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【漫画原作】『ミステリーおたくの意表をついた謎解きシリーズ⑥ 消えた姉』【シュールコメディ】

読切用の漫画原作です。
「シリーズ⑥」と書いてありますがこれ一本しかありません。
複製、自作発言、無断転載、許可なき作画はNGです。


ジャンル

謎解きコメディ。ひたすらシュール。

あらすじ

大学生の青年・真司は大のミステリー好き。ある日、バイト中に迷子の知らせを耳にする。何の変哲もない迷子探しと思いきや、現場の状況や捜索人の証言など、不可解な謎が判明する。ミステリーおたくの名にかけて、真司の意表をつく謎解きが、今始まる。

登場人物

・真司(しんじ)
 主人公。大学生の青年で、ショッピングモールの本屋でバイトをしている。真面目そうな外見、おっちょこちょいな性格。ミステリー(謎解き)が大好き。
・神崎(かんざき)
 社員の女性。真司より年上で、おっとりした性格。
・手塚(てづか)
 真司の親友。ぽっちゃり体型でマイペースな性格。ショッピングモールのゲームコーナーでバイトをしている。
・秋山(あきやま)
 30代の男性。長身で痩せ身、ボサボサの髪とヒゲ、方言ばりばりの言葉遣いが特徴。左手薬指に指輪らしきものをしており、「エリ」という女性を探している。
・エリ
 秋山が探している正体不明の女性。

本編

○ショッピングモール(祝日・十三時ぐらい)
 本屋。カウンター裏。電話(内線)で連絡を取り合う真司と神崎。
真司「アキヤマエリちゃん。十八歳。155センチ、髪はツインテール。白いブラウス、黄色のカーディガン、紺のスカートにピンクのスニーカー。それと〈魔法少女みらくるまじかる〉のキーホルダーがたくさん付いたリュック。本屋のみんなに伝えときます、見かけたら声掛けるようにって」
 メモを取りながら応対する真司。
神崎『そう言えば、真司君ってミステリー好きだよね』
真司「はい! 小説に映画、何でも大好物のミステリーおたくっす! それが何か?」
神崎『実は、解いて欲しい謎があって』
真司「謎って…、もしかして迷子の? 何かあったンすか?」

 総合案内所。
 書類を手に、電話を掛ける神崎。
神崎「案内所に来てから、ずっと言ってるの。姉さんが消えた・・・・・・・って」
 書類に個人情報。〈探す方〉〈秋山連〉〈三十二歳〉、〈迷子の方〉〈秋山恵里〉〈十八歳〉の文字。

+++++ 
 総合案内所。
 入口に掲示板、〈今日のイベント〉〈お楽しみ抽選会〉〈春の試食祭り〉〈魔法少女みらくるまじかるショー 午前十時 午後十三時 三階小ホール〉の文字。
 パーテーションで囲われた一角。
 席に着く秋山。頭を抱え、ぼそぼそと呟く。(秋山はどことなく不審者っぽい恰好)
秋山「あねさ…、消えちまった…、何処行ったでぇ…」
 少し離れた場所、様子を伺う真司と神崎。(真司はバイト終わりで私服姿、神崎はインカムを着用)。
真司「スマホ持ってるンすよね。連絡取れないンすか?」
神崎「何度か掛けたけど、全然出なくて。だから、本人の言う事だけが頼りなの」
 資料に目を通す真司。左の人差し指を伸ばし、こめかみを叩く。(推理中のポーズ。顔と手を使う仕草なら描写は自由)
真司「年下の姉、か。マジで謎っすね」
神崎「言い間違いかな。動揺してると上手く話せないから」
真司「渾名あだなじゃないっすか。姉の子供だったり、姉っぽい雰囲気だから、そう呼んで…」
 秋山を見る真司、ふと何かに気付く。
 落ち着かない秋山。額に脂汗。きょろきょろ動く視線。顔を撫でたり、膝を擦る。
 何かを閃く真司、こめかみを叩く指が止まる。

案内所裏のスタッフルーム。
 段ボール箱に〈探偵なりきりセット〉〈暗号を作ろう〉などと書かれた子供向けの学習玩具が数個。
 その中に〈警視庁監修〉〈薬物検査キット〉〈これで君も麻薬取締官!〉と書かれた箱。それを開ける真司。
 驚く神崎。
神崎「えっ? 薬物!?」
真司「だったら、ちぐはぐな話も説明出来るっしょ。迷子ってのも妄想で、本人は現実の出来事だと思い込んでる」
神崎「確かに、有り得る。でも、どうやって検査するの? 私達、警察じゃないし、素直に受けてくれるとは…」

 秋山の傍に立つ真司、手には検査キット。
真司「秋山さん。検査、イイっすか?」
秋山「えっ…、何でぇ?」
真司「例のウィルスっす。今はマスク無しでもOKっすけど、人の出入りが多い場所じゃチェックが必要で。すぐ終わりますから」
秋山「はぁ…」
 少し開いたスタッフルームの扉。感心した様子で、隙間から伺う神崎。
神崎「真司君、頭イイ」

 暫くして。
 向かい合って座る神崎と秋山。
 スタッフルームからやって来る真司、神崎の隣に座る。
 小声で会話する二人。
神崎(どうだった?)
真司(シロ、幻覚じゃないっすね)
神崎(じゃあ、一体…)
真司(こりゃ、調査っすね)
神崎(調査って?)
真司(覆面調査員。わざとトラブル起こして、社員の対応チェックしてる。秋山さんは本社に雇われた役者、カツラやヒゲ付けて変装してるのが証拠っすね)
神崎(確かに。スーツ姿で視察するより、お客様に成り済ました方が怪しまれないものね。…それなら)
 コホン、と咳払いする神崎。優しい口調で尋ねる。
神崎「秋山さん。改めて質問宜しいですか?」
秋山「ええ」
神崎「秋山さんにとって、恵里ちゃんってどんな人ですか?」
秋山「神様だなぁ」
神崎「神様? と言いますと…」
秋山「おらぁ、子供ん時からドジでアホでマヌケで、一人じゃなぁんも出来無ぇで。けぇど、姉さに会って変わっただ。前は生きるのイヤやったけぇど、今は楽しくてしょうがねぇ。みぃんな、姉さのお陰だわ。だで…、姉さに何かありゃ…、おらは…」
 子供のように、ボロボロと涙を零す秋山。
神崎「そうですか。とても大切な人なんですね…」
 同情的な神崎、ハンカチで涙を拭うフリをする。ちらり、と真司に視線を送る。
 ウィンクし、サムズアップする真司。
真司(その調子! オレは現場見て来ます)

+++++
 インカムを着用し、モール内を歩いて回る真司。
 真司が探すシーン(絵)と、神崎とのセリフが重なる。
神崎『秋山さんの話をまとめると、十時頃に来店。一通り見て回って、十二時頃にフードコートで食事。その後立ち寄ったゲームコーナーではぐれたそうよ』
真司『あざっす! 神崎さん!』

+++++
 ゲームコーナー。
 クレーンゲームに景品を補填する手塚。傍に立つ真司。
手塚「あの子、未だ見つからないんだぁ。やけに広いからねぇ、このモール。でも、ダイエットには丁度イイよねぇ。歩いてるだけでカロリー消費出来ちゃうんだからぁ。もうじきバイト終わるからさぁ、何か食べよぉ。考え事には甘いモノ必要だもんね」
 ふと、景品を見る真司。女の子数人のぬいぐるみで、その土地にちなんだ食べ物や動物を抱いている。
真司「このキャラ。最近見掛けるな、ネットの広告で」
手塚「〈キラメキが~るず〉。アプリゲームのキャラでねぇ、これはご当地バージョン。県内じゃウチしか取り扱ってなくてさぁ。スゴイよぉ、平日でもお客さんいっぱい。他県よそから夜行バスでって人も居てさぁ。〈推し〉の為なら頑張っちゃうのが〈オタク〉だよねぇ」
 カウンター付近を指さす手塚。〈が~るず〉の専用コーナー。キャラのパネルやグッズが置かれている。撮影スペースで写真を撮るファン。
 遠目に見る真司、こめかみを叩いている。
真司「オタク…、推し…」
 二人に近付く店長。
店長「手塚君、ちょっと」

 〈が~るず〉のアーケードゲーム。
 調子が悪いディスプレイ。ボタンを弄り、様子を見る手塚。
 筐体の周囲に数名のファンと店長。
店長「朝から調子悪いよね、点いたり消えたり」
手塚「これ配線ダメかもです。メーカーさん呼ばないと」
店長「そっか。じゃあ、後でメールしとくか。…この度は申し訳ございません。特典に付きましては、別途用意してありますので、そちらをご利用ください」
 ファンに謝罪する店長。
 〈故障中〉と書かれた札を貼る等、対応する手塚。
 少し離れた場所、一部始終を見ていた真司。こめかみを叩く手が止まる。謎が解け、真剣な顔に安堵の笑みが浮かぶ。

+++++ 
 総合案内所。
 席に着く秋山。向かい合って立つ真司、神崎、手塚。(手塚もバイト終わりのため私服)。
 机にぬいぐるみを置く真司。恵里と似た格好をした〈が~るず〉。
真司「この娘っすね、秋山さんが探してるの」
秋山「!」
神崎「ぬいぐるみ? どう言う事!?」
 驚く秋山と神崎。
真司「推し活っす。この作品、ウチのゲーセンとタイアップしたイベントやってるんす。で、秋山さんはそれに参加する為、ここに来た」
手塚「〈キラメキが~るず〉は九十年代の恋愛シュミレーションゲームでねぇ。二十五周年を記念したリメイク作品が丁度出たんですぅ。このは初期メンバー、名前は〈えり〉ちゃん」
秋山「…!」
 秋山の顔色が変わる。
真司「発売当時の秋山さんは七歳。<が~るず>は全員、中学生以上って設定。すなわち、秋山さんにとっては、全員が<お姉さん>。大人になってキャラの年齢を越えても、秋山さんの中では、お姉さんのままなんす」
神崎「だから、年下のお姉さんね!」
 ポン、と手を叩き、納得する神崎。
真司「〈消えた〉ってのは、ゲーム画面の事っすよね。ゲームをクリアすると、特典のムービーが見られるんす。でも、筐体の調子が悪くて、途中までしか見られなかった。人って何かに熱中しすぎると周りが見えなくなるっしょ。秋山さんはゲームにハマりすぎて、現実と空想の区別が付かなくなった。だから、ゲームキャラとの会話を、生身の人間のものと思い込んでる。恵里ちゃん失踪の謎は、画面越しのやり取りを現実の会話と勘違いした結果。そうっすね?」
秋山「……」
 無言の秋山、見るからに図星っぽい。
 机に用紙を置く手塚。キャラのイラストと手紙風のメッセージで、シリアルナンバーとQRコードが書かれている。
手塚「プレイしてくれた人にはプレゼントがあってねぇ。スマホやパソコンから、いつでも特典ムービー見られるんだぁ」
真司「これでもう、逸れずに済むっすね」
秋山「……」
 用紙を手に取る秋山、見るからに感極まっている。
 解決して嬉しそうな真司達。
神崎「スゴイわ、真司君! こんな複雑怪奇なミステリー、簡単に解いちゃうなんて!」
真司「推理オタクにしちゃ、初級編ってトコっすね!」
手塚「解決のお祝いにケーキ食べようかぁ」
神崎「なら私に奢らせて」
真司「あざーっす!」
 和気あいあいのムードの中、怒りを爆発させる秋山。用紙を破り、ぬいぐるみを床に叩きつける。机を叩き、立ち上がる。三人を睨む。
秋山「話聞いてりゃ、ちぐはぐな事うて! おらの姉さはなぁ! ゲーム機の中にゃ居ねぇ! 綿しか詰まっとらん人形でもねぇ! 人間だ! 手ぇ握ってくれる! くすぐりゃ笑う! 抱いたらぬくてぇ! この地球に生きとる人間だわ!!!」
 バッグからデジカメを取り出す秋山、真司に突きつける。
秋山「ここん中、姉さの写真たんとあるで! これ見りゃ、おめぇたが下らん事うとるの分かるわ!」
 デジカメを受け取り、確認する真司。背後から覗く神崎と手塚。
 モール内で撮られた恵里の写真。服や雑貨を見る、フードコートの行列に並ぶ等。
神崎「この娘が恵里ちゃん」
手塚「人間だねぇ、誰がどこからどう見ても」
真司「…!」
 写真を見ていく真司、何かに気付く。制服姿の恵里、電柱や物陰から隠し撮りしたような構図。家で下着姿(着替え中)の恵里、襖や扉の隙間から撮影。
真司「登校中の写真、でも何で物陰に隠れて…。明らかに、室内で撮ったのも…。まさか! ストーカー!」
手塚「えぇっ!?」
神崎「そんな…。でも、どうして捜してくれって…」
真司「誘拐っす。親族と偽って連れ去る気だ!」
 神崎のインカムに通信。相手は警備員。
神崎「…はい、神崎です。…恵里ちゃんが見つかった!?」
真司「!」
手塚「えぇ!?」
秋山「姉さ…」
 驚く真司達。
神崎「場所は…、三階の小ホール…。分かりました、すぐに…」
秋山「姉さぁ!」
 案内所を飛び出す秋山。
真司「待てっ!」
 後を追う真司。

+++++
 モール内。
 人混みを避け、走る秋山と真司。(真司は秋山を追わず、別ルートを走る)。
 興奮気味に、エスカレーターを駆け上がる秋山。
秋山「姉さ…、姉さぁ…!」
 真剣な様子で、階段を駆け上がる真司。
真司「ダメだ! 二人を会わせちゃ!」

 三階。小ホール。
 出入り口に恵里と警備員の姿。インカムで神崎と連絡を取る警備員。
警備「恵里さんを連れて逃げろって、どう言う意味ですか? もしもし、神崎さん?」
秋山「姉さぁ!!!」
 離れた場所。息を切らして立つ秋山、不気味な笑みを浮かべている。
秋山「姉さぁ…、やっと見つけたでぇ…」
 恵里の元へと走る秋山。
 怪訝そうな顔の恵里。
秋山「姉さぁ…、姉さぁ…、姉さぁぁぁっ!!」
真司「恵里ちゃんは渡さねぇぇぇぇっ!!!」
 スケボーのように台車に乗る真司、横から飛び出す。台車から飛び降り、秋山にタックル。店先のディスプレイに突っ込む二人。
警備「なっ…、何だ、一体…」
 騒然とする周囲。
 倒れた商品の山、立ち上がる真司と秋山。
秋山「姉さぁ! 姉さぁあぁ!」
真司「大人しくしろぉっ!」
 もがく秋山。必死に押さえつける真司。心配そうに見つめる恵里。
恵里「あの、もしかして、何かやらかしました? 私の旦那が」
真司「はいっ! 恵里ちゃんの事、ストーキングしてて…、って…、今、何て?」
恵里「旦那です。夫婦なんです、私達」
 左手薬指の指輪を見せる恵里。
 呆然とする真司。
真司「まっ…、マジ…で…?」
 秋山を見る恵里。眉間に皺をよせ、唇を尖らせる。さながら子供を叱る母親。
恵里「で、おじじ。何したの?」
秋山「姉さ、捜してただけでぇ…。一緒に歩いてたんに、急に、居なくなるもんで…。へぇ、何処さ、行ってただ…」
 ホール入口の立て看板を指さす恵里。〈魔法少女みらくるまじかるショー〉〈撮影可〉〈通話はお控え下さい〉の文字。
恵里「ショー見るって言ったじゃん。もう全然話聞いて無いんだから。カメラもそう。一日一枚って約束したのにコソコソ撮って。いつかストーカーに間違われるよって注意してたのに」
秋山「……」
 しゅん、とする秋山。叱られて言葉が出ない。
 イマイチ状況が呑み込めない真司。
真司「えっと、ゴメン、ちょっとイイ? 恵里ちゃんの事、〈お姉さん〉って呼んでたけど…」
恵里「クセです。おじじ古い人だから、名前よりもそっちのが呼びやすいって。〈姉さ〉は私達の村で使う方言、意味は〈お嫁さん〉。知らないと勘違いしちゃいますよね」
真司「ほっ…、方言…」
 開いた口が塞がらない真司。
 エレベーター。開くドア。勢いよく出て来る神崎と手塚。モップや消火器等、武器になりそうな物を所持している。
神崎「覚悟しなさい、ストーカー!」
手塚「成敗ぃぃっ!」
 秋山に襲い掛かる二人。恵里の背後に隠れる秋山。わちゃわちゃする現場。

「ミステリーおたくの意表をついた謎解きシリーズ⑥ 消えた姉」  終

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