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SS【となりの彼女】


私は今、歩道の隅で椅子に座り数取器をカチカチと押している。

数取器とは交通量を調べたりするのに使う、カウンターなどとも呼ばれるアイテムのことだ。

すぐ近くはショッピングモールの建設予定地となっていて、出店に向けて交通量を調べている。

この交差点は昔から交通量が多く、朝と夕方は特に混雑する。今では車線も増え、カメラも設置されたせいか昔からみると事故は減ったようだ。

バイト中、以前誰かが亡くなったのか、私がカウントしている目の前で路肩に花を供える人がいた。


今日は少し肌寒い。このバイトはほとんど動かないので普段より着込んでいる。

横には同僚の女性もいて、彼女は私が見ているのとは反対側の流れをカウントしている。

ただこの女性、横に居てもまったく喋らない。私が話しかけても、何も聞こえないかのように無言で数取器をカチカチと押し続けている。最初に会った時、鈴木とだけ名乗った。


近くの信号が赤になり車の流れが止まった時、私は彼女の方を見た。

すると、彼女のカウントの仕方がおかしいのだ。

車がたまにしか来ない時も、まっすぐ前を向いたまま、ひたすら一定の早いリズムでカウントし続けている。


私はその日の仕事が済んでから会社にそのことを報告した。

すると担当の人から予想もしなかった答えが返ってきた。


「ずっと君一人のはずだが。それに反対側の流れはすでに記録してあるよ」


じゃあ横に居た鈴木さんは誰なのかと尋ねると、担当者は「す、鈴木?」と言ってしばらく無言になった。それから私は恐ろしい事実を聞かされた。

昔、同じ場所で数取器で交通量を調べていたバイトの鈴木さんという女の子が、猛スピードで交差点を曲がろうとしてコントロールを失い、歩道に乗り上げてきた車の下敷きになった事故があったらしい。その事故で彼女は亡くなったが、亡くなった後も、車の下敷きになりながらカウントを続けていたらしい。


翌日、私は歩道の隅に花を供えて手を合わせた。


私は今でも一人で座っていると、隣からカチカチという音が聞こえる時がある。

今の私にできるのは彼女の安らかな眠りを願うことだけだ。


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