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SS【ぼくの生きる道】


ほぼすべての国を巻き込んだ最終戦争のあと、人々は三つに分かれた。


方舟の中に住む者。


荒れ果てた危険な世界を放浪する者。


地下に隠れて生活する者。


方舟とはぶ厚い壁に覆われたシェルターで、外の世界の危険が一切及ばない居住スペースと、大量の食料や水が備蓄されている。出入りできるのは方舟の住人として登録された一部の権力者と富裕層だけだった。

最終戦争では獣人と呼ばれる戦争兵器が敵国に送り込まれることもあった。

ぼくはといえば、ずっと放浪する者として外の世界の敵と一人で戦い続けてきた。

そんな明日も見えない危険な旅の途中で、偶然、地下になだれこもうとする獣人たちが目に映った。

どうやら地下の隠れ家がバレて襲われそうになっているらしい。

こうなれば獣人たちの餌となるのは時間の問題だ。


裏口らしき場所から小さな子どもを抱えた女が飛び出してきた。

それに気づいた一匹の獣人が、薬物で強化されたであろう脚力を活かして、驚異的な跳躍を見せながら親子に迫る。


「ウオォォォォーー!!」


ぼくが雄叫びを上げると親子を狙っていた獣人と他の獣人二匹も反応した。

敵意を剥き出しのぼくに近づいてくる三匹の獣人。

よく見ると奴らは獣人ではなく強化人間のようだ。

それなら強化人間と強化狼を配合して造られたぼくの敵ではない。

案の定、わずか三秒で方がついた。

鋼の槍のように丈夫で鋭い牙と爪は、奴らを切り裂くには十分すぎる。

パワー、スピード、そして何より戦いの経験値が違う。

強化人間ならば理性はあるはずなのに愚かな奴らだ。

しかし戦争兵器として造られた獣人たちは理性が無い。ぼくを除いては。



安全な方舟は定員があるし、一部の権力者と富裕層がほとんどを占めている。

ぼくは沢山の人の死を目にしてきた。

身内を失い悲しみに暮れる人たちも。

ぼくは人間の言葉を失ったし、見た目も人間たちにとっては憎しみや恐怖の対象でしかない。

銃を向けられることもあった。

幸か不幸か奇跡的に過去の記憶と理性は残っている。


残された寿命はそんなに長くはないだろう。

だがどんな姿になろうと、どんな逆境に身を置かれようと、ぼくは今できることをする。

それがぼくの信念だ。



地下の隠れ家をあとにするぼくの後方から、誰かの呼ぶ声がする。

振り返ると女に抱っこされた女の子だ。

「ありがとう!!」と叫ぶ女の子に手を振ると、密かに様子をうかがっていた女の仲間たちが地下から出てきた。

そしてぼくは彼らに受け入れられた。

ぼくは人間たちの代わりに、外で食料を調達するようになり彼らに重宝された。


それから一ヵ月後。


地下の仲間たちと貧しいながらも平和な暮らしが続いていた時、放浪する者たちからキマイラの噂が流れてきた。

戦争兵器として造られた、頭が獅子、胴が山羊、背中には巨大な羽、尾が蛇で口から火を吹く怪物が方舟に現れたらしい。方舟の襲撃に失敗したキマイラが、次は地下に隠れた人間を見つけて襲うのも時間の問題らしい。

世界に一匹しか居ないという、陸上侵攻の最終兵器キマイラ。無数に造られた陸上侵攻用戦争兵器の中でも最高傑作。


今度はぼくも無事には済まないだろう。

だが、やっとできたぼくの仲間たちを傷つけることは許さない。

必ず守る。この命と引き換えにしても。


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