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プレゼント #パルプアドベントカレンダー2020

「あのひとに『クリスマスプレゼント何がええ?』って聞いたら、『君のことを心配する権利がほしい』って。それがプロポーズの言葉やってん。」

「え、きもいわ。」

「え、なんでなん?『プレゼントはお前がいい』とかより全然粋やろ。」

「どっちもおんなじやわ。付き合うても結婚してもべつに人間は誰のもんでもないし。しかも権利って何やねん。心配なんか友達でもできるっちゅうねん。」

「ほんま?でも彼氏でも何でもない奴に『生理大丈夫?』って聞かれたらめっちゃきもない?」

「たしかに聞かれるのはきもいけど、心ん中で気遣うことはできるやん。その自分の所有物かどうかで優しさの線引きをしてるところがきもいねん。」

「めっちゃ言うやん。いちおうわたしのダーリンやで。」

「悪かったわ。思てへんけど。でもなんで付き合わずに結婚したん?」

「うーんまあ遠距離やしなあ。中途半端に付き合うより、もう嫁いでしまおと思って。」

「それで今年も例の仕事手伝ってんねや。」

「『プレゼント配り』な。べつに誰に聞かれても問題ないで。この時期フツーのことやし。」

「まあわたしも未だに信じてないしな。今年の担当はどこなん?」

「よくぞ聞いてくれた!今年はついにニューヨーク任されることになってん。野球で言ったら甲子園やで?ラグビーで言ったら花園やで?もう奥さん鼻が真っ赤やわあ。」

「そっち界隈の『鼻が高い』要らんねん。そういえば、はじめ聞いたときは地域分担式なんも驚きやったけどな。」

「さすがに一人じゃできひんよ。最近は社員数も減ってきてるけどねぇ…ブラックやし。」

「にしてもようそんな安定せん職の人と一緒になったなあ。飛行機も乗られへんあんたが国際結婚するとは思わんかったわ。」

「あのひとのソリだけは特別やったんよ。優しさがでてるっちゅうかなあ。」

「優しさってソリに出るもんなん?まあ確かにそんな仕事、よっぽど純粋な心持ってないとでけへんわなあ。」

「そう。せやからあの人が優しいんは、わたしにだけとちゃうねんなあ。」

「え?あんた世界中の子供たちに嫉妬してるん?」

「え?あんた知らんの?ええ子はハタチまでもらえるんやで。ピッチピチのハタチやで?」

「にしてもやわ。あんた束縛のしすぎでよく彼氏病ませてたもんなあ。」

「正しく人を愛されへんねんなあ…まあでも、わたしはあの人のおかげで愛がなにかわかった気がすんねん。」

「ほう。言うてみいや。」

女は水を一口含んでから、言い放った。

「愛ってな、血痕やねん。」

「え、寒!ダジャレ?ダジャレなん?水飲んだわりにしょーもな!」

「ええから聞きいや。つまりな、エゴと祈りがぶつかってぶつかって、ぐちゃぐちゃになって出たものこそが、愛やねん。」

「何のこっちゃ」

「わたしにもな、ダーリンには絶対幸せになってほしいって気持ちがあんねん。」

「そりゃそうやろな。」

「ほんでな、それは私が死んでもそうやねん。もし新しく大事な人ができたら、ちゃんと結ばれてほしいねん。」

「ほう?あんたの口からそんな言葉を聞く日が来るとは」

「でもな?わたしってご存知の通りメンがヘラやん?せやからめちゃめちゃ独占欲強いねん。絶対他の女なんかとイチャイチャしてほしない。ほら、想像だけで蕁麻疹や。だけど、それでも幸せになってほしい。この繁殖期のトナカイみたいなエゴは絶対消えへんけど、そんなものにあの人のことを思う気持ちが飲まれてたまるか、負けてたまるか、って戦ってんねん。そのエゴとの殴り合いこそが、その喧嘩の先にある血飛沫こそが、愛やねん。」

「…あんたにしてはええこと言うやん。」

「ほれみい!よし、わたし決めたわ。ダーリンへのプレゼント。」

「何にするん?」

「血のりやな」

「やっぱしょーもな」

(完)


飛び入り参加可能な小説アドカレ #パルプアドベントカレンダー2020 参加作品です。

明日は銀星石さんの『全ては安らかな夜のため』です!お楽しみに!

あとがき

こんにちは、祝日です。このパルプアドカレで初めて小説を書いたので、右も左もわからず…。当初予定していたストーリーがこれ以上進まないことを公開前日に気づき、別の話を書き始める始末。色々自信はありませんが、これが今の自分にできる精一杯です!




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