見出し画像

「IRON×MAIDEN-アイアン×メイデン」第一話

※舞台は架空の日本及び諸外国。現代よりも科学技術が発達した時代。
然しながら、車は空を飛ばなかったり、食事はSFチックな錠剤ではなくきちんとした食べ物等、現実世界でも見られるものは数多く残る。

+++++
◎プロローグ〈少女とロボの紹介〉
※少女は全員、専用のボディースーツを着用。
マミエは作業着、サアヤは厚着のコートをスーツの上に着ている。
※ロボットの顔は、フルフェイスのヘルメットのようなイメージで、目や鼻などの凹凸は無い。腕や胴体等、機体のどこかにナンバーが付いている。

 外国の都市部。
灰色で曇りがちな空。高層ビルの屋上に立つ二つの人影。お姉さんタイプの少女【マミエ】と、高身長でスラリとした体形の男性型ロボット(05)。二人で上空を見つめる。
マミエ「いよいよ、ね」

 南極。
一隻の軍艦(04)。甲板に立つ一人の少女、クールな印象の【サアヤ】。一人、上空を見つめる。
サアヤ「シミュレーション、全然ダメだった。でも、負ける気、全然しないんだよな」

 サバンナ。
巨大なライオン型のロボット。その足元に一人の少女、やんちゃな感じの【キヨコ】。ライオンロボの上空には、イーグルとサメのロボットが飛んでいる(三体合わせて03)。スナック菓子を食べながら上空を見るキヨコ。
キヨコ「オラオラァ! 早く来いよ! 一匹残らずブッ潰してやっからさぁ!」

三人の元に無線が入る。
無線 『―――IRON:01、これより出撃する。02、03、04、05、全員戦闘体勢』

 日本。基地(外観の詳細は後述)。
地面に付いた扉が開き、上空に伸びる発射台。ミサイルサイロに似た空間内、発射準備が整い、次々と赤から青に切り替わる信号。
 指令室。モニターを見ながら作業する職員達。後方に立ち、様子を見守る男性職員【九重ここのえ】(重要キャラ。外見は後述)。

 基地上空。宇宙から飛来する隕石のような物体が数十体。岩石の表面が割れ、胎児に似た生命体が生まれ出る。粘液状の皮膚で半透明、大きめの頭部に核らしき球体が埋め込まれている。核の部分に照準器のマーク(〇に十字)が浮かび上る。その瞬間、次々と爆発する生命体。発射台を守るように立つ一体のロボット(02)。重装備で、特殊な銃器を持ち、地上から生命体を撃ち落している。02に乗る少女【マユカ】、はきはきとした明るい性格。マユカ「今だよ!」
 発射台から勢いよく飛び出す一体のロボット(01)。02とは異なり軽量型、肩や腰に特殊な装具、背中に飛行ユニットを付けている(装具は武器のパーツで、組み立てると剣になる)。上空に広がる煙や残骸を突き抜け、宇宙へと一直線に向かう。01に乗る少女【アイミ】(主人公、外見は後述)。真剣な眼差しで、宇宙を見つめる。メタっぽく読者に向けて語る。
アイミ「きっと、みんなが思うようには、いかないかもしれません。でも、見ていて下さい。私達の戦いを―――」

*****
〇日本・東京に似た都市(春頃)
 海沿いの街。海上を走るモノレール。閑静な住宅街。

〇高校(下校時間)
 一人、下校するアイミ。
【アイミ】高校二年生。黒髪、色白、黒縁メガネ。地味な外見で内気な性格。異性との付き合いは一切無く、恋愛に関しては初心。
 路駐する車。傍に立つスーツ姿の九重、アイミに声を掛ける。
【九重】四十代。長身、痩せ身。真面目そうな外見。融通が利かなさそうな堅物系な印象。既婚者で左手薬指に指輪をはめている。
九重 「才藤さいとう愛実あいみさん、だね?」
アイミ「…はい。えっと…」
 職員証を見せる九重。
九重 「防衛局災害対策課、IMチーム及び外来災害担当長、九重 ここのえ英聡ひでさと。早速だが、会わせたい人が居る」

  防衛局のマークが付いたヘリコプター。操縦士、アケミ、九重が乗り、空を飛んでいる。窓から外を見下ろすアイミ、基地が目に入る。

〇基地(三笠ヶ原みかさがはら研究センター)
 山に囲まれた某県。標高2000メートルを超える山の頂上、その一帯が基地。パラボラアンテナ、管制塔、ヘリポート等、主に宇宙や航空関係の設備がある。施設内には宿泊施設や食堂がある。(山頂と麓の街までは道路が通っており、食糧や部品の運搬、街から車で通う職員も居る)。施設入口に、日本国旗、防衛局のマーク、IMをイメージしたロゴの三つの旗が立っている。

 〇基地内
 廊下を歩く九重とアイミ。(九重はスーツの上に白衣を着ており、タブレットを手にしている)。九重の話を聞きながら、興味深げに施設内を見るアイミ。
九重 「我々、災害対策課の仕事は、あらゆる災害から人々を守る事。地震、津波、噴火等の自然災害。モノレール、通信衛星、原発等のシステム事故、要は〈人の手で作られたもの〉による人工災害。これらを予見し、未然に防ぐ。起きてしまった場合は、速やかに対処する。〈D警報〉はその一例だ。地震が来る前、震度と被害の予測、避難所までのルートをスマホで通知したり、建物の倒壊に巻き込まれた際、スマホに話しかける事で、声のみで現場を特定出来る。便利だと言う意見がある一方、警告音が不気味で喧しいと不評ではあるが」

〇地下格納庫
 ゆっくりと降りるエレベーター。ヘルメットを被る二人。ガラス窓の向こう側、暗い格納庫をぼんやりと見つめるアイミ。
九重 「ここ、三笠ヶ原研究センターでは、自然、人工に次ぐ第三の災害に対抗するシステムの開発を行っている。地震通知のような煩わしさは無い、寧ろ、誰もが快く歓迎する」
 止まるエレベーター。アイミと向かい合う九重。
九重 「一つ訂正させて欲しい。会わせたい〈人〉と言ったが、これから会うのは、人では無い」
アイミ「えっ…?」
 扉が開く。真っ暗な格納庫。先に降りる九重。恐る恐る降りるアイミ。
九重 「紹介しよう。IMプロジェクトの設立者にして我が親友、そして、〈空想と科学を結集させた新時代の英雄〉」
アイミ「!」
 幻想的な演出で、ロボット(01)が起動する。胸元が光る(ドクン、と心臓が鼓動するイメージ)。胸元から幾筋もの光線が全身に広がる(心臓から血管を伝い、血が流れるイメージ)。目が光る。同時に格納庫の照明が付く。01の周囲をスモーク(冷気)が漂う。
【01】人型の巨大ロボ。胸元がハート型のデザインで操縦席になっている。奇抜なデザインや重装備は無く、シンプルで必要最低限な装備のみ。機体にナンバーは付いていない。優しそうな性格で、九重とは真逆な印象。(作中では【IRON】と呼ばれているが、文中では便宜上【01】と表記する)。
アイミ「……」
 目を丸くし、見惚れるアイミ。
九重 「〈IDEALIZED ROBOT OF NEWMAN〉、通称IRON、見ての通り、人型ロボットだ」
01の身体がゆっくりと動く。その場で片膝をつき、アイミに視線を合わせる。
01  『―――初めまして、愛実ちゃん』
アイミ「しゃっ…、喋った…」
 更に目を丸めるアイミ。
九重 「私が開発した独自のAIを搭載している。人間と同じように、喋り、考え、行動する。顔合わせはこれぐらいで。これからIMプロジェクトの話をさせてもらう。食堂でコーヒーでも飲みながら」

〇都内・アイミの家(十九時頃)
 帰宅するアイミ。リビングで夕飯を食べる両親。
アイミ「ただいま」
母親 「お帰り。夕飯、先食べてるけど」
アイミ「いいよ。私、食べて来たから…」
 階段を上るアイミ。
父親 「珍しいな。外食なんて」
母親 「打ち合わせでしょ、文化祭の」

〇アイミの部屋
 一般的な高校生女子の部屋。派手な色や装飾品は無く、全体的に地味な印象。本棚に恋愛系のマンガ本。美術部員で、デッサン集や絵の具等の画材がある。ベッドに仰向けになるアイミ、紙の資料(IMプロジェクト報告書)を読む。
 〈IRON〉に関する資料。01の設計図とMAIDENのボディースーツのイラスト。
アイミ「―――〈IRON、宇宙探査及び対災害人型機械〉〈災害時、救助活動、物資運搬、及び二次被害防止を行う〉〈AIの自己形成プログラム、人間で言う感情の一部に欠落が見られる。補完の為、操縦者が必須〉。―――〈MAIDEN、IRONの操縦者〉〈性格、能力、第一印象、その他を元に、IRON自らが選ぶ〉〈自己形成プログラムの一部を補う為、IRONに搭乗し、解放と抑制を図る〉〈戦闘は全てIRONが行う。専門知識や国家資格等、MAIDENには必要無い〉」
 ページを捲る。〈外来災害〉に関する資料。岩石の写真と解析図(岩石内部に謎の球体がある)。
アイミ「―――〈外来災害〉〈宇宙観測時に発見された未確認生命体。通称、外来種。日本国及び国民の平和や安全を脅かす可能性あり〉〈故・穂村ほむら研究員によると、発見時(20**年)の様子は、生物学で言うところの胚状態との事〉〈地上と衛星から二十四時間監視。危険度をレベル0から5で分類し、レベル3以上と判断した場合、防衛局並びに各局へ報告〉」
 ごろりと身体を横にするアイミ。一休憩。目を閉じ、考えを整理する。
アイミ「私がMAIDENに選ばれて、ロボットに乗って、宇宙からやって来る敵と戦って、みんなを守る。…なんか、アニメの主人公みたい…」
 目を開ける。資料を見る。IRONに搭乗するMAIDENのイメージ絵。嬉しさ半分、不安半分なアイミ。
アイミ「子供の頃から夢見てた、悪者をやっつける正義の味方になれたらって。…でも、私に、出来るのかな…」

*****
〇学校(後日)
 昼の時間。教室や中庭で、グループになって楽しく食べる生徒達。

  美術室。タブレットで絵を描きながら、弁当を食べるアイミ。小さめの三脚スタンドに取り付けたスマホを時折操作する。突然スマホから聞こえる01の声。
01  『上手だね。いつか僕の絵も描いて欲しいな』
アイミ「! アッ…、IRON、さん!? どっ、どこ、ですか!?」
 キョロキョロと周囲を見渡すアイミ。室内にはアイミ一人だけ。
01  『ここだよ。〈D警報〉の機能の一部を拝借して、センターから遠距離接続している。大人の都合で、愛実ちゃんには僕の声しか届かない、でも僕には愛実ちゃんの姿がカメラ越しに見えるし、通話マイクを通して声は聞こえている』
アイミ「そっ…、そうなん、ですか…。でも、どうして急に」
01  『実は、愛実ちゃんに大事な話があってね』
アイミ「えっ? もしかして、外来種…」
 ドキッとするアイミ、顔が強張る。
01  『いや、アレが生まれるのはまだ先だ』
アイミ「じゃあ、何の?」
01  『デートさ。僕と付き合って欲しい』
アイミ「でっ、でで、で、で、デートっ…!?」
 顔を赤らめるアイミ。
アイミ「デートって、その、恋人同士が、やる、やつ、ですけど…。どっ、どうして、そっ、そそ、そんな…」
01  『僕らはパートナーだからね、親睦を深めるのは当然さ』
アイミ「で、でも、私…」
01  『恋愛感情は無い、かな? 付き合うなら、謎の機械生命体より、同じ人間の方が良いからね。僕は構わないよ。唯、愛実ちゃんの傍に居たいんだ。それだけで、僕の心は満たされるから』
アイミ「……」
 01の言葉が気になるアイミ。
01  『外を出歩くのはムリだけど、音声だけの遠距離交際はどうかな? 愛実ちゃんがセンターに行くにはカネや時間が掛かる。でも僕なら、ネットに繋がった電子媒体であれば何処にでもすぐに行ける。通話料金は心配しなくて良いよ、災対課持ちだから』
アイミ「そ…、それなら、大丈夫です…」
01  『ありがとう。そうだ、先に伝えておくけど、こう見えて僕はオッサンでね。愛実ちゃんを不快にさせる事があるかもしれない。そこは年代の不一致ジェネレーションギャップって事で、許してくれないかな』
アイミ「えっ? オッサン、なんですか?」
01  『ああ。同い年だよ、九重とね』

*****
〇アイミの家(約一ヶ月後)
 リビング。夕食後。テレビを見る父親、台所で後片付けをする母親。
 帰宅するアイミ。
アイミ「ただいま」
母親 「お帰り」
父親 「最近、俺より帰りが遅いな。部活動、そんなに忙しいのか?」
アイミ「うん…、まぁ…」
 歯切れが悪いアイミ。両親の顔が険しくなる。
父親 「まさか、イジメじゃないだろうな? 遅い時間に帰るのも、誰かとトラブルがあって」
アイミ「違う。無いよ、そういうの…」
父親 「隠しても調べれば分かる。明日担任に聞くからな」
母親 「遊んでばかりいるなら、塾に通って欲しいわね。この前のテスト、五教科全部追試だったじゃない。絵ばかり描いて、全然勉強しないんだから。進学するなら、今からしておかないと。三年生になってからじゃ遅いのよ、分かってる?」
アイミ「…うん…」
 きつい態度の両親。言い返さないアイミ。

〇アイミの部屋
 充電中のスマホ(電源を消しているのか、画面が暗い)。
 ベッドに寝転ぶアイミ。枕元にスケッチブックが何冊か。01の絵。リアルなタッチや、三頭身風等。特に三頭身風は、買い物したり、遊園地で遊んだりと、デートする絵が多い。01の名前(ニックネーム)を考えた形跡があるページも。
 天井を見つめながら、呟くアイミ。
アイミ「お父さんとお母さんの事、キライじゃないよ。でも、今は、あの人と一緒に居るのが楽しいから。優しくて、面白くて、私の事、好きだって言ってくれた…。私も、好きだよ…」
 充電中のスマホ、電源が入り、アプリが勝手に起動している。マイクのアイコンが出て、何者かが音声を盗み聞きしている。

*****
〇学校(後日)
 体育の時間。校庭で運動する生徒達。一人、教室に残るアイミ。左腕に巻かれた特殊なギプス。窓から外の様子を眺める。傍にスマホが付いた三脚スタンド。
01  『良かったよ、怪我、軽傷で済んだの。でも、僕のように壊れても替えが効く身体じゃないから、無理はしちゃダメだよ』
アイミ「……。どうして、私なのかな…」
 悲し気な顔で、ぽつりと呟くアイミ。
アイミ「私、MAIDENに向いて無いよ。運動苦手だし、勉強出来無いし、友達居ないし、性格暗いし、可愛くないし…」
01  『直感だよ。ああ、この子だなって』
アイミ「そんな簡単に、決めていいの? 災害で困ってる人助けなきゃいけないのに、知らない敵と戦わなくちゃいけないのに。私より、優秀な人、沢山居る。そういう人が良いよ。私みたいな何も出来ない人じゃなくて…」
01  『取説は読んだ? やるのは僕だ。ただ座って見ていれば―――』
アイミ「でも!」
 一瞬、アイミの口調が強くなる。すぐに落ち込む。
アイミ「……、でも…、ダメだよ…、私なんかじゃ…」

〇基地(同時刻)
 地下格納庫。薄暗い室内。アイミと通信中の01。右手の人差し指で、こめかみ辺りをコツコツと叩く。いつもと様子が違う。
01  『好きと言ったり、イヤだと言ったり、難しいな、乙女心ってのは』
 顔を上げる01。IMのマークが付いた宇宙衛星にアクセスする。
01  『時間をかけて育みたかったが、仕方ない。少し早めるか』

*****
〇基地(春の終わり)
 ヘリポートに防衛局のヘリが数機。防衛局長や幹部達が降り立ち、施設内へ向かう。
 施設内。慌ただしく動き回る職員達。廊下を小走りに移動する九重、特殊なインカムを装着し、01と会話。
九重 「予定は来年のはずだ」
01  『予定ってのは変わるもんさ。出産だって、その日に生まれるとは限らない』

 指令室に到着。九重に説明する部下の鼎。
かなめ】三十代半ばの男性。160センチ程で、小太りな体型。真面目そうな雰囲気。
鼎  「こちらが、解析班が算出したデータです」
 手元のモニターを確認する九重。
九重 「よりによって、落下予測地点はここか。到着まで約十時間、それまでに撃墜しなければ」
鼎  「関東支部へは連絡済みです。MAIDENと接触次第、こちらに向かうと」
01  『その必要は無い』
九重 「どういう意味だ?」
 鼎のインカムに通信。
鼎  「…分かりました、伝えておきます。九重主任、お客様です」

 ロータリーに停まる一台のタクシー。
 施設内受付。報告書を手にしたアイミ。対応する九重。
九重 「どうしてここへ?」
アイミ「ブルー…、IRONが、会って話がしたいって。見せたいものもあるからって」
九重 「……」
 九重の顔が険しくなる。何かを察した様子。
 突然、施設内外に鳴り響くサイレン。戸惑う職員達。別室、顔を見合わせる防衛局長達。
 タクシーを降りた運転手。目を丸め、ぽかんと口を開け、空を見上げる。九重 「まさか!」
 外に飛び出る九重。
 アイミのスマホから01の声。
01  『お待たせ。これから凄いものを見せてあげるよ』

 上空に伸びた発射台。待機する01。装着した飛行ユニットからエンジンを吹かすような轟音。エネルギーが溜まり、今にも発射出来る(飛び立てる)状態。モニターや窓ガラス越しに、その光景を見つめる職員や幹部達。
 インカムに向かって叫ぶ九重。
九重 「勝手な行動はするなと約束しただろ! 今すぐ止めろ!」
01  『記念すべき初出動だぜ。お偉いさんも見に来てるんだ、記憶に残る事やらなきゃな』
九重 「これは遊びじゃない! この国の、いや、全世界の命運が掛かってるんだ! 分かってるのか!」
01  『―――IRON、これより出撃する』
九重 「おいっ!」
 飛行ユニットが点火。勢いよく飛び立つ01。見守る職員達。九重の傍で見つめるアイミ。真っ直ぐに飛ぶ01。順調と思いきや、突然、飛行ユニットが停止。火花が散り、背中から分離するユニット。姿勢を崩す01。基地の外れ、建物が無い場所に落下。ざわつく幹部達。指令室、呆然とする職員達。
職員 「一次飛距離が足りなかったのか…」
   「飛行ユニットのエネルギー不足では…」
   「まさか、設計ミス…」
鼎  「違う。居なかったんだ、操縦者が」

 現場に向かうタクシー。01の傍で停まる。急いで降りる九重とアイミ。
 01の手が微かに動き、アイミの方に顔を向ける。
01  『あ…、愛実…』
アイミ「…ブルース…」
 01に駆け寄るアイミ。涙を浮かべながら、01の手に触れる。
01  『ゴメンね、一人でも、出来るところ、見せたかったのに。こんな、無様なところ、見らちゃって、恥ずかしいな』
アイミ「……」
01  『でも、これで分かったよ。僕だけじゃ、何も出来無い。けどね、愛実と一緒なら、出来るかも、しれない。だって、僕が選んだ、MAIDEN。僕が、愛する、人、だから』
アイミ「…!」
 ハッとするアイミ。
 アイミを見つめる01。
01  『僕のプログラムには、愛情が、無い。誰かを、愛する、心。だから、MAIDENが、愛する、人が、必要、なんだ』
アイミ「ブルース…」
01  『僕と、一緒に、戦って。何が、あっても、僕が、必ず、守るから』
 ボロボロと泣くアイミ。その後ろ、険しい顔で見つめる九重。
 遅れて到着する整備車両。降りる鼎や職員達。
 恐る恐る九重に声を掛ける鼎。
鼎  「主任。防衛局長より、直ちにこの事態の説明をと」
九重 「……、分かった」
 鼎からタブレットを受け取る九重。インカムからコードを伸ばし、タブレットに接続。防衛局長に繋ごうとする。
アイミ「九重さん!」
 真剣な眼差しで、九重を見つめるアイミ。
アイミ「もう一度、チャンスを下さい! 今度は、私も一緒に戦います!」
九重 「!」
01  『愛実…』
鼎  「無理です! シミュレーションすら受けていないのに。ましてや外来種のデータすら皆無。攻撃の予測が付かない以上、搭乗するのは…」
 タブレットの画面、全職員宛ての放送(連絡)に切り替える九重。
九重 「整備班、速やかにIRONを回収。破損個所、及び飛行ユニットの修理。設計班は鼎研究員の指示に従い、MAIDENの模擬テストを行う。その他の職員は外来種の監視を続け、出来る限り情報を集めろ。私はIRONと作戦を立てる。五時間後に再出撃」
鼎  「主任…」
 アイミに近付く九重。真剣な眼差しながらも、どこか複雑な様子でアイミを見つめる。
九重 「頼む。彼と共に、戦ってくれ」

〇基地(五時間後)
※出撃から撃破までセリフは無い。
 聳える発射台。その下、ミサイルサイロに似た空間。待機する01。ボディースーツを身に着け、胸元の操縦席に座るアイミ。飛行ユニットのエンジンが掛かる。モニターから様子をチェックする職員。発射準備が整い、次々と赤から青に切り替わる信号。カウントダウン。職員が指折り数える、3、2、1。勢いよく発射する01。飛行機雲を描き、一直線に飛ぶ。途中、飛行ユニットにブーストが掛かる。更に勢いを増す。指令室で見守る九重や職員達。別室、窓から様子を伺ったり、スクリーンで映像を見る幹部達。外で敬礼するタクシー運転手。
 宇宙空間。01の目の前に一つの石。表面にヒビが入り、粘液状のものが零れている。砕ける石。核(球体)を有した液状の生命体。石の破片が表面に付着し、ごつごつした皮膚のような感じになる。液状の身体から石の破片が付いた触手を伸ばし攻撃。01の肩と腰のパーツが自動で外れ、同じく自動で組み立てられる。特殊な形状の剣。剣を手に取り、相手の攻撃を避け、触手を切断していく01。剣に特殊な加工が施されており、切断された触手は蒸発し、跡形もなく消える。フェンシングのように相手に剣先を向け、構える01、飛行ユニットが再起動、相手に突っ込む。残った触手を伸ばす相手。素早く避ける01、剣を核に突き刺す。粘液は蒸発、核は砕けて灰になる。
 歓声が上がる指令室(セリフが無いので絵で表現)。はしゃぎはしないが、嬉しそうな鼎。唯一人、腑に落ちない様子の九重。
九重 「わざと醜態を曝して、気を惹くとはな。傷付いた演技も見事だ」
 九重の頭にある言葉が思い浮かび、苦い顔をする。
言葉 【男ってのは、好きな子の為なら何だってするんだよ】
九重 「…今度は何をする気だ?」


『IRON×MAIDEN 第一話』  終

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?