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【ほっこ冊】📕行き詰まったときに読む本📕

こんにちは、あんぼです。

ほっこりする一冊、略して”ほっこ冊”と勝手に名付けてみました。

営業として自分が行き詰まったときに読む本の一冊😊🌱

~「営業」がかけがえのない仕事になる12の物語~ 太田彩子著

人って"勘定"ではなく"感情"で判断するよね~(はるな愛風に)と再認識させられる作品。
AIとは違った有機質な世界です。

純度を保ちたく、、そのまま一部引用させていただきます🙏

久しぶりに読んで涙してしまいました😂


「営業」がかけがえのない仕事になる12の物語(太田彩子著)より抜粋

 道を間違えたんじゃないか・・・
 そのころ、ずっとそんなことばかり考えていました。

 私はつい半年前まで家庭に乳酸菌飲料の販売をするスタッフをしていました。スクーターに商品を積み込んで、一軒一軒担当エリアを回る仕事でした。何年もその仕事をしていると、そのエリアの人たちとはすっかり顔なじみになります。玄関のチャイムを鳴らして、おうちの方が出ていらっしゃると挨拶をして「今日は何がよろしいですか?」とたずねると、「そうね・・・」と言ってご注文してくださいます。

 なかには一人暮らしのお年寄りもいらっしゃいました。気の毒でしたので、ときには郵便受けに溜まっているものをお届けしたり、ゴミ出しを手伝って差し上げたりしました。すると、とても喜んでいただけました。
 あるときひとりのおばあちゃんが商品を受け取りながらこう言ってくださいました。

「あなたが来てくれると気持ちが晴れるよ。いつもありがとね」
 そんな声をかけていただくのがうれしくて、日々の仕事は決して辛くありませんでした。お客様に恵まれていたこともあって販売成績もよく、何度か会社から賞をいただくこともありました。
 そんなある日、営業所の所長に呼び止められました。耳打ちをされてびっくりしました。

「ヘッドハンティング?」

 私はその言葉すら知りませんでした。
 なんでも、私が通っているエリアのお客様で不動産会社の社長さんがいらっしゃるそうで、奥様から私の評判をきいたのだそうです。

「どうしても君にその会社の営業で働いて欲しいとおっしゃってるんだよ」
「でも・・・」

 給料などの条件はびっくりするようなものでした。でも、あまりに突然のことだったので戸惑っていると所長はこう言いました。
「こんなチャンスはもう二度とやってこないかもしれないよ。それにもしもイヤになったらいつでも戻ってくるといい。ロッカーもそのままにしておくから」

 しばらく悩みました。
いまの仕事は好きでしたが、あまりに熱心に先方が誘ってくださいますし、正直なところ、いまの給料ではいつまでたっても恋人と結婚できないとも思っていました。そこで不安を覚えながらも思い切って挑戦してみることにしたのです。

だけど、それは思った以上に厳しい仕事でした。

配属になったのは住宅展示場でした。
新聞の折込広告やテレビなどで広告を出して、ご来場いただいたお客様に「どのような住宅に住みたいか?」といったアンケートをお願いします。そこに書いていただいたことを参考にしながら、後日改めて営業するという流れです。来場される方は「見込み客」です。はじめのうちは「意外に簡単に受注できるかも・・・」なんて思いましたが、そんなはずはありませんでした。

勉強しなければならないこともヤマのようにありました。壁の材質のこと、床暖房のこと、耐震構造のこと、二重サッシのこと・・・。いろんな本を買い込んで一生懸命勉強しましたが、そう簡単には知識はつきません。ノートにメモをとりながら、ひとつずつ理解していくことで精一杯でした。
しかも、これだけ情報があふれる次代です。勉強熱心なお客様の質問にお応えできずに、「君じゃ話にならない」と担当を替えられることもありました。

この職場に来て半年がたってもまだ一件も受注できていませんでした。
すっかり自信をなくした自分は転職したことを後悔し始めていました。スクーターに乗って町を走っていたころのことを何度も何度も思い返したものです。

思えばあの頃私が売っていたのは数百円のものでした。ところが今は数千万円もする住宅です。お客様は「一生の買い物」をされようとしているのです。

「家を買ったこともない私がそんな大事なものを売っていいんだろうか・・・」

そんな思いがしてなりませんでした。
唯一救いだったのが、お客様の「夢」をうかがうのが楽しかったことです。
ときには気まぐれで訪問される若いカップルもいらっしゃいます。おそらく家を買うつもりはないけれどもおふたりでちょっとした夢を見にいらっしゃるのでしょう。そんなおふたりをご案内しながら一緒になって「キッチンは広いほうがいいですよね」「小さくてもいいですから庭が欲しいですね」などと“理想の家”を思い描くのがとっても楽しかったのです。その“理想の家”でおふたりが幸せそうに過ごしている姿を想像するだけでこちらまで幸せな気分になれたからです。

そんなある日、一組のご夫婦が来場されました。

「こんにちは!」
私は飛んでいってご挨拶しました。
お歳は六十代くらいでしょうか。上品なたたずまいのご夫婦でした。ただ、もう温かい季節だというのに奥様がニットの帽子をかぶっていらっしゃるのが少し気にかかりました。
「よろしくお願いね」
奥様は優しくそうおっしゃいましたが、旦那様は私が若かったからでしょうか。どこか不満そうなご様子でした。
私はドキドキしながらマニュアルに沿ってご案内を始めました。私がご説明するたびに旦那様は細かく質問をされました。それは、まるで私を試そうとしているようでした。ときどき言葉に詰まりながらも何とかそのひとつひとつにお答えしていたのですが、太陽光発電に関する「法律上の問題」についておたずねになったときに立ち往生してしまいました。いつか、そのことについてある先輩が話していたような気がしました。たしかノートに書き留めたはず・・・。

「すみません、ちょっとお待ちください」
私は慌てて脇に挟んでいたノートを開こうとしました。そのとき、ノートにはさんでいた資料をご夫婦の前でぶちまけてしまいました。

「ご、ごめんなさい。本当にすみません!」
私は気が動転してひたすら謝りました。
「あらあら・・・」
奥様はゆっくりと腰を曲げて散らばったペーパーを拾い集めようとしました。そんな奥様を旦那様はいたわるように制止するとご自身で拾おうとされましたので「自分で拾いますからどうぞおやめください」と言いながら床にはいつくばって拾い集めました。ペーパーをくしゃくしゃにしながら集め終えた私に旦那様はこうおっしゃいました。

「困るんだよなそういうの。家を買うって一生の買い物なんだよ。こっちは真剣なんだ」
「すみませんでした。勉強不足で。」

 やっぱり私なんかじゃこの仕事は務まらないんだ・・・。呆然と立ち尽くしていると、旦那様は気まずいような表情で別の部屋のほうに立ち去ってしまいました。

「ごめんなさいね。いつもはあんな人じゃないんだけど・・・今日ちょっとイヤな話を聞いたもんだから・・・」

奥様は申し訳なさそうにおっしゃるとそばに置いてあったソファに腰をかけました。
「いえ、とんでもありません。この仕事をはじめてまだ日が浅くて・・・力不足でほんとうにすみません・・・」
「あら、そうだったの。じゃ、今はたいへんな時期ね」

そうおっしゃりながら奥様は「あなたもおかけなさい」と目配せされました。恐縮しながらそばに座ると奥様はこんな話をされました。

「実はね、もうすぐ初孫が生まれるのよ。それを機に自宅を二世帯に建て直して息子夫婦と一緒に住めないかなと思ってるの。まだ決まったわけじゃないけど。ほら、やっぱりお嫁さんにすれば気を遣うんじゃないかって思うじゃない?だから、普段の生活は完全に別にしてあげたいの」
「そうだったんですか・・・赤ちゃん、可愛いでしょうね。楽しみですね!」
「そうね。ほんとに楽しみ・・・」

そうおっしゃる声がかすかに涙声になったように聞こえました。それがまた少し気にはなりましたが、私はいつものように新しいお宅でくつろぐご家族の様子を次々に思い浮かべました。きっとご夫婦のリビングは少し広くしたほうがいいわ。お孫さんを連れて息子さん夫婦が遊びに来たときにゆったりと過ごせたほうがいいもの。キッチンも広めのほうがいい。だってお嫁さんと一緒にお料理する機会もあるはずだから。二世帯にすると床面積が増えるけどお孫さんが草木に触れられるように少しでも広くお庭のスペースをとりたいよね・・・。
私はついさっきまで泣きそうだったことも忘れて、そんなイメージを夢中になってお話しました。
それを奥様は「いいわね」「それは素敵ね」などと相槌を打ちながら楽しそうに聞いてくださいました。気がつくと旦那様もそばに戻っていらっしゃいました。その旦那様に奥様はこうおっしゃいました。
「ねぇあなた、この方のイメージする間取りをつくってみてもらいましょうよ」
「それは、かまわんが・・・」
旦那様はしぶしぶそう応えました。

それから私は設計の担当者と一緒になって間取りづくりに取り組みました。この仕事を始めてからここまでたどりつけたのははじめてでした。それにきっとこの図面を見せながら、息子さん夫婦に同居を提案するに違いありません。自然と気持ちがこもりました。何度もご夫婦に電話を差し上げ、ご意向を確認しながら作業を進めました。ひとつだけ不思議なことがありました。
いつお電話を差し上げても奥様が出られません。すべて旦那様がお出になるのです。そして「妻は○○を希望している」と伝えられるのです。
どうして奥様は直接お伝えにならないのだろう・・・。

それが不思議でなりませんでした。
旦那様からはやはり厳しい質問が相次ぎました。何度も即答できず、イライラさせてしまいました。二ヶ月ほどかかったでしょうか。ようやく図面ができあがりました。そのとき旦那様はこうおっしゃいました。
「申し訳ないが、数社から図面をもらっている。これから家族で相談したい。しらばく待ってほしい」
「当然のことです。どうぞゆっくりとご検討ください」
私はそう応えながら何度も旦那様を怒らせてしまったことを思い返していました。「きっとダメだよな・・・」と思いました。
ところが数日後、旦那様から連絡がありました。
「オタクに決めた。息子夫婦も“この間取りなら”といってくれたよ。妻も喜んでいる。これからよろしく頼むよ」
それは私の初受注の瞬間でした。
私は踊りあがりそうな自分を抑えるので精一杯でした。

半年後――。

一通の手紙が届きました。
差出人はあの旦那様でした。
まっさらな二世帯住宅を引き渡したのはひと月ほど前のことでした。事務処理もすべて終わったはずです。
「なんだろう?」
私は不安を覚えながら手紙に目を通しました。
そこには旦那様の律儀な字でこう書かれていました。
「このたびは素敵な家を建ててくださり、ほんとうにありがとうございました。いろいろ厳しいことを言ってしまったことをお許しください。この手紙は妻にことづかって書いています。妻にどうしてもあなたにお礼を伝えてほしいと頼まれたのです。
妻は先週亡くなりました。
実はあなたと初めて出会った日に妻が末期がんであるとの診断がくだったのです。すぐに入院するように言ったのですが、どうしてもモデルルームに行きたいと言いました。その前からずっと息子夫婦と一緒に暮らしたいね、と話し合っていましたし、妻に“孫が生まれたら夫婦だけで育てるのはたいへんだし、私がいなくなったらあなたひとりになってしまう・・・”と言われると“ダメだ”と言えなかったのです。
正直に申し上げると、私は別の会社の担当者のほうがしっかりしているので“任せられる”と思っていました。しかし、妻がどうしてもあなたがいいと言って聞きませんでした。
“どうして?”と尋ねるとこう言いました。
“私はね、別に柱や壁がほしいんじゃないの。家族が幸せに過ごす場がほしいの。家族が集まって幸せをひとつひとつ積み重ねていくための場がほしいの。そんな家を任せられるのは彼女しかいない。あんなに私の気持ちに寄り添って一緒になって考えてくれた人はいない。他の人は説明はしっかりしてるかもしれないけど、私が求めているような話はひとつもしてくれなかった・・・”
妻はあなたと出会ってからほどなく入院して以来、ずっと病院のベッドの上で過ごしていました。
だけど亡くなる二週間ほど前に、新しい家に一泊だけしてもいいという医師の許可がでました。妻は衰弱しきっていましたが、それはそれは楽しそうでした。その時の写真を同封しています。
いまはあなたにお願いしてほんとうによかったと思っています。
ありがとうございました」

私は胸がいっぱいでした。
そして封筒から写真を取り出しました。
そこには可愛らしい赤ちゃんを抱っこして静かに微笑む奥様のお顔が写っていました。
「ありがとう・・・」
奥様の声が聞こえてきそうでした。
そして「あなたはそのままでいいのよ。がんばってね」と言ってくださっているようでした。
そう思うと、私の頬を涙がつたいました。

彼女はこのとき気づいたと言います。
「要するに一緒だと思ったんです。五百円のものを売るのも、数千万円のものを売るのも。大切なのはお客様の気持ちに寄り添うこと。お客様に幸せを届けようとすること。その気持ちがホンモノだったらきっとうまくいきだすんです」
そのとおりだと思います。
私はいつもこう自分に言い聞かせています。
あなたはお客さまを幸せにするために働いているんだよ、と。
もちろん商品やサービスを買っていただけなければ食べていくことはできません。だけど、それはお客さまに幸せをご提供することができたときにはじめて与えられる「ご褒美」なんです。そして、その気持ちをもっている人こそがモノを売る「資格」があるのだと思うのです。
その思いがホンモノであれば知識やスキルは自然と身に付いてきます。
だって知識やスキルがなければお客様を幸せにすることなどできないからです。その気持ちがあれば自然とそれらを身につけようと努力し始めるのです。
実際かつてはシドロモドロだった彼女も今では住宅販売に関する知識を完璧なまでに備えています。そんな時期があったことが想像もできないほどです。
だから、あなたもときどきご自分に問いかけてみてください。
自分は何のために働いているんだろうか、と。

お客さまの幸せを願う。
その気持ちがいちばん大切。



こんな話が12も集約されています。

営業に行き詰ってしまったとき、人を信じられなくなってしまったときに効果的なおすすめほっこ冊です🌱

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