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SS【受け継がれた奥義】
ぼくは今、四人組の悪そうな男たちにつけられている。
友人から誕生日プレゼントとしてもらった宝くじで百万円当選し、嬉しさのあまりラーメン屋で百万の札束を取り出し眺めてしまった。
背中に誰かの視線が刺さるのを感じて振り返ると、そこには目つきの悪い四人の男。
ぼくはサッと夕食を済ませ店を出たが、奴らはついてきていた。
店の横に鍵をかけて置いていた自転車はどこにも見当たらない。
ここら辺は一目も少なく、お世辞にも治安が良いとは言えない。
ぼくが軽く走ると、奴らも同じくらいのペースで走り出した。
ぼくが歩けば奴らも歩く。
間違いない、ぼくは狙われている。
こんな時に携帯を家に置いてくるとはついてない。家までは歩くにはかなり距離があった。
薄暗い高架橋の下に入った瞬間、奴らは一気に距離を詰めてきた。
ぼくは全力で高架橋を抜け、そこから一番近い大きな屋敷に逃げこんだ。
呼び鈴を鳴らし大きな木の引き戸を開け、玄関に入って大声で叫ぶ。
「すいませーーん!! 誰かおられませんか?」
返事はない。
奴らの足音が聞こえる。
中から鍵を掛けようとしたが鍵らしきものはない。
次の瞬間奴らが玄関になだれ込んできた。
ぼくは靴を脱いで屋敷の中へと急いで逃げ込む。
奴らは土足のままバタバタとうるさい音を立てて追ってきた。
ぼくはあっという間に、座敷の床の間の壁に追い詰められた。
金の入ったカバンをよこせと言う奴らの要求を拒むと、奴らの一人が壁をドンッ!! と強く叩いて脅してきた。
しかしその瞬間、床の間の壁はクルッと回転し、壁を叩いた男とぼくだけが隠し部屋に入った。
男が唖然としている隙に、ぼくは廊下に出て、今度は階段を駆け上がる。
男は残りの三人とともに階段を駆け上がり追ってきた。
ぼくは先頭の一人が階段を昇り切る瞬間に、天井から垂れるロープを強く引いた。
すると階段は一瞬で急勾配のスロープへと変化し、四人とも下まで滑り落ちた。
この仕掛けを知っていたわけではない。ただなんとなくそんな気がしたから引いてみたのだ。
簡単には登ってこれないはずだ。
この隙に二階から外に降りるルートを探すことにしたぼくは、玄関で靴を脱がなければよかったと後悔した。
ある部屋に入ってぼくは腰が抜けそうなほど驚いた。
横幅二メートル、丈はもう少しで天井に頭がつきそうなほど大きなカエルがジッとこちらを見ている。
「まずい・・・・・・信じられないことに、おそらくこれは本物だ。ぼくを餌と思って丸呑みにするかもしれない」
心配は的中し、大きなカエルはぼくに照準を合わせ始めた。
今動けば食われる。しかし逃げなくても食われる。
ぼくは絶対絶命の危機に陥った。
その時、天井の一部が開き、白く長いあごヒゲをたくわえた小柄な老人が音も無く舞い降りた。
そしてカエルに「待て!!」と言った。
ぼくは、泥棒四人組に追われて勝手に屋敷に上がり込んだことを謝った。
すると老人は「ほう」と言って、それから「泥棒四人組とはそいつらのことか?」と聞いた。
気がつくと奴らはスロープを登り切り、すぐ背後までやってきていた。
泥棒たちは完全に頭に血が昇っている様子で、今や交渉する余地も無さそうだ。
老人は泥棒たちにこう言った。
「わしは悪人には容赦ないぞ。今なら引き返せる。帰りなさい」
しかし泥棒たちは、あろうことかぼくとお爺さんを殺し、ぼくの百万円だけではなく、この屋敷のお金も盗ってやろうという結論に達した。
奴らは大きなカエルに気づいていない。
それもそのはず、カエルはいつの間にか擬態し、部屋の景色に完全に溶けこんでいた。
泥棒たちは隠し持っていたナイフを取り出しぼくに近づく。
するとお爺さんはカエルに「よし!!」と言った。
一瞬だった。
ぼくがまばたきしている間に二人が消え、もう一回まばたきすると残りの二人が消えた。
あとにはナイフだけが残っていた。
お爺さんは言った。
「このカエルは歳での、もうお迎えが近い。最後に腹一杯食わせられてよかった」
ぼくは忍者屋敷の大きなペットに餌を運ぶ形となった。
後日、高級な茶菓子を持参して忍者屋敷を訪ねた。その時に聞いた話によると、カエルはお爺さんの忍術で自在に大きさを変えれるらしい。
ぼくはお爺さんと話し合い、今回のことは二人だけの秘密にして墓まで持っていこうと決めた。
それから半年ほどしてカエルが亡くなり、お爺さんはその三年後に亡くなった。
身寄りが無いことを知ったぼくは、当選金の百万円でお爺さんに墓を建ててあげた。
現在ぼくは、お爺さんの残した忍者屋敷でカエルを飼っている。
他人が見たら気を失うかもしれないくらい大きなカエルだ。
でも、いつでも小さくできる。
お爺さんから教えてもらった忍術の奥義で。
終
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