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2023年に読んだ文献10選(社会学周辺)

備忘のため残しておく。今年は共生教育論や歴史研究・歴史社会学あたりに多くふれた。

①湯澤規子(2023)『「おふくろの味」幻想:誰が郷愁の味をつくったのか』光文社新書

2月か3月か、実家に戻ったタイミングで地元の書店にてなんとなく購入。新書だしとナメていたが、研究関心を組み立てるうえではかなりインスパイアされた。
料理雑誌を中心に昭和から現在にかけて丹念に分析したもので、「おふくろの味」と呼ばれるものの構築過程を描いている。著者は社会学ではなく歴史地理学の専門だが、歴史研究としても社会学的な研究としても読める一冊。同一著者の『胃袋の近代』も面白かった。

②佐藤貴宣・栗田季佳編(2023)『障害理解のリフレクション:行為と言葉が描く〈他者〉と共にある世界』ちとせプレス

非常に勉強になった本。ゼミで講読した。障害学のフロンティアトピックが並んでおり、発展的な論文集のような位置付けかと思う。
佐藤貴宣「インクルージョン実践への状況論的アプローチ:「コミュニティの相互的構成」と二つの生活形式」という論考が重要。「障害」の当事者の存在がその場の新しい秩序をたえず作り出していくプロセスが描かれていた。まだまだ理解しきれていない分野ではあるものの、こういう研究が増えるといいし、やってみたいなと思った。
渡邊芳之「障害はなぜ「性格」と呼ばれないか:障害個性論と性格の概念」も、心理学フィールドの概念面の課題(=「性格」とは何か?)を理解できて面白い。この先生は性格心理学の専門だが、こういう本に寄稿するのは意外だった。

いくつかテレビ番組も見た。よりイメージしやすくなったので合わせて読めて良かった。

③広田照幸(1997)『陸軍将校の教育社会史:立身出世と天皇制』世織書房

教育社会学領域では比較的知られた名著だが、これまで読んだことがなかったので。歴史研究に手を出し始めたあたりでようやく読めた。
ステレオタイプな軍人表象とは異なり、軍人たちが立身出世を求めて右往左往する人間くささを雑誌や記録から見出していて、面白い。

教育史の専門家からは批判もあったようで、教育史と教育社会学の立場の違いを知るきっかけにもなった。以下は文庫版。

④瀧澤利之(2003)『養生論の思想』世織書房

学会報告の際にかなり参照した。
江戸中期〜後期にかけて隆盛した養生論が次第に人間形成論へと接続していくプロセスを記述したもの。なんだかんだ現代にも生きてそうだなと思った。

⑤三井さよ(2023)『知的障害・自閉の人たちと「かかわり」の社会学:多摩とたこの木クラブを研究する』生活書院

帯に「「ただ異なる存在を歓待する」というだけではどうにもならないことがある……」とある。フィールドワークなどを行う中で、「かかわりづくり」「関係づくり」の困難が常に自分の悩みの種だったので、そのメカニズムを解剖するうえで役に立ちそうと思って買った。共生教育論と発達保障論の対立構図を描いた理論パートが分厚い。
ルーマンのシステム論を援用しているのが特徴的である。当否は判断できないが、言いたいことはなんとなくわかる。多摩地域、フィールドとしてはとても魅力的だと思う。

⑥元森絵里子(2009)『「子ども」語りの社会学:近現代日本における教育言説の歴史』勁草書房

つい最近、自分の研究スタイルに近い研究を探す過程で読んだ。博論本。
仁平典宏の『「ボランティア」の誕生と終焉:〈贈与のパラドックス〉の知識社会学』(2011年、名古屋大学出版会)といい、この本といい、方法論が綿密に論じられていて参考になる。メタ視点のとり方も勉強になる。


⑦額賀美紗子・藤田結子(2022)『働く母親と階層化:仕事・家庭教育・食事をめぐるジレンマ』勁草書房

母親が直面する規範と現実のダブル・バインド状態を記述した一冊。
もとになった論文のうち、6章は『社会学評論』に掲載されているものとほぼ同じ。


⑧M. フーコー(田村俶訳、1975=2020)『監獄の誕生〈新装版〉:監視と処罰』新潮社

学部生のときに読めなかった本。学部生が読書会をするというので参加した。講読中。


⑨N. ルーマン(馬場靖雄訳、1984=2020)『社会システム(上):或る普遍的理論の要綱』勁草書房

読書会で半分くらい読んだ。難解だったが、体力はついた。下巻も読めればいいのだが……
赤堀三郎『社会学的システム理論の軌跡:ソシオサイバネティクスとニクラス・ルーマン』(2021年、春風社)も事前に読んだ。

ルーマンを理解するには、他にも数著読みこなさないといけなさそう。ちなみにルーマン・フォーラムという互助会的な何かがあると聞いている。興味はある。

⑩佐藤俊樹(2023)『社会学の新地平:ウェーバーからルーマンへ』岩波新書

タイトルに「ウェーバーからルーマンへ」とあるが、分量自体はウェーバーの記述に大半を割いている。
ウェーバーが理解社会学の基礎であり、ウェーバーが論証しきれなかったところもルーマンのシステム論から捉えれば理解可能だと説く。組織論・組織社会学の理論として読んだ。伝記としても面白い。同一著者の『メディアと社会の連環:ルーマンの経験的システム論から』(東京大学出版会、2023年)も読んでいたので理解の助けになった。


番外編

  • 佐久間亜紀他編(2023)『教育学年報14・公教育を問い直す』世織書房
    倉石一郎「教育の自画像としての〈福祉〉理解とその批判:反省なき連携対暴論への若干の懸念」が面白かった。

  • 岸政彦(2016)『マンゴーと手榴弾:生活史の理論』勁草書房
    読めていなかったのと、講義で触れられていたのもあって通読。対話的構築主義(ライフストーリーの方法論)を退ける議論が中心だったが、それよりも語りの記述が鮮明。

  • 七星純子(2022)「戦後日本における食と家族の変容に関する社会学的考察:高齢者の食事サービスと子ども食堂を中心に」千葉大学大学院提出博士論文
    子ども食堂研究の中では一番社会学や歴史研究に接近しているように感じた。博論だが、レポジトリから読むことができる。書籍化待機中。

  • 上田遥(2021)『食育の理論と教授法:善き食べ手の探求』昭和堂
    著者の専門は農学・経済学方面だが、栄養学や教育学、哲学、社会学の領域まで幅広くカバーされている。アマルティア・センのケイパビリティ・アプローチから考察されていて重要だと思う。が、直訳調の文体の読みにくさに加え、CAの理解も微妙に違和感を覚えている。規範に関する議論は示唆に富んでいるので、改めて精読したい。

  • 藤原辰史(2016)『[増補版]ナチスのキッチン:「食べること」の環境史』共和国
    赤い装丁が特徴的な一冊。ナチズムの思想と食の合理化過程の共振を中心に論じられている。

  • 北田暁大・筒井淳也編(2023)『講座社会学1 理論・方法』 岩波書店
    研究会で講読。「理論」とあるが、いわゆる講座本っぽい感じではなく、それぞれの分野の研究者が自分のやっていることを書く、みたいなスタイルだった。三谷武司「社会学的啓蒙の論理」と北田「彼女たちの「社会的なもの」:世紀転換期アメリカにおけるソーシャルワークの専門職化と“social”の複数性」は面白かった。
    この講座本の編集に関しては不掲載論考があるので読んでおくとよさそう。三谷論考とルーマンで被ったことや、そもそものルーマン理解の編者との違い、あるいは前田論考で概念分析が掲載されていることなども不掲載の理由としてはありそうだが、こっちも載せてほしかったなと思う。


2024年、早めに読みたい本

  • 祐成保志・武田俊輔編(2023)『コミュニティの社会学』有斐閣
    子ども食堂らへんの話を追いたいので。

  • 林凌(2023)『〈消費者〉の誕生:近代日本における消費者主権の系譜と新自由主義』以文社
    歴史社会学の博論本。

http://www.ibunsha.co.jp/books/978-4753103751/

  • 山崎明子(2023)『「ものづくり」のジェンダー格差:フェミナイズされた手仕事の言説をめぐって』人文書院
    7章が気になるので。

  • エリック・クリネンバーグ(藤原朝子訳、2021)『集まる場所が必要だ:孤立を防ぎ、暮らしを守る「開かれた場」の社会学』英治出版
    これも子ども食堂=居場所論をきちんと整理したいので。

  • 重田園江(2020)『フーコーの風向き:近代国家の系譜学』青土社
    フーコーの勉強をちゃんとしたいので。

  • 北田暁大・解体研編(2017)『社会にとって趣味とは何か:文化社会学の方法規準』河出書房
    ブルデューを読む前にふれておくといいかもしれないと思い。

  • レスリー・マーゴリン(中河伸俊他訳、2003)『ソーシャルワークの社会的構築』明石書店
    フーコーつながりで。

  • 春田吉備彦他編(2023)『生きのびるための社会保障入門』堀之内出版
    関わっている中高生向けに解説できるようにインプットが欲しい。

あとはブルデュー『ディスタンクシオン』、フーコー『性の歴史』『知の考古学』、パットナム『孤独なボウリング』あたりをちゃんと通読しておきたい。

関西でフィールドワークの修行中です。応援いただけたらとても嬉しいです。