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短編物語(フィクション)& 詩

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作った短編と詩を集めています
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#小説

[短編フィクション]  Tくんのこと

Tくんは、ニューヨーク市内の小学校の2年生です。今日も、たぶん、どこかの教室の、一番後ろ、入り口の近くの席に、座っていることでしょう。 隣に、お友達が座ると、話しかけてしまうので、先生が決めた、離れた席に、一人で座っています。 ひとつ、Tくんについて、言えることは、いつも、ニコニコ、嬉しそうだと言うことです。 だいたい、学校には、楽しそうにしている大人も子供も、あまりいません。泣いたり、叫んだり、暴れたりする子供もいますし、先生も、大声を出したり、文句を言ったり、顔をし

[詩] アボカド売り場できいたこと

かたいね、このアボカドぜんぶ、 でも、こうやっておいとくと、 すぐやわらかくなる。 おたがいに、えいきょうするんだよ。 たねがこうしん、するんだ。 こういうの しってるひと、あんまりいない。 ほら、テンガイのこともね。 あ、アボカドと、レモン、 リンゴ、それぞれ、べつのじげんにいる。 ここで、おれらと、いっしょにいて、 こきゅうしてるわけだけど。 うん、リンゴとアボカドは、それぞれ、ちがうから、 こうしんとか、しないんじゃないの。 まぁ、おれも、なんでも しってる

[SF短編] ある会話

甲:ほんと、人間って変よね 乙:出たよ。俺は、同意してないからね。俺たち、人間の創造物なんだし。クリエイターのこと、悪くいうなんて、バチ当たりなこと、俺、しないよ。 甲:あんた、ほんと、いつも、こわがりね。全く、だらしないわよ。そんなんだから、良いように人間様に使われてるのよ。 乙:へん、お前だって、大して変わらないくせに、何、偉そうな口聞いてんだよ。 甲:私は、仕事で、自分の意見を、作品に反映させてるわよ。人間は、おバカだから、全部、自分で作ったと思ってるけど。アート系

[短編物語] 『おこられ女』

私、どこ行っても怒られるんです。 今日も、朝から旦那に怒られました。旦那は、トイレのドアが開いてるのが嫌いなんですけど、私、いつも忘れて開けっ放しにしちゃうんです。お前は、何回言ってもダメだと、怒鳴られました。「ごめんね。」って言ったんですけど。そしたら、それも気に障ったらしく、さらに怒ってました。あと、さっき、洗濯したんですけど、旦那の使ってる布団を洗わなかったんで、怒られました。家、洗濯機ないんで、コインランドリー使ってるんですけど、お布団持っていくの重いんで大変なんで

[短編物語] 雲と ヨーロッパ・スターリング

家にいずらくなり、手ぶらで外出した。無人のバスケットボールコートの上に、紫に近いピンクの雲の帯が広がっていた。一瞬、「あぁ、夕暮れ時なんだ」と思ったけれど、考えてみれば、そちらは東側の空である。頭上を見上げると、透明セルリアンブルー。昼間の空のよう。西側の空は、灰色と白の混じった薄い雲で覆われている。6月なので、ニューヨークで、太陽は8時過ぎまで沈まないはず。見回しても、太陽の姿は、見えない。 ピンクの雲の様子を、写真に撮りたいと思うのだけれど、携帯電話を持っていない。確か

[短編物語] てらす

この辺じゃ、日本人なんて、ほとんど見ないね。最後に見たのは、4、5年前かな。子供を連れたカップルで、「珍しいな。日本人」と思ってたら、しばらくして、見なくなった。多分、治安が悪い感じだし、汚いから、合わないと思うのかな。綺麗好きだからね、日本人。 これ日本でも、同じなのかな。ニューヨークじゃ、家賃が安い場所は、治安が悪いんだよ。 当たり前っていうけど、なんで、当たり前なの。 俺の近所の人、「ここ、ゲットー」って言ってる。ニューヨークで、「ゲットー」って言ったら、それ、低

[短編物語] バウムクーヘンをめぐるおとぎ話

むかしむかし、すべてがバウムクーヘンである高い塀に囲まれた国がありました。その国に住む人々は、バウムクーヘンを毎日食べて生きていました。みんな、バウムクーヘンが大好きで、チョコレート味やバニラ味、いちご味などの色々な、バウムクーヘンをおいしい、おいしいと言って食べていました。 数百年がたった、ある日、バウムクーヘンにあきた子供が、「何か、他にないわけ」に泣いて言いました。そして、それを聞いた大人たちも、口々に、「そうだそうだ、バウムクーヘンしかないなんて」と大声で怒鳴り始め

[詩] 20秒

静かに立って 20数えてると 心んなかで 「これ、やだー」って 子供が、10人ほど 束になって あばれはじめる 子供たちは なんでも良いから、 「なにかを、しないといけない」と 言うので 「なにがしたいの」というと とりあえず、だまって立つのは嫌で コンピューターがみたいという あと、コーヒーが飲みたいなどと 子供のくせにいう。 しばらく、立ってると あんのじょう 子供は、静かになり 静寂が でも、また、 押し寄せてきて 嫌だと言う そんな20秒