散文【食いしん坊は生き残れない?】
食いしん坊で炭水化物が大好きなぼくの家では、月に一度サバイバルセミナーが開かれる。
理由は世の中が目まぐるしく変化し、荒れた海のようになっているからだ。
変化に適応できない者は流され、漂流してしまう。
だから一家のリーダーかもしれないぼくが、家族の乗る船の舵を取るのだ。
今回のテーマは食糧危機。
食いしん坊のぼくにとっては大きな問題だ。
セミナー講師はもちろんぼくだ。
エアコンと扇風機のついた部屋で娘たちが来るのを待っている。
今は七月中旬。
暑がりのぼくはあと三ヶ月はパンイチで過ごすだろう。
奥さんはセミナーを欠席するらしい。
欠席の理由を聞くと奥さんはこう言った。
「先のことなんて分からない。なるようになる」と。
ぼくはため息しか出なかった。
そうじゃないとぼくは思った。
自分から情報を取りにいって学ぶことで、先のことが予測できるし、備えることができる。将来価値の高くなる物に投資し、先行者利益を得ることだってできる。
参加者が集まってきた。
大学生と高校生の娘。
二人ともバイトをしているので、ぼく同様に世の中の変化を肌で感じ取っているかもしれない。
ぼくは小学生でも分かるように説明を始めた。
まずはラニーニャ。
海水温が平年より低くなるラニーニャ現象によって、世界各地で干ばつや洪水などの災害が起こっていること。
それにより世界の食糧生産は大きなダメージを受けていて、来年も続く可能性高いことを伝えた。
次に戦争。
大国が仕掛けた戦争により、輸出は激減。さらに大国は経済制裁の対抗措置として、食糧や石油、ガスなどの輸出を制限していること。
自国の供給確保を優先するため、輸出にストップをかける国が増えていること。
これだけでも十分に痛いが、計画された新たな疫病の流行や、大地震、さらにすぐ近くの国での有事も危惧されている。
もし有事があれば海を使った流通は止まる可能性が高い。食糧だけではなく、種や肥料までも輸入に頼っている我が国にとっては死活問題なのだ。
これらが重なれば、いくらお金を持っていても物が買えなくなってしまう。
だからまだ買えるうちに食糧や、よく使う日用品の備蓄をして備えておかなければならないと熱心に説明した。
しかし長女からは意外な答えが返ってきた。
それならいい方法があると言う。
それは食いしん坊なお父さん、つまりぼくの胃を小さくすればいいという。
長女は話を続けた。
そもそも私たちは小食だから主食の米も、一袋あればだいぶ持つし、お父さんのように浴びるようにお酒やジュースも飲まない。
だからお父さんが小食になれば、そこまで大量に備蓄しなくても大丈夫だし、逆にお父さんがたくさん食べれば、いくら備蓄されていても足りないと言い切った。
ぼくもそれは心の片隅では思っていた。
だが無意識のうちに考えないようにしていた。
家族にそんな目で見られていることにショックを隠しきれなかったぼく。
とにかく食いしん坊には厳しい時代がやってくるのかもしれない。
それともこれはスリムになるチャンスなのだろうか?
ぼくはずらりと並べた丈夫な容器に備蓄用の白米をきっちりと詰めた。
最後に脱酸素剤を入れると、フタをしてニヤリとした。
これで数年は生き延びられる。
終
あとがき
来春、下手をすると今年の冬くらいから食糧不足になってくる可能性があるのでは? と個人的には思っています。何か一つの要因だけなら、食糧不足が長期化したりしないと思いますが、どうもこの先は雲行きが怪しいですね。例のサル痘が日本に入ってくるのも時間の問題ではないでしょうか。そして止まらない円安。そんなものぜんぶ小説のネタにしてやるぜって思いたい腰痛夫です。
基本的にすべて無料公開にしています。読んで頂けるだけで幸せです。でも、もし読んでみて、この小説にはお金を払う価値があると思って頂けるなら、それは僕にとって最高の励みになります。もしよろしければサポートお願いします。