三渓園という名の美しき箱庭

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横浜にある三渓園は、1906年に実業家で茶人の原三渓が作った17.5haほどの庭だ。ピンとこないから調べたところ東京ドーム3つぶんくらいらしい。
でも歩ける部分は広くない。まあ熟読しても大概のひとは1時間半もあれば見終わる(私は3時間位は滞在してしまうが)。
都内にいくつもある大名屋敷跡なんかの庭とここが違うのは、自然にしかみえないようにコントロールが全てに効いているところだ。
元々景勝地である三之谷と呼ばれるこの場所の本物の崖や高低差を取り込んでいる部分もありつつ、繊細に埋め立ててなどをしてその景色をコントロールしている。まるで自然のようなフリをした植物や樹木は枝振りから姿まで、理想の形としてそこにある。
そして敷地内に京都や鎌倉の古い建物を解体移築している。
その数全17棟、そのうち10棟が重文だ。
「実業家が金にあかせた」というにはあまりにも本気の庭園で、私が唯一行っては「腹を立てる」場所である。
とにかくどこをどう切り取っても美しいから。

設計意図がわかる。わかるからこそ「そう」鑑賞するしかない。
その樹木のすがたかたちを、庭を、建屋を(関東大震災や戦争による荒廃をくぐりぬけ、修復し)、原三渓の望んだであろう景色として留めている。
兎に角美しくて腹立たしい。本当にどこをみても「その美しさは原三渓の計算どおり」だからだ。
腹立たしい。
私が美しくて腹立たしいなんて思うのは、三渓園だけである。


以下ささっとではあるが、三渓園の腹立たしい美しさを紹介したいと思う。

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普通の人ならこの三重塔のある山、桜だらけとかなにかにしますよ?
でもしない。なんか自然ぽく竹とか植わってる。でもそこらの横浜の竹じゃなくて京都から運んできたさやさやとした竹だったりするんですよ!!!
竹がトンネルつくってるアプローチとかあるんですよ。
きー!!!!
池の周りの桜の配置もみてくださいよ!!!植えすぎてない!桜だけでなく周りを見るようにできてる!!!腹立つ!!

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三重塔の先にある見晴台にむかう道から塔をふりかえると右のカエデがかぶるように植わってるふざけた美しさ。
原三渓が唯一計算できなかったのは足元の三角ポールと立入禁止サインであろう。私の脳内の原三渓が「あれをどかしたまえ!!」と訴えている(幻聴)
*ちなみに偉そうな人をおもいだすときは、大体において「美味しんぼ」の海原雄山が降臨するので、今回も雄山が脳内代役ですw

この先の見晴らし台から首都高横浜線ごしに大きなガスターミナルが見えるので私的にはワクワクなのですが、これも多分原三渓はご立腹だろう。
昔はほぼ海だったらしいよ!月も海に映えてさぞや綺麗だったろうね!!!

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聴秋閣(二条城にあったといわれる家光・春日局ゆかりの楼閣建築。お茶室。重文)に向かうアプローチのこの小川(当然人工)のはらはらと散った椿とか、もうセットとしてばらまいたよね?っていうあざと美しい場所に、植るべくして植わっている。腹立たしい。
聴秋閣自体池建物のまわりに水が配置されていて、石をわたってアプローチする。とても素敵。耳からも目からも涼やかさ入れるようにできてる。
外から伺える意匠もとにかく美しい。

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月華殿(伏見城にあった大名来城のときの控え所としてつかわれたとある建築。重文)は、さっきの聴秋殿よりさらに上にあり、つづれおりにわざとした道とわりと高めの階段をあがってアプローチする。左奥には人工の滝があり、まるで深山にきたかのような景色がつくられているこの腹立たしさ。表の池とかもうあんまりみえないんですよ!!!もう表と設定が切れてるのここ!!なんだこのくやしさ!
欄干などのシンプルさと対照的に部屋の中の欄間の透かし彫りは菊と葉っぱ。シュッとした美しさのある建物でめちゃくちゃすきです。腹立つ

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橋のところにこういうちょっと座って談笑したり池を眺めたりするアレを茅葺で。すっと先が見通せないところで、世界が切り取られる。
あとどうやっても絵になるところが腹立つ

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かとおもえば、建屋の入り口からでて、門までのこのアプローチですよ!!!ほんまなんなん?なにこの松と桜の完璧な配置と刈り込み。気持ちよくすーっと伸びた(手作業で切り出したはずなのに直角の取れた)石畳。
最高なのでは??ふぁーってなるよねふぁーっって!!!

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ほらみてくださいよ。この入り口付近から池ごしにのぞむ三重塔を。
塔にかぶせるためにわざわざ迫り出すように埋め立てた場所と桜の姿を。
めっちゃ作られた美しさでため息しかでません。絵葉書かっていう。
原三渓はしたり顔とかほくそ笑みとか無縁だろうけど、「ま、まけた。。。」って気分です。勝てる要素なんて最初からなかったけど、腹立つけど本当に腹立だしいほど美しいです。

以上簡単ですが、腹立ちポイントの紹介でした。



三渓園は桜以外の時期も、梅の樹の姿もやまぶきや、菖蒲や蓮など季節それぞれに美しさがあり、樹木はいつも美しくて見応えがあるけど、やはり桜の時期は格別かと思う。
原三渓の夢の箱庭は今年の春もきちんと美しく、そして例年どおり腹立たしかった。原三渓の思う壺だ。いや思う壺ってなんだってかんじだが。
夏も秋もそれぞれ味わいが深い(今年はやるかわからないが夏の夜間鑑賞なども素敵だ)、美しき原三渓の夢の箱庭、機会があったら皆行って、腹をたてたらいいと思う。

ちなみに(2年ほど工事で見られないが)横浜美術館のメインコンテンツのひとつである原コレクションは、原三渓の目利きにより集められた(そしてパトロンとして、自ら芸術家として活動した)結果であり、独自の審美眼であつめられた品々が圧巻なので、これも多分美術館の改装が終わればまた大公開されるはずなので是非。
そんな原三渓のつくった最大の美術品が、この1/1スケールの箱庭なのだ。

ね?腹立つでしょう?

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