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食べログ1.9から始まった飲食店経営。まちの世界観をかたちに

「大塚、最近なんだか楽しそうだよね?」

嬉しいことに、そんな風に言ってもらえることが増えてきました。

そう、「なんだか楽しそう」って、とても大事。
ワクワクして人の心が踊るように、大塚のまちの体温を上げていく。
その取り組みが、大塚を変革するプロジェクト「ironowa ba project(いろのわ・ビーエー・プロジェクト)」です。

僕は、不動産業を営む一方で、実は飲食店経営も手がけています。星野リゾートが入るba01の1Fのカフェ「eightdays dining」と、B1Fの卓球パブ 「ping-pong ba」です。

今回は、初めて手がけた飲食店経営で直面した、手痛い失敗の話です。

泊まる、食べる、暮らすを大塚で同時オープン

山口不動産は、大塚駅北口に星野リゾートのホテルが入るビル「ba01」を開業した2018年5月、古民家を新たな居酒屋街にした「東京 大塚のれん街」を展開する「ba02」と、人とのつながりを感じる住まいとしての新築賃貸マンション「ba03」を、ほぼ同時にオープンしました。

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泊まる場所としてのホテルがあって、豊富なグルメとしてのれん街があり、暮らしを支えるマンションがある。

人の営みとして欠かせないことを、同時多発的にスタートし、その際に、山口不動産がすでに所有していたビルにも「ba」とつけ、「ba01」~「ba07」までブランドとして統一しました。

竹中工務店と組んでビルを2棟建てて、1つには星野リゾートが入るとなれば、「大塚のまちを変える」説得力として、相当インパクトあるだろうと一人勝手に鼻息を荒くしていました。

誰もやってくれないから飲食店経営へ

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星野リゾートの誘致が決まり、ba01の他の区画のテナントを考え始めた頃、僕の意思決定の基準は「自分がワクワクするか否か」

自分がワクワクしないものを人に勧めるのは失礼だ。そんな信念のもと、大塚には魅力的なカフェやレストランが不足していたのは明らかでしたから、感度の高い飲食店にお声がけし、いくつかはシェイクハンド寸前のところまでこぎ着けました。

しかし、最終段階でどの候補先からも「星野さんが入るので可能性は感じるのですが、やっぱり大塚は(ブランドイメージと合わないので)やめておきます」と言われてしまいました。この当時、やはり大塚は見くびられていたのですね。心の底から悔しかったです。

ならばと、大手のコンビニやドラッグストアに入ってもらうプランもありました。賃料も見合いますし経営も安定していて、合理的には正しい選択かもしれません。でも、失礼ながらそれだとワクワクしない。

前述したように感度の高いカフェやレストランが大塚にはなかったので、誰もやってくれないなら自分でつくってしまおう。そう決めたのです。

食べログの低評価で星野リゾートからもクレーム

僕にとって飲食店経営は、初めてのこと。完全に、甘く考えていました。

開店前にeightdays diningで試算していた月商は、1500万円。きっと儲かるだろうから、2号店、3号店もすぐに豊島区内に出そう、目白とか駒込がいいかなぁ。そんな妄想を頭に巡らせていました。

しかし、そんな楽観的なノリと勢いで突っ走るだけでは、店の運営やオペレーションはじめ、スタッフのチームづくりなど何ひとつ上手くいくはずがありません。オープン前に店舗運営を一任していたビジネスパートナーとのトラブルも起き、早くも雲行きが怪しくなってきました。

無事に開店はできたものの、オープン当初のお客様からのカフェの評価は、サービスも、提供する料理も散々。食べログの評価は、5段階評価で1.9という惨憺たるものでした。

僕でもできることであればできる限りサポートしよう。人手不足も重なり、ワイシャツ姿のまま自ら店頭に立ち、ホール業務を手伝ったりもしたのですが・・・

数日後、ある口コミサイトに「店の制服を着ないで、スーツのシャツ姿で店内に立っている店員が邪魔だった」という低評価コメントを見つけてギョッとしました。

加えて、星野リゾートが入る建物の1Fに入る飲食店なので、星野リゾート運営のレストランだと思う人も少なくなく、星野リゾートに対して直接クレームがいってしまったこともありました。「武藤さん、ちょっといい加減にしてください!」と、星野リゾートの支配人からもお叱りをもらってしまう有様でした。

自ら経営にかかわる飲食店の評判が悪いのは、辛い。僕たちが誘致した星野リゾートの評判をも、自分の店のせいで下げてしまっていた状況は、とても苦しかったです。

カフェは、まちのリアルな声が集まる、学びと実践の場

eightdays diningのオープンから、3年が過ぎました。

手痛い失敗を経験して以降、どうすれば来ていただいたお客様に喜んでもらえるのか? 現場スタッフとメニューやサービスの試行錯誤を重ね、地道にひとつひとつ改善していきました。その甲斐あってか、食べログの評価も3.4~3.5まで上がってきました。

店舗運営やサービス改善はいまも途上ですし、正直に明かすと、店舗単体だけで見ると、コロナ禍の打撃もあり、今でも赤字です。

でも、eightdays diningの経営に挑戦してよかったと、心から思っています。

理由は、大きく3つあります。

1つは、変わりゆく大塚の世界観を発信できること。

eightdays diningは、僕たちが新しい大塚でやろうとしていること、一刻一刻変化する大塚を体現する、いわばbaのシンボル的な場所です。

新メニュー開発や接客サービスの向上はもちろんのこと、店内にアート作品を展示したり、休日には店外のデッキで小さなイベントを開催したり。「やってみよう」と思ったことを即実行できる、実験的な場として機能しています。

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現在店内に展示しているのは、浜崎あゆみさんのアートワークなどで知られる原神一さんの作品

2つ目は、まちに集う人たちのリアルな声を聞ける場所であること。賃貸マンションba03や、街の清掃活動 「#CleanUpOtsuka」を通して、まちの人たちと、ダイレクトかつ、双方向のコミュニケーションを実現している話をしましたが、カフェにもその機能があります。

常連さんからは、料理やサービスの感想をいただくところから始まり、「ゴミ拾い活動の参加呼びかけに協力するよ」とか、「広場や駐車場でこんなイベントがあったら嬉しい」といった声を、直接いただくことができます。

まちを変える! そう旗を掲げても、大塚に長く暮らしている住人の方々との会話なくしては、それが本当に望まれたものかどうか確かめられません。個人と個人が顔を付き合わせて話をするからこそ出てくる本音を、僕たちのプロジェクトに活かしたいと思っています。

eightdays diningという店(場所)を起点に、つながり合う。

誰もやらないなら自分たちで! と飲食店経営にチャレンジしたことの結果論ではありますが、カフェの存在が、大塚の生の声を聞き、プロジェクトの方向性をチューニングするための重要な場所になっているわけです。

飲食店をやって良かった3つ目の理由は、経営者としての僕に足りないことを、実践で学べるから

3年前にオープンしてすぐのガタガタだった店の状態は、まさに、経営者としてヒヨコの僕そのものでした。

先祖から受け継いだ不動産があるから、安定的な収入を得られる。そんなぬるま湯に浸かっていた自覚が、当時の僕には不足していました。一食1000円〜1500円のランチを丁寧に届けていく飲食店経営は、自分のビジネスに対する詰めの甘さを、はっきりと突きつけてくれました。

会計士として備えていた知識だけでは、飲食店の経営はやっていけない。そう気付けたことで、経営や組織づくりなど自分の知識が足りない分野については、メンターを見つけて学びに行くようにもなりました。

まだまだ課題の多いeightdays diningは、経営者としての僕を写す鏡であり、大塚の現在位置を現していると思っています。僕の成長が店の成長だし、店の成長が街の成長。そう思って僕は、eightdays diningと二人三脚をし続けています。

大塚のまちの中心で飲食店を続けることで、大塚に興味を持ってくださる方に、山口不動産が本気でこの街を変えようとしている覚悟が少しでも示せていたら嬉しいです。

次回は、そんな飲食店経営の大先輩、「東京大塚のれん街」をプロデュースされた、株式会社スパイスワークスの下遠野社長と対談します。

大塚のまちをカラフルに、ユニークに

大塚が変わるプロジェクト「ironowa ba project(いろのわ・ビーエー・プロジェクト)とは?(▼)

編集協力/コルクラボギルド(文・平山ゆりの、編集・頼母木俊輔)


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