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SS【トンネル】
今はもう使われていない廃トンネルへ興味本位でやってきた若いカップル。
そこは車が一台通るのも厳しいくらいの幅しかなく、長さも百メートル足らずの小さなトンネル。
ネット上では、そのトンネルへ向かった者が次々に消息を絶っているという書き込みがあった。
梅雨明けしたばかりで、これから本格的な暑さに見舞われようとしている。
豊(ゆたか)と恵(めぐみ)は手にライトを持ち、トンネル内を照らしながら慎重に進んだ。
夜中の午前一時を少し過ぎ、トンネルの中も外も漆黒の闇に包まれている。
侵入してすぐに虫の声が消えた。
熱帯夜だというのに、奥へ進めば進むほど冷んやりとした空気が立ち込めている。
二人は付き合い始めて三ヶ月。
古い建物が好きな恵の影響で、時には誰も居ない廃校を探索することもあった。
行動力のある豊に対して、恵はどちらかというと控えめな性格だったが、それらを探索する時は驚くほど積極的になった。
ただ今回は少し状況が変わった。
ここ数ヶ月、色々な場所を二人で探索してきた。
深夜にやってくるのは初めてだ。
恵は深夜の雰囲気を味わいたいという。
豊がネットで見つけたトンネルについての記事。
そこにはこう書かれていた。
ふだん人間社会から姿を隠している古き者たちの中には、人間を糧としている者もいる。
その存在に気づく人間もいて、その多くは距離を置こうとする。
しかしごく稀に古き者たちを利用する者もいる。
自分の手を汚さず気に入らない相手を殺させたりするのだ。
たとえば真夜中に古き者の隠れ家に誘ったりして。
普通なら行かないだろう。
だが、巧妙なやり方で、その悪意に途中で気づくのは難しい。
俺は運良くギリギリの所で逃げることができた。
その場所にさえ行かなければ犠牲になることはない。
誰もいない漆黒の闇には決して近づくな!
どんな時も隣にいる者を疑え!
そろそろトンネルの中間地点に到達しようとしている。
豊は恵を横目で見た。
恵は歩みを止めてライトを消した。
全方向に対して警戒していた豊は、前方の天井に何かが張りついていることに気づいた。
四本の脚らしきものが見える。人のような形にも見える。
耳元近くまで裂けた大きな口からはオオトカゲの尻尾のような長く太い舌がぶら下がっている。
恵はライトを消したままゆっくりと後ずさりしている。気づいているようだが不思議と表情は冷静だ。
天井にいるそれがジワリジワリと近づいてくる。
豊はライトを消して素早く恵の背後に回り込み、恵の顔をライトで照らした。
ふり返った恵が「え? ちょっ、まぶしい!」と声を上げる。
豊は言葉を返した。
「そういえば百万円貸したままだったね。細かいのも入れればもっとか。実は君のことを徹底的に調べたんだ。君にお金を貸した人たちはみんな行方不明になっている」
「何言ってるの豊・・・・・・」
「悲しそうな表情も上手だね。俺が貸したお金は返さなくていいよ。高い勉強料だったけどね」
豊は全力疾走で来た道を戻った。
外に出る瞬間、トンネル内に断末魔の叫びが響き渡った。
豊は車を飛ばして、たった一人帰路についた。
それから一ヶ月ほど経ったある日。
例のトンネルへ肝試しに入った数人の若者が、人間の骨とズタズタに引き裂かれた服を発見したというニュースが流れた。
終
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