散文【北へ】
外は焼けるような陽射しが照りつけ、熱された石は肉が焼けそうだ。
夏場はパンイチで裸の王様になるぼく。
こんな暑い時期はパンイチで冷房の効いた部屋に限るし、お出かけなんてしたくない。
今の時期は山の方へ行くと刺されると厄介な虫がたくさん飛んでいる。
お盆休みはお墓参りを済ませたら自宅で小説を書こう。
連休だからストックを作るチャンスだ。
たまには図書館や喫茶店で書くのもありだ。
自宅では思い浮かばないようなストーリーが生まれるかもしれない。
しかしぼくがカレンダーに書き込んだ休みの予定を見た女王は、ぼくにこう言った。
「休みなんだから車で山梨に連れてってよ。それか北海道」
ここは富山、日本海側で本州の真ん中辺りだ。
するとそれを聞いていた第一王女も口を開いた。
「え? 電車で行こうよ!! 東京!!」
第二王女は静かにことの成り行きを見守っている。
ぼくはニヤリとした。
なんだかんだいつも車の旅行になる。
そして女王の命令でお金のかかる場所は避け、高速も使わない。旅が数日に及んでも宿泊代をケチって車中泊になることが多い。よくて健康ランドだ。
以前は四日かけて本州を半周したこともあった。なのにホテルに泊まったのは一日だけ。あとは狭い車で車中泊だった。
でも女王だけはそれが楽しいらしい。
ぼくたちにはとうてい理解できない。いや、理解したくもない。運転しているぼくはたまったものではない。
帰ってくるともうグッタリで、オドメーターは二千キロ以上進んでいたのには萎えた。
しかし今回は手を打ってある。
車検の日を調整して旅行へ連れていけと言いそうな日にかぶるようにしたのだ。
しかも今回は足回りを中心にあちこちガタがきているので、日数が掛かるだろうし、最近の社会情勢で部品の調達にも時間がかる可能性もある。
女王は乗り心地の悪く慣れない代車を嫌うので、代車で旅行とはなりにくい。
だから今回はぼくの作戦通り、ゆっくりくつろげそうだ。
休みに入る三日前、車屋がやってきて愛車を引き取り、ぼくの休みがいつからか聞くと、乗り心地の悪い代車を置いて帰っていった。
作戦通りだ。
だが予期せぬ事態が発生した。
連休の前日になって車屋から連絡があった。
今日の夕方にも仕上がるという。
ぼくの休みに間に合うように頑張ってくれたらしい・・・・・・。今は頑張る時ではなかったのに。しかしその頑張りにこたえなければなるまい。
ぼくは今、北へ向かって車を走らせている。やっと縦長の新潟県を越えたところだ。
目指すは北海道。
ひたすら走り続けないと連休が終わってしまう。
これは小説のネタ作りの旅、そう自分に言い聞かせながら走り続けている。
終
※ 本州半周二千キロの旅はノンフィクションです。
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