【プリパラ】孤高の蝶はバーチャルで舞えるか?

ボーカルドールはプリパラとともにあった。
アイドル達の思念の集まりであるそれは、この仮想空間バーチャルのみで存在できる。
ステージ上で歌い踊るボーカルドールは、まさにプリパラを体現していた。

そのボーカルドールになろうとくわだてた人間がいる。
紫京院ひびきだ。
大富豪の娘であり、幼い頃から数々の才能にあふれていた。
絶えずたくさんの人々が彼女を取り囲んだ。

両親の乗っていた客船が難破し、二人とも行方知れずとなる。
紫京院家の没落を予感した使用人達は、退職金と称して断りなく調度品を持ち去る。
ひびきとアイドルの話をしていた友人達もぱったりと来なくなる。
『小公女』のような展開である。案外、これがモチーフなのかもれない。

のちに、客船が見つかり、両親の無事も確認された。
すると、使用人も友人も再び舞い戻ってくる。
ひびきに対しては以前のように笑顔で接する。
彼女は浅はかでみにくい人間の心に絶望した。

そして役者になった。
作り物しかないいつわりの世界で、ただ演じ続けてきた。
唯一、ひびきを魅了したアイドルのきらめきだけが、なおも本物であった。

ファルルの事件を知って、彼女は決意した。
肉体とともに、いむべき現実を捨てて、プリパラの中に永遠にとどまる。
しかし、そこには「みーんなトモダチ、みーんなアイドル」の合言葉の下で、彼女を見捨てた者が軽々しく口にした”友情”がはびこっていた。
ひびきのあるべき本当の居場所に、都合のよいごかましは必要ない。
そうして、セレパラが誕生した。

ひびきには、みれぃとシオンを出し抜けるほどの才覚がある。
プリパラのシステムを改変する技術もある。
紫京院家の財力もある。
なにより、ライブで観客の視線を釘づけにできるほど、アイドルとしての資質にも恵まれている。
まったく別の、完全な新天地を創造することもできるはずだ。
そこでならば、最初から思い通りに自身の力を振るうことができる。
セレパラという回り道も、ボーカルドールになるという未踏のはてしない行程もいらない。

たしかに、プリパラには数えきれない少女達が訪れていた。
ここでトップに立つことは、彼女達の憧れのすべてを代表するといっても過言ではない。
文字通りの頂点にこだわるとしたら、プリパラでなければならない。

けれども、そこにおいても、自分の力だけを行使すれば、他者に苦しめられることもなかった。
『アイドルタイム』のパックや『プリチャン』のルルナのように、誰も寄せつけないでいることもできる。
セレパラは、ひびきの意志そのものなのだ。

セインツに魅せられ、自身もアイドルとして活動していたひびきは、よく分かっていた。
一人ではアイドルでいられない。
共演者がいるからこそ、成長することできる。
観客がいてこそ、輝くことができる。
ひびきは友情に代わって実力を信じた。
能力の高いアイドルが優遇されるのであれば、彼女には、決して裏切られないという絶対の自信があった。

下準備としてパルプスからふわりを呼び寄せる。
続けて自分が認めたアイドル達とセレパラ歌劇団を結成する。
セレパラに変わってから、高級な炭酸水でもてなしたり、バレンタインデーのチョコまで配ろうとした。

突然のあじみからの電話が、ひびきを動揺させる。
セレパラに戒厳令を敷き、自室にこもるが、そのときでさえもファルルを招いて話をした。
安藤がひびきの身を案じて、らぁら達に真相を打ち明ける。
はじめはひびきの夢を喜んでいたファルルも、ふわりの説得で考えを改める。

相次ぐ離反の中で、スプドリが開催される。
ひびきはらぁらに敗北を喫する。
と同時に、システムが暴走してセレパラは崩壊する。
ボーカルドールになるという野望もここについえた。

ところで、今回この記事を書くにあたっては、視聴後に忘れていた箇所などを確実にするために、Pixiv大百科の該当キャラクターのページを参考にした。

そこには、次のように記されている。

だが、ひびきの願いが叶うこととは、これまでその肉体にあったひびきの意識が消失すること、つまり人間としてのひびきの死を意味する。

この解釈はまさにそのとおりだ。

それにしても、ひびきの夢を安藤から告げられた際、即座にらぁらはそれを否定した。
あのかしこま娘が、このことを一瞬で理解したのだろうか。
いや、その反応は直感だった。
家のピザ屋の配達の手伝いや、当初校則で隠れてプリパラをしていた彼女には、しっかりと現実を見据えることができていた。
そして、その直感は、ファルルをはじめとする他のアイドル達にも広がっていった。

つまるところ、アイドルとは、プリパラとは、人と人との結びつきにほかならないのだ。

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