「字書き」って、なによ。

 わたしはかれこれ20年ぐらい、趣味で小説を書いている。オリジナルから既存作品の二次創作、誰かの二次創作から発想を得た三次創作とでも言うべきファンライトまで含めて、作品として世に発信するかはさておき、ほぼ毎日なにかしらの文章を書いている。どこにでもいる「書くことそのもの」に憑かれているタイプのおたくというヤツだ。たいして文章はうまくないし、まわりを見渡せばわたしよりも発想とかセンスのいいひとや、「読ませる」文章を書くひとなんかいくらでもいる。それでも書くことが好きだから書いていて、これからもきっと書いていくんだろうと思っている。
 さて、そういうどうしようもないおたくのわたしだが、最近よく見る「字書き」という言い方がどうにも気に入らない。もちろん個人的な感じ方の範疇の話なのだろうけれど、最近このことについて考える機会が増えた気がするので、考えの整理がてらなぜそう思っているのかを書こうと思う。改めて考えながら書くので、読みにくい部分もたくさんあるだろうけれど、自分用まとめということでご容赦いただきたい。

「字」を書いているわけではない。

 わたしが書いているのはどんなに拙かろうと「小説」であり、決して「字」ではない。これは、執筆形態がタイプだとか原稿用紙やノートに手書きしているだとかそういう話ではなく、書いたその「字」そのものが「作品」ではないという意味だ。
 たとえば、わたしの祖父は書家をしている。彼については、書いた「字」そのものが「作品」だ。でもわたしは違う。わたしが「作品」として発信するものは「小説」、つまり「文章」だ。ならばわたしは「字書き」を名乗るべきではない。作品としての「字」を書いているわけではないのだから。

「字書き」の謂われ。

 前項のみではさすがに子どもの癇癪以下だと思うので、ついでに「字書き」という言い方についてもう少し掘り下げてみることにする。ここから先は延々と、具体的には4桁字数そういう話をするので、もし「字書きの鬱憤」を読みにきたというひとがいたら、ここでブラウザバックがおすすめだ。オレが書いてんのは字じゃねーわ文だわ。以上おしまい。よろしくな!

 さて、「字書き」という言い方はいつ発生したんだろう。わたしはそれを知らないし、実際たいして知りたくもないのだけれど、少なくともわたしがネットの海にこわごわ漕ぎ出した10代の頃は「小説を書いているひと」を「字書き」とは言っていなかった気がする。気がするだけだ。
 ちなみにそれがいつ頃なのかをざっくり説明すると、J-PHONE(現ソフトバンクモバイル)が提供する「写メール」が一斉を風靡していた頃であり(当時のカメラは11万画素だった)、黒猫が手紙をくわえて走るFLASHでまぶたが腫れるほど泣いていた頃であり、新橋と叫ぶFLASHで呼吸困難になるほど笑っていた頃だ。
 そんな頃の記憶はもはやおぼろげなのだが、その頃のわたしたちは「プロではないけれど趣味で小説を書いているひと」をなんといっていただろう。
 「小説家」「作家」あたりは、今も昔も「小説でメシを食っているひと」をさす言葉だろう。「ライター」は新聞や雑誌の記者など、報道関係者のイメージが当時は強かった(現在はどうやらその限りではないらしい)。改めて考えてみると、「趣味で小説を書くひと」を示す端的な言葉は、やはりなかったように思える。
 ちなみに10代のわたしは、たしか将来の夢を「物書き」と語ったことで、母親にこっぴどく叱られたと記憶している。母親は「そんなやくざな人間に育てた覚えはない」と言ってわたしをひどく殴ったものだ。この場合の「やくざ」とは、いわゆる「筋者」の意味ではなく、「役に立たない」とか「価値がない」とかいう意味での使用だが、あらゆる意味でとんでもない偏見である。これが彼女自身が持っていた偏見なのか、それとも子を持つ親の普遍的な心理というものなのかは、今もってよくわからない。訊いてもどうせ覚えていないだろうし、藪蛇になってもつまらない。
 つまらない昔話はさておき、「字書き」である。
 こんな話を始めてしまった以上、さすがに知りたくないでは済まされないと思ってGoogle先生にお伺いしてみた。それによると、「字書き」ないし「文字書き」という呼称(カテゴライズ?)は2010年台初期の方からあったようで、Twitterにも「#字書き環境」なるハッシュタグとそのまとめが存在していた。

▼字書き環境 - togetter(2012年)
https://togetter.com/li/374710

 ただ、2010年台前半のあたりだと、「文章を書くひと」の呼称としての「字書き(文字書き)」は、あまり適切な使い方ではなさそうなニュアンスを受けていた気配も感じる。

▼文章(小説)を書く人の呼び方 - Yahoo! 知恵袋(2010年)
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1341502663
▼文字書きさん、とは... - Yahoo! 知恵袋(2014年)
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q12137981947

 探し方が浅かったのか悪かったのか、ゼロ年台以前では見つけられなかった。もっと古くに「字書き」が言及されたものをご存知の方はぜひ教えてください。純粋に興味があるので。
 そのように探していって、どうやら「趣味で小説を書いているひと」という意味で「字書き」という言い方が頻繁に使われるようになったのは、だいたい2017年辺りかららしいというところに行きついた。
 マジか。思っていたより最近だった。そして道理で聞き覚えがないはずだ。個人的な事情だが、2017年辺りというと、小説を書くどころか生産的な趣味をする気力がなにひとつなく、ただ毎日漫然とソシャゲに没頭していた時期だからだ。そりゃ創作から遠ざかっていたんだからウラシマ状態にもなろうというもの。これでひとつすっきりした。

結局、我らは「ナニモノ」なのだ。

 ところで、weblioをひいてみると「作家」を言い換える言葉がなかなかの数見つかった。

▼「作家」の類義語や言い換え
https://tinyurl.com/y4hst83w

・何かを書くことができる、あるいは何かを書いた人
 └書き手・書手・文筆家・操觚者・ライター・書きて・著述家・著作家・物書き・文士・物書・文学家
・職業的(報酬のため)に(本、物語、記事、または、そのようなものを)書く
 └オーサー・原著者・文人・文筆家・操觚者・ライタ・作者・著者・ライター・著作者・筆者・著述家・著作家・原作者・物書き・操觚・文士・執筆者・物書
・小説を書く人
 └ ノベリスト・小説家

 イヤ、出るわ出るわ……「操觚(そうこ / 詩文を作ること。文筆に携わること。 - コトバンクより)」なんて言葉は初めて知った。かしこさが1あがった。そして数ある言い換えのなかに、「字書き」という言葉は存在しなかった。そもそも「文字書き」という言葉の登録がなかった。weblio先生は「文字書き」という言葉をお認めではないのだ。念のためコトバンク先生をはじめとしたweb辞書の先生方にもお伺いしてみたが、先生方は一様に「我が辞書にそのような言葉は存在せぬ」と仰言られた。どうだ見たかバカヤロー。
 そうやってひととおり眺めまわしてみたが、「趣味で小説を書くひと」という意味で使ってもよさそうな言葉はほぼない。だいたいが職業作家を示す言葉なのだ。それは絵に関しても同様かもしれないが、とりあえず今は小説のみに話をしぼる。
 ……もしかして、小説を書くという行為は本来、趣味で行うものではないのか? エーーッ困る。そんなことないでしょ。
 そういえば以前、「絵師」という言い方がどうこうみたいな話になったとき、「インターネットお絵かきマン」でいいじゃないかというスンゲエ提案が為されていたことがあった。

▼「歌い手」が「インターネットカラオケマン」なら「絵師」は「インターネット何マン」? - togetter(2013年)
https://togetter.com/li/475041

 この文法に則るんだったら、趣味で小説を書くひとはさしずめ「インターネット文筆マン」だろうか。長いな。あと、個人的な言葉の好みとしては、「文士」の方が好きだな。
 つまり「インタネット文士」。略して「ネット文士」。
 アイアムアネット文士。
 ……なかなか、いいんでないかい?
 まぁこの呼称も決して万能じゃなくて、例えばネットじゃないところで小説を書いて、公募ガイド片手に頑張ってるひとはどうするんだとか、重箱の隅をつつくときりがないんだけれど。web上で名乗るんだったらこのうえなく端的でわかりやすいと、つい自画自賛しちゃったりなんかして。「文士」だとホラ、ぱっと見てすぐ「文を書くひと」なんだってわかるし、なによりカッコイイじゃないか、字面が。所詮はおたく、カッコイイ字面の言葉が大好きなのだ。

It's「インタネット文士」.

 そんなことをボンヤリとここ数年考えていたのを、ようやく明文化したのが本記事である。そんなわけでわたしはここ数年、自らを「インタネット文士」と名乗っている。決して「字書き」じゃないんだ、オレが書いてんのは「文章」で、「小説」なんだという、どこに向けてるのかもわからない矜持を胸に、インタネット文士は心の万年筆を置くのであった。お粗末。

 

 …………エ、なに? 「アマチュア作家」じゃあだめなのかって? シーーッ、4000字も書いてオチがそれじゃあ、あまりに締りがないだろ! いいじゃねえか、カッコつけさせろよ。カッコつけたがりなイキモノなんだよ文士ってヤツぁ。

 これを読んで、少しでもバカだなぁコイツと笑ってくれたら文士冥利に尽きるし、しょうがねえヤツだと思ってくれたならハートのひとつも捺してやってくれると嬉しい。そういうもんです。
 流行りのマシマロをくれても嬉しい。意見も批判も共感も、弾かれない程度にお待ちしてます。

▼マシマロ
https://marshmallow-qa.com/q37sfmsbr0ev03y?utm_medium=url_text&utm_source=promotion

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