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SS【潜む犯罪者】

勇人(はやと)は部屋の壁かけ時計に目をやった。

あと数秒で日付をまたごうとしている。

明日も早朝から仕事の勇人は、ヒーターを消し、灯油を補充してからもう一度ヒーターのスイッチを押した。

それくらい今夜はひどく冷え込む。

五月も近いというのに凍てつく真冬のように冷たい空気が家の中を支配している。

少し温まってから部屋の照明を消して布団にもぐった。


真っ暗な部屋の中でまぶたを開けたまま天井を見つめている。

勇人は小学四年生の頃の、ある事件を思い出していた。

あれから二十年は経っている。


当時、担任の先生が立て続けに不慮の事故で亡くなった。

一人目は学校の仕事を終え自転車で帰宅途中に、赤信号で道路に飛び出し車にはねられ、頭を強く打って亡くなった。

自転車のブレーキワイヤーが二本とも何者かによって切られ、まったくブレーキが効かない状態だったらしい。

けっきょく犯人は捕まらなかった。

学校から事故のあった交差点までは直線。

先生の帰る時間は遅めで、その時間帯は道も空いている。ブレーキをかける最初のタイミングがその交差点だった。


二人目の先生は学校の横を流れる川で水死体になって発見された。

先生は生前、自分のことをカナヅチと言っていた。

たまに悩みのある生徒の話しを川べりで聞くことがあった。

川べりの様子は土手や背の高い草に隠れて周囲からは見えなかったので、内緒の話にはもってこいの場所だったかもしれない。

水死体になって発見される数日前に、生徒の誰かと二人で土手の方へ歩いて行くのを近所の人が目撃していたが、その生徒が誰かまでは分からなかったようだ。


勇人は今でもたまに先生たちのことを思い出しては考える時があった。

自転車に乗って事故にあった先生のことは分からないが、水死体になって発見された方の先生のことについては、今になって何か思い出せそうな気がしていた。

勇人は先生が発見された数日前に、先生が生徒の誰かと一緒に土手を登る姿を見たような記憶があった。

そしてそれは勇人がよく知っている人物だったかもしれないのだ。

勇人はゆっくりとまぶたを閉じて、今夜も答えが出ないまま眠りに落ちた。


勇人は最近気になることがあった。

誰かに見られている。

いや、見張られているように感じていた。


仕事を終え、徒歩での帰宅中に何者かの視線を感じて振り返ったり、電車に乗った時に周りの視線が気になった。

たまたま目が合った人に対し、一方的な嫌悪感を感じることもあった。


ある日、駅で偶然小学校時代の友人と再会し、意気投合して二人で飲みに出かけた。

なつかしい思い出話しに始まり、最新のテクノロジーや未来の話しまで、三軒目を出た時にはもう二人とも酔いがまわりフラついていて、時間も遅いし、その日はお開きとなった。

帰りのタクシーでいつの間にか眠ってしまった勇人は、運転手と誰かが喋る声で目が覚めた。

タクシーの中は運転手と勇人しか居ない。

無線だろうか。

それはまるで、知らないうちに普段は隠れているもう一人の勇人が出てきて、運転手と会話しているようだった。


家に着いて最初に浴槽にお湯をため始めた。

洗面所で歯磨きをして、浴室へ移動しようとした時、まだ酔っぱらっているのだろうか? 勇人は洗面所から離れようとしているのに、洗面所の鏡に映る勇人はそこにとどまっていた。

勇人がハッとしてもう一度鏡を見た時には、鏡は何事も無かったかのように、ありのままの姿を映し出していた。



数週間後、先日再会を果たした友人から連絡があった。

どうやらクラス会を予定しているらしい。

すでに十人くらいとは連絡を取り合っているようで、それ以外は連絡がつかないか、断られているようだ。

友人はかつてのクラスメイトと連絡を取り合っているうちに、いろいろな情報を得たからまた飲まないかと誘ってきた。


人間二十年も経てばいろいろあるものだ。

離婚に病気。

他界する者。

塀の中に入る者。


クラスメイトの話題が尽きてくる頃には午前一時を少し回っていた。

友人はタクシーを呼び、その待ち時間に亡くなった先生の話題になった。


お世話になった担任の先生が立て続けに亡くなった衝撃は、二人の記憶にしっかりと刻まれていて、特に先生と仲の良かった友人にとってはショックが大きかったようだ。

勇人たちはかすかな記憶をたどりながら、先生たちとの思い出を語り合った。

タクシーが来て友人が乗り込む直前に、不意に神妙な面持ちで聞いてきた。


「なあ勇人。先生を殺した犯人って、もしかして俺たちのクラスの誰かなのかな?」


勇人はタクシーに乗り込んだ友人に対し、窓越しに答えた。


「俺は先生と一緒に土手の方へ歩いて行った生徒を見た気がするんだけど、思い出せないんだよな」


「勇人も・・・・・・見たのか?」


「見たような気がする。え? 見たのか? 誰か覚えてるのか?」


「ああ・・・・・・。今思い出した」


友人が運転手に声をかけ、タクシーはゆっくりと動き始めた。


「誰だよ?」


そう声をかける勇人に、友人は遠ざかるタクシーの窓から頭を出し、まっすぐこちらを見つめて答えた。



「お前だよ・・・・・・。」






















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