見出し画像

「おひとり2,500円固定」のカフェが約束すること

店を開業して、そろそろ1年になろうとしている。

開業から今まで、かなり試行錯誤をしてきた中で、最も変化してきたのが「料金設定」だ。2020年7月末に開業して以来、計3回変更した。

そして、今ではタイトルにもある通り、"おひとり2500円"の固定で自分たちとしては落ち着いている。

「え?カフェなのに固定なの?しかも高くない?」と思われる人もいるだろう。なぜ3回も料金設定を見直したのか、そして、なぜ"おひとり2500円"に今は落ち着いているのか、そのことを書いてみる。

結論から先に言うと、「"出会いたいお客さん"と"自分たちが提供する価値"」を考えた結果だ。

アラカルトでは駄目だった

開業した月に、こんなnoteを書いた通り、自分たちはアポイント制という営業形態をとっている。

「ひとりひとりのお客さんが、うちで過ごす時間を大切にしたい」という想いが一番であり、それは開業から時間が経っても変わらない。

ただ、いざやってみると、入り口だけそうした想いを反映しただけでは理想の半分にも満たなかった。メニューはアラカルト、「珈琲と季節菓子のお店ですよ」と伝えてあっても、お菓子目当てで「珈琲はいらないです」という方もいれば、お菓子のラインナップを全て注文し、一つずつ出しても全て揃うまでは手を付けず、揃ってから写真におさめて(それも10分以上も)、サクッと食べて帰られる方…

売上は十分とは言えないし、自分たち自身も想いを持って営業している中で、気持ちが落ちるシーンがある。


「あぁ、このやり方ではだめだな」

そう思った。
来てくれたお客さんがどう過ごそうが、それはお客さんの自由だ。でも、自分たちにも「こう過ごしてもらいたい」という想いがある。ただ入り口だけアポイント制にしてメニューはアラカルト、ではその想いの実現にも自分たちの提供価値にも限界がある、と早々に見切りをつけた。

料金固定をはじめる

10月から、料金設定とメニューを変更。季節菓子はアラカルトをやめ、「季節菓子3品のセット(1,800円)+珈琲」にした。

3品はワンプレートで提供するのではなく、1品ずつコースのような仕立てに。こうすることで、さすがに3品揃うまで手を付けない、という方はゼロになったし、3品となると必然的にそれなりに時間を要するので2時間制のアポイントを楽しんでもらえているようだった。アポイント時点で、「ただお菓子の写真を撮りたいだけ」というようなお客さんも来なくなった。料金固定が一定のフィルター効果をもたらした。

ただ、中には「3品もお菓子はいいかな」と思われる方もいるだろうし、2時間のうちの大半をその提供に時間を割かれ、3品目は終了近くになってしまうこともあり、お互いにあまり余裕がなく、どこか忙しない設計だった。常連さんの中には「もっとお話したいけど忙しそうだから」、と自分たちに話しかけるのを遠慮していた方もいたそうで、大きな反省点が残った。

"時間"のバランスが整ってきた

そんな営業をふた月ほど行い、その次の営業で見直しを行い、「季節菓子2品セット(1,600円)+珈琲」に変更。パッと見は、季節菓子が3品から2品に減ったのに料金は大きな変更がないので値上げになるのだが、3品のときよりも1品目はより手を凝らし、2品目もしっかりめに仕上げ、常連のお客さんにも満足していただけたように思う。

2品にしたことで、食べ終えるのは早くて1時間15分ほど、遅くても1時間30分ほどで、残りの時間はゆっくり過ごしてもらえるようになった。自分たちもお客さんと会話できるくらいの余裕は持つことができ、常連さんとのコミュニケーションを楽しめるようになった。

想いと体験がつながる

季節菓子は2品でちょうどいいな、という掴みはあったが、珈琲は個別の料金設定という分かりづらさと、自分たちのチャレンジ、そしてより「"時間"という価値提供」を考えて、「珈琲と季節菓子2品セット2,500円」で直近の営業にのぞんだ。これまでは珈琲代(650円〜750円)は別だったが、合計するとこれもパッと見は値上げである。

これが自分たちには最もフィットした。メニューとしてはとてもシンプルになるし、料金が上がって経営的にもありがたいのでより"質"にフォーカスできる。結果として、お客さんの満足度も開業以来一番高かったように思う。これまでの常連さんも変わらず来てくれたし、新規のお客さんも「また来たい」と言ってくれた方が一定数いた。

そして何よりも「nagiさんで過ごす時間がとても幸せ」と後日の投稿で語ってくれるお客さんがいて、自分たちの想いとお客さんの体験が繋がったことを知り嬉しかった。

自分たちの価値提供、お客さんへの約束

些細なことではあるけれど、このnote内でぼくは値段でも価格でもなく"料金"と言っている。以前ツイートもしたが、"何に対しての値付けか""自分たちが提供している(したい)価値は何か"を考えた結果だ。

値付け、というのはある種「店からお客さんへの約束」が反映されたものだと思っている。「売上=席数×回転数×単価」で考えれば、毎月満席の現状なのだから、もっと席数を増やせば売上は上がるかもしれないし(今は7席)、2時間制も見直せば回転数も上がるかもしれない。

でも、自分たちはそれはしない。

他のお客さんと空間を分け、2時間ゆっくりと過ごしてもらう。そこに添える季節を楽しめるお菓子と珈琲。「2時間という、時を忘れるような穏やかな時間」を提供することが自分たちからお客さんへの"約束"であり、その対価として2,500円をいただいているつもりだ。

2,500円という料金が高いのか安いのかは、自分たちにもわからない。ただ、nagiは"ハレの店"ではなく"ケの店"でありたいし、あまり料金を上げて自分たちの重荷になるようなことも望んでいない。自分たちも自然体である中で、「また1ヶ月頑張れる」「毎月の楽しみ」とお客さんから言っていただけている今の状態が、とてもしっくりきている。

とはいえ自分たちが食っていけなければ元も子もないわけだが、売上的な話で言えば、徐々にテイクアウトも充実させている。季節菓子2品と珈琲にフォーカスして質を高めることで満足してもらえて、テイクアウトの品々も買ってもらえている。上記の"約束"を守りながら、売上を上げていくことはまだまだ可能だと思う。


守る"約束"があれば、それを守るためにできることを愚直に。

価値提供の対価としての売上の一部は、その"約束"を守るための投資に。

この"約束"でつながったお客さんと、nagiをより良い店にしていきたい。




10年先、20年先、未来の住民のために木を植えます。