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自作短編 第十一弾 『存在しないという選択』

以前小説サイトにて書かせてもらった短編のうちの一つを、改めて手直しして投稿させてもらいました。

生きることが嫌になったとき、人はどうすれば良いんでしょうか……。


『存在しないという選択』

 死にたがってた頃に、とあるサイトを見つけた。

- 存在意義を見出せない方々へ -

 クリックして開いてみる。
 ——するとただそれだけ書いてあった。

 ・ ・ ・

 あなたはどうしますか?
 →存在する
 →存在しない

 ・ ・ ・

 どうせ胡散臭いサイトだ。ならば思いのままにこの指を動かすのも構わないだろう。

 存在しない。

 そういう選択をしてみる。

 すると寝て起きての生活のくせして、急に眠気が襲ってきた。意識が遠のいていく……ああ……心地いい……いや……少し寂しい……?

 〜

 〜

 目が覚めた。自分の部屋の間取りと一緒なそこには、何もなかった。
 とりあえず部屋を出ると、リビングで、そこにはちゃぶ台が一つ、テレビが一つ、そして……母親が一人いた。

「ははは、そこでそうするのか」

 テレビを見て笑ってる
 ——幸せそうだ。こんな母親を僕は見たことがない。いつも疲れてて、いつも眠たそうで、いつも無理してた。

 僕がいないだけ、僕がいないだけでこうも変わるのか……。

 庭を見ると、ミニトマトがたくさん実っていた。小学生の頃に気まぐれで育てたミニトマト、でもすぐ飽きて結局育てるのに失敗したミニトマト。なるほど、僕がいないだけでこのミニトマトは生き残り、こうして世代を紡いでいけてたのか……なんかつらいなあ。

「散歩に出よう」

 どうやらこの声は聞こえてないようで、更に言うなら姿も見えてないらしく、まあその方が都合がいいかあ……などと思いながら、街へ出て行った。

 相変わらず、この街は騒がしい。

 人がたくさんいる。
 あっ、あいつは中学の頃の親友……なんか幸せそうだな、隣にいるのは彼女か? まさか僕と親友にならなかったおかげで?
 ——いやそれはないか、流石に思い込みが酷すぎる。

 だが、あながち間違ってない。

【世界は自分がいなくても変わることなく回ってゆく】

 そんな不安を抱くことがあるだろう。だが、それは希望的観測である。実際には

【世界は自分がいないと少しだけマシになる】

 だ。

 影響力がない、という点は正しいが決してそれだけではない。
 一人いなければ、二酸化炭素の排出も減り、ゴミも減り、苦しむ人間も減るのだ。

 悲しいが、現実である。

 家に帰る。
 部屋に入る。
 一人何もないところで横になる。
 こんな世界であろうと僕は変わらない。

 夕日が沈む。
 父親が仕事から帰ってくる。
 みんな幸せな世界だった。
 でも僕は一人泣く。

「こんなの……耐えきれるか……!」

 僕は自己中で、ワガママで、私利私欲にまみれている。そんな自分がらしいっちゃらしいけれど、やはり嫌いである。
 でも、そんな自分だからこそ、この世界を心から憎める。

 みんな幸せ……? 僕が幸せじゃないのに……? そんなの、間違ってる。認めない、決して認めてたまるか。認めないぞ。

「うわああああああぁぁぁっ!!」

 走る。
 夕日に向かってただ泣きながら走る。

「う、ぐ、う、ぐ……」

 そして叫ぶ。

「変わりだぁぁい……変わりたぁいよ……」

 僕を嘲笑うように、世界は回る。
 それが許せなくて。そして、幸せが、他人が、心から羨ましくて。夢中で何かを追い求めるように走り続けた。

 しばらくして疲れ果てた頃。
 ふらふらしながら、また僕は強い眠気に襲われて、夕日を見つめながら瞳を閉じていったのである……。

 〜

 〜

 目を醒めた。すると目の前には、例の画面が。

 ・ ・ ・

 あなたはどうしますか?
 →存在する
 →存在しない

 ・ ・ ・

 あれはきっと夢で、僕以外誰も知らないストーリーに違いない。ならば思いのままにこの指を動かすのも構わないだろう。

 存在する。

 そういう選択をしてみる。

 そして寝て起きての生活から抜け出すように、僕は部屋から出た。リビングには母親がいる……疲れた様子で。

「母さん」

「ん? どうしたの?」

「僕はいない方がいいと思う?」

 嫌な質問だと思う、でも聞かざるを得なかった。母にとってはなんとも悲しい言葉だが、母はそれを表情に出さずただそう言った。

「私はいた方が嬉しいけどね、すっごく」

 先ほどの話をまたしてみる。
 一人いなければ、二酸化炭素の排出も減り、ゴミも減り、苦しむ人間も減るのだ。
 しかし、一人いなければ、たとえ悲しむ人はいなくても、何かしら喜びが減ってしまう人は少なからずいるのだ。

 あの世界の母は実に幸せそうだったが、おそらく……自惚れでもなんでもないが……僕がいないことで手に入れられなかった幸せもあるのだろう。

 そんな微かな希望や期待を添えて。

「ありがとう……母さん……。僕さ、変わるよ。これからさ、全力で頑張って……」

 そう呟いたあと、僕は心の中でその誓いを何度も繰り返し、この狭い世界から抜け出した。


 § § §


 あれから、会社に就職し、相手にも恵まれ、無事結婚することに成功した。
 母にも孫を見せることができ、あの世界の母と似た、いやそれ以上の、笑顔を見ることができた気がする。

 ようやく、楽をさせてあげられる……そう思うだけで、心の重荷は軽くなった。

 ふと仕事を思い出し、パソコンを開いてみると、とあるサイトが知らぬ間に開いてあった。

- 存在意義を見出せない方々へ -

 クリックして開いてみる。
 ——するとただそれだけ書いてあった。

 ・ ・ ・

 あなたはどうしますか?
 →存在する
 →存在しない

 ・ ・ ・

 今度は迷わずに

 存在する。

 を選択した。すると

 ありがとう

 という言葉だけが表示されたのである。

「なんか、気分が変わっちゃったなあ……」

 仕事をする気が失せた僕はその、ありがとうの文字をただ見つめて、心から安心して決意する。

「そうだ、僕の世界はここじゃないな」

 パソコンを閉じ、リビングにいる妻と子供の元へ向かう。

「こちらこそ、本当にありがとう」

 昔のように、ついまた、独り言を呟いてしまった。でもまあ、悪い内容じゃないし良しとしよう。

 僕が思うに。
 人は死ぬことを許されてないし、自分だって本能的に死にたくないのだと思う。特に比較的生きることができるこの国では。だからこそ、逆に悩むのかもしれない、苦しむのかもしれない。

 存在する、ということに。

 だが、僕は、幸運かどうかは知らないが、存在しないということを体験できた。そうすることでようやく気づくのだ。

 存在する、ということが……

 どれだけ幸せで恵まれてて、素晴らしいことなのかを。

 忘れない、泣きながら走ったあの瞬間を。
 忘れない、人を笑顔にさせたあの瞬間を。
 忘れない、今も流れるこの幸せな瞬間を。

 そう思いつつ、今日も僕は迷いながら悩みながらも、存在し続けるのであった。


これにて『存在しないという選択』は以上です。当初この作品を書いたとき、自分は疲れてるんだろうなと不安になってしまいました。この作品の主人公のように、僕も自分に嫌気がさしてたのです。いわば、この作品は頑張る人へのエールであると同時に、自分も励ますために書いた作品……なのでというわけではないのですが、やはり思い入れのある作品です。

かなり更新が遅れてしまい、申し訳ありません。しかし、これからも書くことはやめず、努力していくつもりなので、のんびりと優しい目で次回作を待ってくれると嬉しいです。ではまた。

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