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ビニールプールで待ち合わせのようです

高校2年の春先の事。
小さな手紙をもらった。
貰ったというか、下駄箱にことんと置かれていた。差出人の名前が校内で一番可愛いと言われている女子のものだったので、ああこれは何かしらの悪戯で、僕はついにいじめられるんだと、思った。
だから呼び出された場所に野次を立てるギャラリーがいなかったことと、緊張した様子の差出人本人がいたことには驚いたんだ。

ビニールプールで待ち合わせのようです

o川*゚ー゚)o「いきなり呼び出してごめんね。日木くん帰宅部だって聞いたんだけど、他に用事なかった?」

日木くん、と呼ばれて肩が跳ねた。校内一の有名人である九兎さんが僕の名前を知っていて、剰え呼ぶだなんて思ってもいなかったのだ。

(;-_-)「人違いじゃないんだ」

o川*゚ー゚)o「え?」

小さな擦れた声しか出なかった。当たり前だ。学校で声を出すことなど、授業で教師に当てられたときぐらいで、同級生の、しかも女子となんてもう何年も会話をしていなかったから。

(-_-)「いや、……うん。他に用事はないから大丈夫」

o川*^ヮ^)o「良かった!」

そこにいるだけで周りが明るくなるような眩しさが、彼女にはあった。花が綻ぶように笑うというのはこういう事を言うのだろうな。
彼女の長い睫毛に見惚れていると、段々と頬が朱に染まっていることに気付く。目の中に綺麗な泉でもありそうなくらい潤んだそれが、真っ直ぐ僕を見た。

o川*゚ー゚)o「……あの、こういうこと聞くの、恥ずかしいんだけどね。日木くんって好きな子とか、いる?」

(-_-)「……言いたくない」

o川*゚ー゚)o「てことは、いるんだ」

(;-_-)「…君には関係ないでしょ」

o川*゚ー゚)o「無くは、無いの」

o川*゚ー゚)o「私、私ね……その、一目ぼれしちゃったんだ。生まれて初めて」

そうらきた、と僕は内心大きめのガッツポーズをした。
尻尾を出した、正体を現したなと、妖怪退治をしている坊主の如く叫んでやりたかった。自分が一目ぼれなどという、ロマンティックで素敵なものの対象になることは皆無であることを知っている。
つまりは彼女の言うことは嘘であり、やはりこの呼び出しはからかいにすぎないのだ。
僕のリアクションを見て、馬鹿みたいに笑うつもりなんだ。最悪だ。
僕が彼女の言葉に釣られて反応した瞬間に、きっとSNSにあげる用のカメラを回したネタバラシ役が入り込んでくるに違いない。
それならさっさと処してくれ。付き合ってくださいだとか決定的な言葉を出されたら僕もきちんと言葉を返そう。そしてこのくだらないドッキリを終わらせよう。

o川*゚ー゚)o「日木くんにお願いがあるの」

(;-_-)「……なに」

o川*゚ー゚)o「その、あのね、……っ」

o川;*゚ー゚)o「日木くんが書いたラブレターを私にください!」

(-_-)「……」

(-_-)「…………ラブレター?」

彼女は声まで綺麗だった。目立つわけでも大きいわけでもないが、内容とは裏腹に背筋が伸びるような、もう少し聞いていたいと思わせる力がある。

だから言われた言葉を理解するのに時間がかかってしまった。
想像していたものとは全く違っていたのと、ネタバラシをする人間が来なかったこと、それから彼女があまりにも本気のように見えたから、狼狽えながら阿呆のように言われた単語を繰り返す事しか出来なかった。

o川;*゚ー゚)o「もちろん言い値で構わないよ。頑張ってお支払いする。何ならなんでも言うことを聞くよ。だから、だからお願いします!」

長い髪が床に付かんばかりの勢いで九兎さんが頭を下げた。
何が起きているのか、何を言われているのか一つも理解が追いつかない。ここが人目につかない場所で良かったと、まだ冷静な考えが出来るのは幸か不幸か。

(;-_-)「意味が分からない。僕は君のことを好きではないから君にラブレターは書けない。君のことを好きな人はたくさんいるから、他をあたってよ」

o川*゚ー゚)o「私宛じゃなくて良いんだよ!日木くん好きな人いるんでしょう、その人に宛てて書いてもらえればいいんだ。勿論相手の名前は書かなくていいし、言わなくてもいいから」

(;-_-)「僕が他人に書いた手紙をどうして九兎さんにあげなきゃいけないの。自分が言ってることに矛盾があるって気づいてる?君、一目ぼれしたって言ってたじゃないか」

o川*゚ー゚)o「矛盾なんてしてない。そうだよ、私生まれて初めて一目ぼれをしたの。──貴方の文字に!」

(;-_-)「…はあ?」

彼女の熱っぽい演説をまとめると、こういうことだそうだ。
九兎直は文字を何より愛していて、端的に言えば極度の文字フェチ。
ある日偶然僕のノートを見て衝撃を受けた。
まさしく理想の文字であり、その文字で書かれた文章が喉から手が出るほど欲しいと切に願った。
だから是非ともラブレターを書いてほしい、らしい。なんじゃそりゃ。

(;-_-)「僕の文字ってそんなにいいものかな。賞を貰った事もないんだけど」

o川*゚ー゚)o「上手い下手じゃなくて、それを超えたいいものなんだよ!自信をもって」

(;-_-)「何でラブレターじゃなきゃダメなの?」

o川*゚ー゚)o「今までたくさんもらってるんだけど、ラブレターってその人のパッションとセンスと愛の全てが詰まった最高の作品だと思ってるんだ」

o川*゚ー゚)o「私、私ね」

o川*゚ー゚)o「レタリング専門の彫り師になるのが夢なの。それでファーストタトゥーに日木くんが書いたラブレターを身体に彫りたいの!」

o川;*゚ー゚)o「だからお願い、お願いします!貯金もあるし足らないなら一生かけて払うので!!」

(;-_-)「…ご家族は彫り師になることとか自分に彫ることは反対してないの」

o川*゚ー゚)o「うちは放任主義っていうか、この見た目で苦労することは多いだろうから、なるべく楽しく生きればOKって言ってるよ」

(;-_-)「良い親御さんだね」

o川*゚ー゚)o「ありがとう」

全てが違うと感じた。
文字が好きだとか、それに惚れただとか、そしてそれを自分の体に彫りたいだとか、すべて僕とは違う世界観で、僕の世界には無かったことが破茶滅茶で暴力的に僕を襲っている。
時間をかけてようやくわかったことはこれは本当にドッキリなどではないことだけだ。
あとのことはまだ、理解はしきれていなかった。
彼女とは今日初めて話すような関係だ。学校全体で言えばヒエラルキーが最上位の人間が、最下位の人間に頭を下げている。
理解できなかった。どうしてそこまでできるのだろう。

(-_-)( 本当に好きだからだ。字が )

(-_-)( そんなの )

いいなと、思ってしまった。
そんなに好きになれるものがあるのはいいなと。
ぼんやり、下げられたままの旋毛を見ながら落胆でもないため息を吐いて、いいよ。とだけ呟いた。その言葉に九兎が輝かせた顔を上げた。

o川;*゚ー゚)o「え」

(-_-)「でも一個だけ条件がある」

誰宛か書かなくてもいいとはいえ、これは結構な労力だと踏んだ僕はここぞとばかりに足元を見てやることにした。それで諦めたらいいなと、少しだけ思いながら。

(-_-)「僕の友達のフリをしてほしい。手紙が書けるまでの間」

o川*゚ー゚)o「友達の、フリ?」

(-_-)「僕友達がいないんだ。今までもずっとそうだったから僕自身困ることは無いんだけど、家族が心配してる」

o川*゚ー゚)o「いい親御さんだね」

(-_-)、「親は、いなくて。代わりにじーちゃんとばーちゃんが育ててくれてて、じーちゃんは先月体壊して入院したんだ。もう退院したんだけど」

(-_-)「元気ではあるんだけど、心配事はなるべく減らしてあげたい。手紙が書き終わるまでの短い間でいい。クラスで話しかけたりしなくていいから、放課後僕と過ごしてもらえればそれでいいんだ」

事実、今現在どうしたものかと悩んでいた事柄だった。
「友達がいる」と2人に伝えるだけでも良いが、長く家族をやっている祖父や祖母が僕の細かな癖で嘘を見破ってしまったら目も当てられない。だから少しの間だけでも一緒に過ごす存在がいれば直接目にはしなくても「誰かと過ごしているんだな」と思えるのではと考えたのだ。

o川;*゚ー゚)o「──やだよそんなの」

(-_-)

なんでもすると言っていたのに。九兎の即答にとんでもない裏切りを受けた気持ちになった。
ぐ、と唇を噛み締めて目を瞑る。そりゃ、こんな奴とフリでも友達になんてなりたい人間はいないだろう。仕方ない。言ってみただけだ。試してみただけ。
結んだ口を開けて、極力声に感情を乗せないようにした。

(-_-)「まあ、そうだよね」

o川*゚ー゚)o「うん」

o川*゚ー゚)o「そんなに良いおじいちゃんとおばあちゃんに嘘ついちゃダメじゃん。フリじゃなくてガチの友達になろうよ」

(-_-)

一瞬時が止まったのかと思った。
ごくん、という自分の唾を飲み込む音にハッとして言葉を出す。

(-_-)「フリじゃなくて、で、良いの」

o川;*゚ー゚)o「え、どうしてもフリのほうが良い?でもさ、一世一代のラブレターを渡す相手だし、友達もどきよりも、ホントの友達のほうが良い気がしない?」

(-_-)「そう、かなぁ」

o川*゚ー゚)o「絶対そうだよ!」

そうなのか。
きっと顔が良い人には説得力のコマンドがとても高く設定されているに違いない。堂々とそうだと言われて、僕は思わず頷いてしまった。
グラウンドからも離れた場所なので、運動部の掛け声が遠くに聞こえる。
誰もいない空き教室で、僕らは変わった契約を交わした。

o川*゚ー゚)o「じゃあ、明日からよろしく」

(-_-)「うん」

o川*゚ー゚)o「書けるまで、ここに集まろ」

(-_-)「うん」

o川*゚ー゚)o「あ、最初に言っておくね」

o川*゚ー゚)o「友達は好きになってはいけないよ」

(-_-)

(-_-)「うん、僕、絶対君の事好きにはならない」

o川*゚ー゚)o「たのもしいぜ」

町内放送の、音がぼやけたアナウンスが風に乗って聞こえてくる。暗くなる前に早く帰りましょう。いつもは家で聞いているこの放送を、学校で聞くのは初めてだ。

o川*゚ー゚)o「もうこんな時間なんだ。早いね」

冬に比べてだいぶ日が伸びたとはいえ、広い青空はオレンジに変わり、それもまたすぐに紺色に変わっていた。
西棟を出たら他の誰かに見られてしまうかもしれず、それはとても面倒なことになるだろう。教室を出た廊下で、じゃあ、とだけ言うと九兎が右腕を上げて音が聞こえるほど振るっていた。

o川*^ヮ^)o「バイバイ、また明日」

(-_-)/

(;-_-)「…」

(;-_-)>"

つられて右手が顔の横まで上がってしまい、誤魔化すように頭を掻く。
バイバイなんて幼稚園生でもやっていることだろう。
別れ際に手を振るのもまたねと言うことも、相手がいないとできないのだ。そんな当たり前のこと、きっと誰も気づかないくらい普通に過ごしてる。僕にはこんなにすごい出来事なのに。

多少浮足立つ気持ちを抑えて帰宅する。

(;-_-)「……」

なんだか大変なことになってしまった気がしないでもない。どうしたものか、それを相談する相手もいないので仕方なく頭を振った。
ただいまの声が大きいけどどうしたと聞かれて、僕という人間の単純さに呆れた。

.

寝て起きた時、昨日の出来事は夢だったのではないかと思った。
それほど現実味のないことだった。期限付きの友達になる代わりにラブレターを書くだなんて、馬鹿げている。
しかし鞄の中から小さなメモが出てきて、やはり夢ではないこと突き付けられた。

o川*゚ー゚)o「遅いよー、溶けちゃうとこだよ」

放課後、恐る恐る昨日と同じ教室へ出向くと九兎がすでに適当な席に座っていて、僕を見つけるなりそう言った。きれいな人は待たせると溶けてしまうのかとほんの少し驚いた。

o川*゚ー゚)o「おやつをあげようね」

何か食べていると思えば棒アイスだった。僕にはカップのアイスをいそいそと押し付けている。容器の結露が冷たい。

(;-_-)「どうしたのこれ」

o川*゚ー゚)o「秘密の抜け道があって、近くのコンビニまで行けるんだよ。今度教えてあげる。これは日木の分、溶ける前に食べなね」

(;-_-)「え、いくら?」

o川*゚ー゚)o「日木、友達というのはおやつを分け与えるものなんだよ」

そうなの、と僕は聞きそうになる。たとえ違っていたとしてもその是が非を確かめるすべがない。鞄を漁ると祖母に貰った塩飴があったが、対価になるとは思えず取り出さなかった。

(;-_-)「次の時なんか持ってくるよ」

o川*゚ー゚)o「いいね、お菓子交換会も楽しそう」

そういうつもりではなかったが、九兎はまたお菓子を持ってくる気のようだった。
今まで数百回くらいやってきたとばかりに、彼女はあまりに自然だった。僕はまだこんなに友達という存在に慣れていないのに。
何だか悔しい気持ちを隠したくて、溶けかけのアイスの蓋を開けた。

.

西棟は老朽化が進んでいるので普段は使用を禁止されている。
人が入らないからか教室は埃っぽく、風通しが悪い。換気のために窓を開けると、ごう、と一際大きく風が吹いてカーテンがあわただしく波を打った。
窓から見える景色がきれいに見える。どこまでも青が続くような、広い広い空だった。

(-_-)「あのさ、言い忘れてたんだけど僕、現代文苦手なんだよ。作文下手なんだ。でもって友達もいなかったから手紙を書く習慣なんてなくて、だから、きちんとしたもの書けない、かも」

o川*゚ー゚)o「ええ?きちんとなんてしてなくていいよお。コンクールに出すわけじゃないし、書きたいように書いてくれたらそれが一番だよ。添削もしないから」

(-_-)「添削しないの?」

o川*゚ー゚)o「添削しない」

(-_-)「誤字脱字があったらどうするの?」

o川*゚ー゚)o「原文ままで彫るよ」

責任重大すぎる。僕のミスが取り返しのつかない傷になるのか。持っていたペンが途端に重く感じる。ただでさえ書き出せなかったのに、スタート地点から引き摺り落とされた気持ちだ。

o川*゚ー゚)o「そんなに気を負わなくても。大事なのは文字であって、中の文はそこまで重要じゃないんだ」

(-_-)「じゃあ九兎の好きな言葉を教えてくれれば、それ書くよ」

o川*゚ー゚)o「それはねえ、違うんだな。なんだろ、うまく説明できないんだけど、文字ってその人の内面とかがもろに出るのね。そういう一切合切をひっくるめて貴方の文字を愛しているので、私の好きな言葉とかはなあ、最高に魅力的だから第二弾第三弾はそれさせてほしい」

結局書かせるならそれでいいじゃないか、と思いはしたが言えなかった。
愛だとか好きだとか、よく惜しげもなく口から出せるな。本当にそう思ってはいても口にするのは恥ずかしいような年頃じゃないのか僕ら。
九兎はこれっぽっちも気にはしていないようだった。
それは一種の途方も無い自信で、無自覚な自慢で、僕の小さなコンプレックスをちりちり傷付けるには十分な純粋さだった。

o川*゚ー゚)o「そうだ。今日は友達と遊ぶから遅くなるって連絡入れておきなよ」

(-_-)「え」

o川*゚ー゚)o「え、もしかして日木、スマホない?」

(;-_-)「持ってる。じーちゃん達も持ってる。けど、そんな、ドラマとか漫画でよく見るようなベタなやつ、していいの」

o川*゚ー゚)o「そりゃ嘘はダメだけど、真実なんだから良いに決まってる」

o川*゚ー゚)o「なんならツーショ撮って送ってもいいよ」

(-_-)「それはやめとく」

家で顔を突き合わせているので送る用事などほとんど無かった祖父と祖母に連絡を送った。すぐさま既読が付いて、よくわからないけどテンションの高そうなスタンプや絵文字が返ってきた。嬉しさと気恥ずかしさと、やっぱり心配させていたんだなの気持ちでいっぱいになってしまう。
無駄にスワイプをして気恥ずかしさを紛らわせる。自分が打った文章の中の「友達」という言葉が、夜空に輝く星みたいに優しく光って見えた。

o川*゚ー゚)o「おじいちゃん達、喜んでた?」

(;-_-)「わかんないけど、スタンプ連打は初めてされた」

o川*^ー^)o「あはは、やったじゃん」

(*;-_-)「……」

(*;-_-)「九兎は何で彫り師になりたいの?」

身内をいじられるという体験を初めてした僕は、誤魔化す為に話題を変えるべく質問をした。雑な話題転換だったが九兎はそうだねぇ、と間延びした声で気にすることなく話し始めた。

o川*゚ー゚)o「お兄ちゃんも彫り師なの。んでね、よく仕事場を見させてもらってたんだけど、お客さんで外国人のお姉さんがいてね、その人が知らない国の言葉を沢山彫ってて」

o川*゚ー゚)o「なんて意味なのか聞いたらその人も知らないって言うの。どういう言葉かは知らないけど、この字が美しくて素晴らしいから身体に刻みたかったんだって」

o川*゚ー゚)o「それがすっごくカッコよかったんだよね。私も字が好きだから、じゃあ字の専門の彫り師を目指そうって思ったんだ」

(-_-)「かっこよかった、って」

(-_-)「女性が好き、ってこと?」

o川*゚ー゚)o「うーん、違う、と思う。わかんないけど」

o川*゚ー゚)o「まだ人を好きになったことが無いんだよね。惚れた腫れたで小さい頃からいろいろあって。友達ができてもその子の好きな人が私を好きで、私とは険悪になったりとかいっぱいあっておなかいっぱいなの」

九兎の笑顔は100人が100人可愛いと言うだろう。にっこり、綺麗な笑顔。
だけど僕は、僕には何故だか無理してるような笑い方に見えた。

o川*゚ー゚)o「私は人よりも、字が好きだなあ」

(-_-)「……ごめん、全然書けなくて」

o川*゚ー゚)o「日木って謝ってばっかで面白いね。頼んでいるのはこっちなんだからもっと偉そうにしてもいいんだよ」

結局一日では何も書けずじまいだった。
ルーズリーフに書いては消して、書いては消してを繰り返して得た物は消しゴムのカスだけだ。おやつも貰って、夢の話まで聞き出したくせに成果をあげられなかった僕。だというのに九兎は平然としているので逆に申し訳なさが募った。

o川*゚ー゚)o「ラブレターなんて、言われてかけるもんじゃないんだから仕方ないよ」

o川*゚ー゚)o「アートの世界はさ、1mmのズレを気にして何度も何度もやり直しをする人いるんだよ。一発で最高傑作を作れる人もいれば、たくさんの時間をかけて作れる人もいるんだって」

o川*^-^)o「最高傑作のためならいくらでも待つよ!」

(-_-)「……遅くなればなるほど期待値が上がりそうな気がするからなるべく早く終わらせるよ」

o川*゚ー゚)o「プレッシャーをかけるつもりはなかったんだけどなあ」

o川*゚ー゚)o「ま、気楽に行こうぜ。友達」

それからカレンダーが1枚替わるくらいの日が過ぎた。
快晴の時も大雨の時も風が強い日も僕らはこの空き教室に集まって、だらだら喋って、たまにおやつを食べて過ごした。
僕がああでもないこうでもないと頭を掻いている時、九兎は静かに雑誌を読んで過ごしていた。僕の字などさっさと欲しいはずなのに、決して急かしたりすることはなく、また、責めるようなことも言わなかった。優しさにも種類があると思うが、九兎の優しさは付かず離れずちょうどいい距離で見守るような優しさだった。

o川*゚ー゚)o「思ったんだけどさ、こうやって集まるの、日木の家でやったほうが良かったんじゃない?おじいちゃんとおばあちゃんに友達ですって自己紹介出来たのに」

(-_-)「じーちゃんとばーちゃんがいる家でラブレター書くなんて拷問だよ」

o川*゚ー゚)o「そういうものかぁ」

(-_-)「……うん」

(-_-)(それだけが理由じゃあないけど)

確かに人が来ない場所とはいえ学校の敷地内な訳だから、他の生徒に見られるリスクを背負うより家に呼んでしまったほうがいいかもしれない事は僕も考えた。
一緒に過ごしている人がいるってじーちゃん達に匂わせてはいるけど、実物を見せれば一発で安心して貰えるわけだ。けど、この友達関係は九兎の計らいで偽物ではなくなったが、結局は契約期間があるものなのだ。それを忘れてはいけない。書けるまで毎日来てた友達が、書き終わったあと来なくなった時のほうが絶対心配するだろう。
だから家に呼ぶことはしなかった。
九兎の優しさとは反対に、僕はいつだって自分の事しか考えられない。

o川*゚ー゚)o「日木の好きな人ってどんな感じの人?」

(-_-)「教えない」

ある日九兎がわざわざ席を近くまで移動してそんな事を聞いてきた。
雑誌を読み終えたらしい。僕が即答したにも関わらず、彼女はフ、と小さく笑って首を振った。

o川*゚ー゚)o「友達とは恋バナをするものだよ」

そうなの?と思わず言いそうになったが飲み込んだ。
退屈凌ぎに聞いてきただけじゃないか。

(-_-)「そうだとしても、君とは恋バナしない。誰にも言うつもりはないんだ」

o川*゚ー゚)o「本人にも?告白しないの?」

(-_-)「しない。九兎は好きでもない人から告白され慣れてるからわかるでしょ。相手を困らせるだけだよ」

o川*゚ー゚)o「ふーん」

o川*゚ー゚)o「日木の好きな人は、日木の字が最高で、日木自体も面白くて、とてもいいやつだって知らずに生きていくんだね。もったいない」

僕は僕自身の矮小さや駄目さを知っている。だから九兎が言ったようなことは全部お世辞か買いかぶりにすぎない筈だ。
だというのに彼女がそう言うと、本当に自分に価値があるように思えてくる。

(-_-)「……僕と君は友達なので好きになってはいけないよ」

o川*゚ー゚)o「お慕いしているお字様がおりますので大丈夫です〜」

鼻を擦りながら照れ臭さを消すように軽口を叩いた。馴れ馴れしかったかと言った後に思ったが彼女も変な顔をしながら軽口を返してきたのでふん、と鼻を鳴らしてしまった。

o川;*゚ー゚)o「今日あっついなー!アイス買いに行こう、前に言ってた裏道教えちゃる」

エアコンが効くのは生徒がいる校舎だけだったので、西棟はただただ暑い建物でしかなかった。
ハンディファンは生ぬるい空気を一生送るだけで何の慰めにもならず、ついに音を上げた九兎が長い髪を纏めながら教室を飛び出す。
渡り廊下を歩いて、伸び放題になっている雑草に怯むことなく道を行くので、少しだけ引きながら着いて行った。
外は大きな大きな白い雲が青空を飲み込みそうだった。

o川*゚ー゚)o「日木は夏好き?」

(-_-)「好きじゃない」

半袖の腕が汗をかいていて、雑草がぺたりと張り付くのが不快だった。
同じ場所にいて同じ道を通っている筈なのに九兎は何処か涼しげに見える。綺麗な人は汗も綺麗なのか若しくはかかないのか。

o川*゚ー゚)o「暑いの嫌いそう」

(-_-)「それもあるけど、思い出して居た堪れなくなるから」

o川*゚ー゚)o「何が?」

(-_-)「……昔、小学校のころ位かな。じいちゃんがさ、僕があんまりにも友達と遊ばないからって、めちゃくちゃでかいビニールプール買ってきたんだよね」

(-_-)「ほら、これがあれば友達何人でも呼べるぞって、家にゲームとかがないから僕が友達を呼ばないんだって思ったみたい。違うのにね」

o川*゚ー゚)o「ふうん」

九兎は猫のように道とも呼べないような道を通って、草木をかき分け、錆び付いた扉の前に辿り着いた。鍵が壊れているみたいで、ギッと鉄錆臭い音を立てて外に出る。

o川*゚ー゚)o「夏休み、日木の家遊びに行こうかな」

(-_-)「……」

風で扉がぶわりと揺れた。埃臭くて、それから夏の匂いがした。僕は九兎の言葉に、返事をしなかった。
流石に夏休み前には書けると思う。そうすると契約の期間は終わるので、僕らは友達ではなくなる。
勘違いをしてはいけない。僕らは契約ありきの、期間限定の友達なのだ。
だから彼女の言葉に返事を、約束をするつもりはなかった。する勇気がなかった。いつも、無くなるぐらいなら初めからなきゃいいんだと思って踏み込めないのだ。

蝉が鳴いているのをいいことに、僕は聞こえないふりをして、逃げるのだった。

++

(-_-)「……」

本を買った。
手紙の書き方が載っている本だ。
今までなぜ気付かなかったのか。これを読んだらマシなものが書けるようになるだろう。
約束をした日からもう、3ヶ月以上経っていた。
早く書けたら、書いたら、そこで僕らは友達関係を終えることになる。

(-_-)(でも)

でも、書きたいんだよな。
本人に渡すわけじゃないし、告白をするつもりとかじゃない。
ただ、九兎が待っているから、早く書きたい。書いて渡したらきっと喜ぶだろうから。
この3ヶ月の貴重な時間を思い返す。きっとこの先ずっと友達なんて出来ないだろう僕の人生の中で、もっとも楽しい時間だった。十分だ。たくさん貰った。次は僕が返す番だ。

(-_-)(…うん、早く書こう)

( ・∀・)「日木」

本を持っていざ行かんと教室を出たところで、名前を呼ばれ振り向く。九兎以外、生徒に名前を呼ばれることなんて無いから少し目が泳いだ。
そこに立っていたのは同じクラスの模良だった。

(-_-)

(;-_-)「え、あ」

( ・∀・)「どこ行くの?」

(;-_-)「え、えっと」

( ・∀・)「……あのさ、お前九ちゃんと仲良かったりする?」

突然話しかけられて口ごもってしまった。言葉の前に声が出しにくい。話しかけられたこととその内容が耳には入ったが頭に入るのに時間がかかる。オンボロのパソコンみたいに動作が遅くなってしまう。
九ちゃんというのはもしかしなくても九兎のことだろう。普段僕らは人前で話したりすることはない。なのでこの質問は何かしらを知らなければ出てこない。
誰かに見られていたのだろうか。やましいことは誓ってしていないけれど、じゃあ何をしていたんだと問われれば困ってしまう。
その焦りが変な風に見えてしまったのかもしれない。いらついたような舌打ちが聞こえ、びくりと身体が震える。

( ・∀・)「……ていうか何、この本」

(;-_-)「あ」

( ・∀・)「『手紙の書き方』……手紙なんて書いてどうすんの?」

( ・∀・)「九ちゃんに渡すの?お前が?友達もいない暗いぼっちが、勘違いしてんじゃねえよ」

敵意だ。
彼が僕に向けているのは明らかな敵意。目に怒りが見えて恥ずかしながら頭が真っ白になってしまった。

(;-_-)「……っ」

( ・∀・)「あ、待てよ!」

取られた本を奪い返して、走った。ただひたすらに走って、廊下にいた何人かの生徒の視線を頂いてしまったがそれどころではなかった。走っているからだけでは無い心臓の音がうるさい。胸が痛い。喉の奥が引っ付いて息がしづらかった。

何も言えなかった。何も言い返せなかった。

周りからすれば、当然のこと。僕と九兎が仲が良いなんて事はあり得ないんだ。
だって僕は彼の言う通りぼっちで、暗くて、彼女とは何もかも逆だから。
敵意を向けられるのも仕方のないことなんだ。

(;-_-)「はぁ、はぁ…」

(;-_-)「……」

念のため周りを見渡して人がいない事を確認してからいつもの教室に向かう。呼吸は中々落ち着かなかった。深呼吸をして空き教室のドアを開く。
いつもホームルームにきちんと出ているのか不安になるくらい早くに九兎はそこにいた。今日もお菓子を頬張りながら雑誌に向けていた目をこちらに移して僕を見ると、ただでさえ大きな目を丸くした。

o川;*゚ー゚)o「日木、どうしたの。顔真っ青、体調悪い?」

(-_-)「九兎、あのさ」

泣きそうな自分に気付いてしまう。今口を開いたら確実に涙が出る。でも言わなきゃいけない。スウと息を吸って、吐いて、それから口を開いた。

o川;*゚ー゚)o「大丈夫?」

(-_-)「やめよう」

o川;*゚ー゚)o「え?」

(-_-)「もう集まるのやめよう」

(-_-)「きちんと約束通り手紙は書くから、書いたら君に渡すから。こうやって集まるのはおしまいにしよう」

震える手を隠す為に力強く拳を握る。彼女の目が見れなかった。外で鳴いてる蝉の声だけが聞こえる。

o川*゚ー゚)o「理由、言ってくれないと納得できない」

(-_-)「おかしいから。君と僕が一緒にいるの」

o川*゚ー゚)o「日木」

o川*゚ー゚)o「日木が嫌ならやめるよ。でも本当?本当に嫌?」

(-_-)「僕は 嫌」

(-_-)「じゃ、ないから困ってる……」

唇を噛む。
どうしたらいいかなんてわからなくて、何も出来ない。上履きを見つめても何もならない。嫌じゃない。嫌なわけがない。僕がこの3ヶ月どれだけ楽しくて、九兎と過ごす時間がどれほど大事だったか、きっと誰もわからない。無くしたくなんかない。でも駄目だ。彼女が僕といるのは不自然で不相応で、それから、良くないことなんだ。

o川*゚ー゚)o「日木、友達とはね」

o川*゚ー゚)o「友達とは友達が困ってるときに助けるものだよ。知らないけどさ」

o川*゚ー゚)o「私普段猫被ってるの」

(-_-)

(;-_-)「……何の話?」

o川*゚ー゚)o「昔はさ、ずっとこの素の状態だったんだけど」

o川*゚ー゚)o「そうするとさ、もーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

o川*゚ー゚)o「モテるんだこれが。今よりモテてた。話しやすいとか距離が近いとか些細なことで笑うからとかそんな感じでね、告白されまくってて。んでね、反対に女子からは嫌われるんだよ。私のせいで女子と男子に確執生まれて地獄だったね」

o川*゚ー゚)o「前も言ったけど、お腹いっぱいなくらい友達だと思ってたひとに好きって言われたり、友達だと思ってたのに嫌いって言われて。人が嫌になっちゃったの」

o川*゚ー゚)o「引っ越して、それからは今の猫被った姿なんだ。まだ今のほうが平和」

o川*゚ー゚)o「女子も男子もまだ少し怖かったりする」

(-_-)「……僕も怖い?」

o川*゚ー゚)o「日木はなんか、平気。私のこと好きじゃないからかな」

o川*゚ー゚)o「だから本当は私も友達ってよくわかってない。偉そうに日木に言ってたけどね」

(-_-)「……」

九兎の綺麗な唇が小さく震えているのを、僕は見た。顔が良いことで起こる弊害は僕には想像もつかないけれど、彼女の笑顔がどこか寂しい時がある理由が、なんとなくわかった気がした。

o川*゚ー゚)o「日木と友達になれたの、良かったって思ってるんだよ私は」

o川*゚ー゚)o「だから、日木が困ってるんなら助けるよ」

(-_-)「……九兎」

九兎が手を差し伸べる。その手を取って良いのだろうか。

僕は、僕は。

意味もなく息を止めて手を伸ばしてみる。
白くて細い手を取ろうとした瞬間
バン、と強い音が響いた。

( ・∀・)「おい、お前マジでストーカーだったのかよ」

(;-_-)「あ」

o川*゚ー゚)o「あ?」

後をつけて来たのか探し出したのかはわからないが、教室に傾れ込むように入ってきた模良がすごい形相でこちらを睨んでいた。

o川*゚ー゚)o「何?模良くん。何でこんなとこいるの?」

( ・∀・)「九ちゃんさ、最近こいつといるとこ色んな奴が見てんだよ」

( ・∀・)「だから俺心配でさ。ストーカーされてんじゃないの?こんな根暗といる意味わかんねーもん」

(;-_-)「……」

模良は九兎が好きだった。ひとりぼっちの僕の耳にさえ噂が入ってくる程には有名な話だ。ほとんどの男子が彼女のことを好きだったので驚きもしない。
ただ何度も告白をしては駄目だったという噂も聞いている。
自分が駄目だったのに僕みたいな人間が九兎と一緒にいることが許せないのだろう。彼の敵意も理由はわかっていた。
ハァーーと大きなため息が聞こえ、発生源を思わず見てしまう。
九兎だ。

o川*゚ー゚)o「……関係、ないじゃん」

( ・∀・)「え?」

o川*゚ー゚)o「私が日木くんとどんな関係であっても、貴方には関係ないよね」

(;・∀・)「なんで、だって俺」

僕は人が被っていた猫を逃すところを初めて見た。もっとも被ってない九兎の方が見慣れているが、模良は違った。いつものお淑やかなか弱げな九兎が、般若みたいな顔をしているのを見てたじろいでいる。

o川*゚ー゚)o「告白してきただけの分際で、しかもフラれてる身で、私と日木の仲に割って入れるなんて思わないで」

o川*゚ー゚)o「ていうかお前のがよっぽどストーカーだっつーの!去ね!」

九兎が吠えた。
吠えたというより叫んだ。
彼女は僕が思っていたよりずっとかっこよかったようだ。
普段お淑やかなイメージの九兎にお前呼ばわりされたことが相当ショックだったのか、真っ青になった模良は何も言うことなくあっさりフラフラと消えて行った。
ドアに向かって舌打ちをしたあと、九兎が僕の前でしゃがんだ。僕は腰が抜けていて、ひたすらにかっこ悪かった。

o川*゚ー゚)o「ごめん。日木、大丈夫?」

(-_-)「僕の」

o川*゚ー゚)o「うん?」

(-_-)「僕の好きな人をめためたにフったね」

o川*゚ー゚)o

o川*゚ー゚)o「日木の好きな人って」

昔から自分の好きになる相手は男だった。けど他の人はみんな異性を好きになっていて、僕が好きな相手も総じてそうだった。
僕だけだ。僕だけみんなと違う。
きっと広いところに行けば、大人になれば、同じような人と会えるだろう。でも今はダメだ。誰にも言ってはいけない。違う事がバレてはいけない。
父と違う男と遊びまくって、その最中に事故で亡くなった母に影響されているわけがないのに、母と同じく男が好きな自分が嫌だった。
じーちゃんやばーちゃんも嫌われるかもしれない。
怖かった。
友達になればいつかばれてしまうかもしれない。それに、友達を好きになってしまうかもしれない。
怖くて仕方がなくて、僕は輪に入るのをやめた。

o川;*゚ー゚)o

(-_-)「……」

誰にも言ったことのない秘密を知った九兎が青ざめた顔でこちらを見ている。
無くなるなら初めから作らなきゃ良かった。フリにしておけば良かった。そもそも言い出さなければ良かった。
でも、やっぱり一人は寂しかったんだ。見ないで気づかないフリをしていた。じーちゃんとばーちゃんが心配するからと言っておきながら、自分が寂しくなっていただけなんだ。じーちゃん達がいなくなったら、僕は本当に一人になってしまうから。
けれどおしまいだ。彼女だって嫌だろう、友達がこんなものを抱えていたなんて。

o川;*゚ー゚)o「ごめん……一つだけ言っていい?」

(-_-)「……うん」

o川;*゚ー゚)o「日木、めちゃくちゃ面食いだね!?」

(-_-)

(;-_-)「え、それだけ?」

o川*゚ー゚)o「それだけって?」

(;-_-)「気持ち悪いとか、気色悪いとか言われる覚悟をしてた」

o川;*゚ー゚)o「なんで友達にそんなこと言わなきゃいけないの。思ってもないから頼まれても言わないよ」

o川*゚ー゚)o「でも言えるのはね、顔が良いってだけで好きになると良いことは無いんだよ。模良、顔はいいかもしれないけどアイツ性格そんな良くないよ」

(-_-)「それは知ってる。……だけど、僕も一つ言わせて」

(-_-)「僕の友達、顔が良いけど良いやつだから、例外もあるよ」

o川*゚ー゚)o

o川*゚ー゚)o「そらそうよ、日木の友達だもん」

.

o川*゚ー゚)o「無理しなくていいよ」

(-_-)「いや、今だからこそ書けると思う」

どうにかして九兎に好きな人がばれないようにしたかった。
そうすると書くのが難しかったのだが、今はもうそんな必要もない。深呼吸を一回。
それからルーズリーフのど真ん中にペンを置いて、流れるように走らせる。
外から聞こえていたはずの蝉の鳴き声も聞こえないほど集中をして、書き切った。

o川*゚ー゚)o「……良いじゃん、最高じゃん」

(-_-)「…うん」

『ずっと好きでした 馬鹿野郎』

たった一行、けど今の最大の気持ちを書いた。良い出来だと自分でも思う。
なるほど気持ちが乗るということはこういうことかと、書き終えてから分かった。今日の空みたく晴れやかでだだっ広くてとても清々しい気持ちだ。

(;-_-)「あ、でも待って。年頃の娘さんに馬鹿野郎なんて彫らせてしまうのは忍びないのでは」

o川*゚ー゚)o「なあに言ってんの!日木の最高傑作で私の最高傑作になるんだよこれ。これ以上ないくらい、気持ちこもってて最高でしょ、馬鹿のところ」

(-_-)「……そうかも」

o川*゚ー゚)o「そうだよ!」

(*-_-)「ふ」

o川*^ー^)o「あははは!」

僕は初めて友達と笑った。
最初で最後で最高の出来事だ。

o川*゚ー゚)o「私、これ彫るために明日から学校休むからさ」

書き終えたあと、僕は椅子に根が生えたみたく動けず、九兎の言葉を頭に入れていた。
ラブレターを丁寧にファイルに挟んで、その上にハンカチも巻いて厳重に鞄に入れているのを、じっと見ながら、うん、と頷いた。

(-_-)「……じゃあ今日が最後だ」

o川*゚ー゚)o「最後?」

(-_-)「友達最後」

そういう契約だから。
やっぱり、無くなるのは怖い。こんな友達きっともうできることは無い。
でもいいさ、大丈夫さ。 こんな素敵な友達がいたって、それが僕の自信になるから。

o川*゚ー゚)o「うん」

o川*゚ー゚)o「んじゃあさ、彫ったら日木の家行くから地図送ってね」

(-_-)

(;-_-)「え?」

o川*゚ー゚)o「えってなに」

(;-_-)「だって、書けたから友達期間終わりでしょ」

o川*゚ー゚)o「うん。だから、友達が終わったから、今から親友なんだよ」

ぽかんと口が開いたままになる。
顔が良い人は説得力が強いんだ。特に彼女が堂々と言うと僕は信じてしまいそうになるんだ。

(;-_-)「そうなの?」

o川*゚ー゚)o「そうだよ、だって私もう日木とプール入るつもりで新しい水着も買ったのに!バイバイする気なの?」

(;-_-)「で、でも彫ったらその、プール入れないんじゃないの?」

o川*゚ー゚)o「うん」

o川*゚ー゚)o「だから日木の家のビニールプール、膨らませておいてよ」

(-_-)

(-_-)「それ、最高だね」

o川*゚ー゚)o「でしょ」

親友が笑いながらピースサインを出して来たので、僕も釣られてピースをした。
夏が、好きになってきた。





ビニールプールで待ち合わせのようです

https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1714402428/-100

2024.4.29 ブーン系オレンジデー祭参加作品
余談ですが冒頭のラブレターを書いて欲しいという展開が、直近で公開された読切漫画と同じでドキッとしました。書き上げた時間的に全くの偶然なので、その漫画を読まれた方に誤解なきよう一応投下したスレも貼ります。

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