には、数人の憲兵が待ち構えていた。班長らしき1人が警笛を吹くと、残りの憲兵は警棒を抜いて3人に迫った。
「敢えて、玄関前じゃなく窓側ね。挟み撃ちって訳だ」アリエスは全身から爆炎を噴出し、憲兵に突進した。
「火のエレメンタルか。生け捕りにするぞ」憲兵は発砲した。「相手は殺しても死なん。手加減は無用だ」
「そうはさせん」ギエディは懐に隠し持っていたカプセルを取り出し、ボタン状の蓋を押して透明な球形の栓を落とした。カプセルは忽ち膨れ上がり、燃えるアリエスの体に大量の水を浴びせた。
「は? 何をしやがる」不意に鎮火され、ずぶ濡れになったアリエスは、踵を返して仲間達に詰め寄った。
「早く行け」ドラドはアリエスの背中を強引に押し、カプセルの中に押し込んだ。
「これは……」アリエスの眼前に並ぶ計器や操作盤が独りでに作動し、背後からはエンジンの轟音が聴こえてきた。「彼奴等、どうしても俺を逃がす気だ」
「離陸させるな」憲兵はカプセルに銃撃を集中した。カプセルは傷一つ付かず、瞬く間に拳銃の射程から外れた。
「しまった。あとの2人は」
 カプセルの死角になっている間に、ギエディとドラドもその場を離れていた。
「空軍に緊急連絡。“未確認船を撃墜されたし”と」班長は力無く命じた。「懲罰房行きは免れんぞ。私もな」

 宇宙船「ガニメデ」の設計は秀逸だった。シートに据え付けられた変換器がアリエスのパワーを吸収して光弾に変え、AI制御で空軍のミサイルを迎撃した。
「これじゃ、脱出も儘ならないな」アリエスは観念した。「なってやろうじゃないか。宇宙連帯の架け橋って奴に」

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