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映画レビュー『こちらあみ子』

▼作品概要
タイトル:こちらあみ子
原作: 今村夏子
監督: 森井勇佑
出演:大沢一菜 井浦 新 尾野真千子 他
【あらすじ】
あみ子はちょっと風変わりな女の子。優しいお父さん、いっしょに遊んでくれるお兄ちゃん、書道教室の先生でお腹には赤ちゃんがいるお母さん、憧れの同級生のり君、たくさんの人に見守られながら元気いっぱいに過ごしていた。だが、彼女のあまりに純粋無垢な行動は、周囲の人たちを否応なく変えていくことになる。誕生日にもらった電池切れのトランシーバーに話しかけるあみ子。「応答せよ、応答せよ。こちらあみ子」―――。奇妙で滑稽で、でもどこか愛おしい人間たちのありようが生き生きと描かれていく。

公式HP→https://kochira-amiko.com/

何かと話題の映画『こちらあみ子』。
リアルタイムで劇場では見れなかったが、ようやくレンタルで視聴。
ちなみに原作小説は未読。

率直な感想は、映像表現も描いてる内容も素晴らしいなと!

でも二度と見たくない!!

です。

私は事前情報とか少し入れた状態で見たから大丈夫だったけど、公式サイトのあらすじは「え、視聴者を罠に陥れようとしているのでは?」と疑いたくなるくらい誤解を招く書き方をしてる。
あらすじからはいかにも心温まるストーリーな雰囲気に感じるけど、

いや全然そんなことないから!!!!!
この映画の95%は地獄で構成されてますから!!!!!

序盤だけ温かな雰囲気はありますが、そんなのはホントにほんの最初の方だけ。
それを過ぎると風変りなあみ子の行動によって、家族がどんどん壊れていきます。
壊れていく過程に起きる出来事や描写の生々しさがハンパなく、ただただ地獄が続いていく。

あみ子は風変りといっても、視聴者すらもかなり不快に感じてしまうような行動や言動をするので、「ちょっと変わってて面白い子フフフ可愛い」みたいな生易しいものではないです。
もはや怪物のような存在のあみ子が、成長するにつれてどんどん家族や社会から孤立していく様子は見ててとってもしんどかった。

発達障害やグレーゾーンの人達が何かと話題になる現代社会では、決して他人事ではない内容だと思います。
(ちなみに映画内ではあみ子は発達障害やグレーゾーンと明言されてません)
とんでもなく苦しい映画なので、まだ未視聴の方はそれなりに覚悟して見た方がいいです。

※以下ネタバレを含みますので未視聴の方は要注意





この映画は1つのシーンを長回しで撮っていたり、意味深な「静」なシーンが多かったりと余白が多いです。
私は考察が苦手なので、あまりちゃんと深堀はできないのですが、印象に残ったシーンや要素をとりあえず箇条書き。

①両親が病院から帰ってくるシーン
日傘を差して汗でビチョビチョになりながら両親の帰宅を待っていたあみ子。
その顔が母親視点でアップになり、あみ子の顔を愛おしそうに触れる両手のが映る。
母親の顔は映ってなかったけど、表情を見ずとも手の動きで愛おしさが伝わってきた。

②あみ子がお兄ちゃんに詰め寄るシーン
小学生の頃、あみ子は「ハゲ見して!」と言ってお兄ちゃんに詰め寄る。
お兄ちゃんは体格的にあみ子を押し返す事はできたと思うけど、押し返さずされるがままになる。
なんて事ないシーンだったけど、大きくなった後、もう一度あみ子がお兄ちゃんに詰め寄った時は容赦なく突き飛ばしたのを見てとても切なくなった。
恐らくお兄ちゃんのハゲは、あみ子の面倒を見るストレスによってできたものじゃないかと思う。
そんなにストレスが溜まっていたにも関わらず、優しく面倒を見ていたお兄ちゃん。
でも家族が壊れた後、もうその状態では無くなってしまった事を印象づけるシーンだった。

③クッキーのチョコぺろぺろ&保健室のシーン
予告編でも印象的だった、クッキーに塗られたチョコをあみ子がペロペロと舐めるシーン。
なかなか視覚的に不快なシーンだったけど、更にその舐め回したクッキーをこともあろうに、大好きなノリ君に食べさせてしまう。
いや、大好きだからこそクッキーをあげたんだろうけど。
クッキーを食べてしまったノリ君を見て「ひいいいい」となったけど、更にそれよりも酷いシーンが…。
保健室のシーン、俯くノリ君の目の前であのクッキーを同じようにペロペロするあみ子。
個人的にこのシーンを見ている時が一番緊張感あった。
ノリ君、どうか、どうかそのまま顔をあげないで!!お願いだから!!
今絶対に見ちゃいけないものがあるから!!!!!
その願いも虚しく、顔を上げ、全てを理解したノリ君。
それから「好きだ!!!」と全力の告白をするあみ子が殴られるのはもう見てられなかった…。

④あみ子に出される肉
回想シーンで、お母さんから好きな食べ物を聞かれて「肉」と答えるあみ子。
序盤の誕生日のシーンで、お母さんの作った美味しそうな手作りの唐揚げが出ていた。
後半のお父さんとの食事のシーンでは、総菜の肉が出される。
なんてことない部分だけど、周りからのあみ子への愛情が失われていく様子の対比に思えた。

⑤あみ子の荷物の仕分け
あみ子を祖母の家に預ける事になり、あみ子の部屋で「いる物」と「いらない物」を仕分けている途中、たまたま見つけたトランシーバーを手にしたお父さん。
そのトランシーバーを「これはいる!」と無造作に取り上げるあみ子。
その時、影になっててあまり顔はハッキリ見えなかったものの、お父さんの苛立ちがどんどん膨れ上がってるように感じた。
それと同じ時、お父さんの後ろにいるあみ子はもう片方のトランシーバーを探す為に「いらない物」を入れている箱の中に体を入れている。
あみ子の存在を忌々しく思うお父さん、「いらない物」の箱に入るあみ子。
意図的な描写なのかわからないけど、私はゾッとしてしまった。

⑥お風呂に入らないあみ子
これはシーンそのものではないんだけど、途中でクラスメイトの坊主の男の子に「お前くせぇよ」と言われる。
あみ子がお風呂に入ってないからなんだけど、これはあみ子が幽霊が怖くてお風呂に入れなかったのかなーと解釈をして、ちょっと切なくなった。

⑦あみ子を助けにくるお兄ちゃん
ベランダからいつもの謎の音がして、トランシーバーで「こわいんじゃ!助けてお兄ちゃん!」と叫んだところで、突然お兄ちゃん登場。
窓にいた鳩を逃がして、何故か卵を遠くに放り投げる。
なんであんなに突然お兄ちゃんが現れたのか正直よくわからなかった。
でも、誰とも通じ合えなかったあみ子だったけど、もうほぼ接点のなかったお兄ちゃんが最後の最後に助けに来てくれたのが、なんともいえない気持ちになった。

⑧何も教えてない坊主君
暴言は吐くものの、なんだかんだあみ子に優しかった坊主君。
あみ子に、「気持ち悪いんじゃろ?どこが?」と聞かれた坊主君は最終的に「ワシだけの秘密じゃ」と言って何も言わない。
優しい答えだなーとは思ったけど、でも、個人的にはちょっと残酷ではないかなとも思った。
その理由は後述します。
とはいえ、坊主君はめっちゃ良い子だなと思った。

⑨ラストシーン
早朝、長い道を辿って海に向かっていくシーン。
結構意味深な描写で人によってかなり解釈は分かれそう。
私は、海の向こう側から、妄想の中にいた音楽家達があみ子を手招きしていたのが死を連想させた。
場所も海辺だったので、余計に死の匂いを感じた。
でもそれをあみ子は見送ったので、お父さんに捨てられたのがわかって、死にたいくらい辛い気持ちになったけど、やっぱりやめた、となったのだと解釈した。

上の解釈とは別に、もう一つ考えてみた。
海に下るところが、小学生の頃にノリ君にクッキーを食べさせて場所と非常によく似ているのに注目した。
もしかしたらあみ子にとって、ノリ君にクッキーを食べてもらったのがとても嬉しい思い出だったかなと。
あまり現実が辛過ぎて、昔にあった嬉しい思い出と、楽しい妄想の世界の中に引きこもって現実逃避をしようと思ったけど、現実を見つめて生きていこう、と思い直した、という風にも見えた。

そして最後の最後、誰かの声で「まだ冷たいじゃろ?」と問われて、「だいじょうぶ!」と答えるのをあみ子。
現実は非常に冷たいけど、それでも前向きに生きていこうとしているのかなと思わせる。

まだまだ書ききれないけど、印象に残ったシーンや要素については一旦ここまで。

あみ子は最初こそ、お母さんやお兄ちゃんがあみ子に接してくれてはいたが、時間が経つにつれて、あみ子に向き合う人は誰もいなくなって、どんどん孤立してしった。
あみ子が孤立していったのは、あみ子が話を聞いていないから、という人がいたけど、そもそも周りがあみ子に何も言わないし教えなくなっていた。
途中であみ子がトランシーバーで「なんで誰も教えてくれんかったんだろう。みんな秘密にするよね、毎日」と言っていたのがそれを意味している。

死産をしてお母さんが辛かった事、亡くなった赤ちゃんは女の子だった事、お父さんがあみ子を祖母の家に預けると決めた事、あんなに大好きだったノリ君は本名すら知らなかった(教えてもらえなかったと解釈しているけど、あみ子が知ろうとしなかっただけかも)。
誰もあみ子に教えてくれない。
その状態はまるで、あみ子が持っていた何も受信しないトランシーバーのように感じた。
「もしもし、こちらあみ子」の問いかけは誰にも届かない。

教えてくれないからあみ子もわからなかった部分はあると思う。
お父さんは「あみ子にはわからんよ」と言っていたけど、何も言わなかったらそりゃわからないだろう、とは思う。
あみ子にわかるようにちゃんと教えてくれる人間がいたら、もっと違う未来があったんだろうか。

ただ、あみ子がある意味不幸なのは、クラスメイトの坊主君はあみ子に好意的だったのに、そういう人間の事はあみ子が受け止められてなかった事。
家族やノリ君など、あみ子が慕ってた人は一切受け止めてもらえず、自分に好意的な人間は全く眼中に入らなかった。
このすれ違いはなんとも悲しかったな。

書いているうちにどんどん色々書きたくなるけど、キリがないのでここまでにする。
この映画は正直見終わった後は、ピンとこなかった。
余白の多い映画だったので、意味がわからない部分も多く、良い映画ではあったけどなんだったんだろうな…と思ってしまった。
でも、見終わった後もなんだかずっとあみ子の事を考えてしまう。
不思議な力がある映画だった。

見ていてとてもしんどい映画だったけど、素敵な映画なのは間違いないので、少しでも興味が湧いた人は是非見てみて欲しい。





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