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ミス アメリカンパイ

先日(2022年2月)、ニューヨークのカナダ領事館前で行われた抗議活動のビデオをみていると、デモに参加している人たちが、『ミス アメリカンパイ』を歌っていた。たぶん、全曲を歌ったのだろうけれど、どういうわけか、私がみた部分は、編集で、"This is the day that I die (今日は、私が死ぬ日)”の繰り返し部分のみとなっていた。『ミス アメリカンパイ』は、1971年発売の有名な曲で、アメリカ人なら誰でも知ってる口ずさみやすいメロディー、確かに私も好きな歌ではある。それでも、カナダでの政府に対する抗議に連帯して行われた、自由を求める活動と、"今日は、私が死ぬ日”という歌詞の組み合わせに、かなりおどろいた。

『ミス アメリカンパイ』が発売された1971年。私は一歳で、家族とテキサスに住んでいた。そのころの記憶は、当然ないから、ラジオからこの曲を、聞いたりしたことがあったかどうか、覚えていない。それでも、『ミス アメリカンパイ』を聴くと、限りなく懐かしくなる。これは、私が、テキサスに、赤ちゃんのころ住んでいたせいなのか、この曲が、アメリカに住んだことない人にとっても、懐かしいという気持ちを起こすものなのか、わからない。それでも、『ミス アメリカンパイ』が、多数のアメリカ人に、なぜ愛されるのかは、容易に想像できる。

この曲が、誰にとっても、あった(あるいは、あったかもしれない)昔を思い起こさせるのだろう。それは、20世紀中盤のアメリカの記憶である。それは、ニューヨークやシカゴなどの都会ではなくて、車がないと暮らせないアメリカの郊外の生活、ミシガンとかカンザスとか、テキサスのだだっぴろい車道(歩行者などいない)の記憶。この歌は、そういう風景に繋がっていると思う。

『ミス アメリカンパイ』のメロディーは、とてもキャッチーで気分が盛り上がるアッパーだと思う。けれど、歌詞は、かなりくらい。先にも言った"This is the day that I die (今日は、私が死ぬ日)” の繰り返し。他には" I knew I was out of luck. The day the music died (幸運が尽きたと知ってた。その音楽が死んだ日その日)”など、死が何度も出てくる。私は、このアッパーで楽観的、覚えやすいメロディーと、ダウナー歌詞の組み合わせが、実はアメリカ的で、皆の心をつかむのだろうと思っている。さらに、歌詞が何のことを言っているのか、わかりにくいのも特徴である。疑問に思って、数年に一度、調べるのだけれど、一度も満足のいく説明を見つけたことがなかった。70年代といえばベトナム戦争なので、関連しているのかと思うのだけれど、そのような説明は、数年前調べた際には、出てこなかった。主な説明は、Buddy Hollyという50年代に飛行機事故で亡くなったミュージシャンの死についての曲であるという。けれど、それでは、"This is the day that I die (今日は、私が死ぬ日)”と部分の説明がつかない。

先日、抗議活動のビデオをみた際、再度、数年ぶりに歌詞の意味を調べてみた。すると、最近ドン・マクリーン自身が、インタビューで意味を説明しているビデオをいくつも発見した。彼のサイトにも、”About American Pie(アメリカンパイについて)"という記事が掲載されていた。簡単に、私にとって意味のある部分だけを要約すると、ドン・マクリーンは、15歳の時新聞配達のバイトをしており、配っている新聞で、Buddy Holly(彼の尊敬するミュージシャン)が事故死したことを知ってショックを受けたこと。さらに、彼のお父さんも亡くなり、加えてケネディー暗殺など、アメリカが60年代に、国としても、彼個人としても明るさを失って行ったことと。そこからベトナム戦争へと続く、アメリカでの楽観的な雰囲気の喪失がテーマになっているということ。特に印象に残ったのは、FOXのタッカー•カールソンのインタビューで、ドン・マクリーンが、この歌は「ローマ帝国が滅びるときに、バイオリンを弾くような」曲であると発言していることである。これは、タイタニックが沈みゆく時に、バイオリンなど管弦楽を弾いていた一団がいたことにちなんだ発言で、ローマ帝国は、もちろん、米国をさす。つまり、アメリカ(あるいは、その象徴するもの)の滅びについての歌なのだ。

冒頭で話した抗議活動で『ミス アメリカンパイ』を、歌っていた人たちは、この歌の深い意味については、知らなかった可能性が高い。私だって、今回調べるまで知らなかった。たぶん、その日、大した意味があって選ばれた曲でも、なかったのだろう。選曲を批判する気は、もうとうない。それでも、若者が、笑顔で、"This is the day that I die (今日は、私が死ぬ日)”と歌っているのをみて、とても不思議な気持ちになったことは間違いないし、控え目にいって、印象的な光景であったと思う。


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