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大分・別府から知る、アフターコロナのワーケーション

2023年5月にコロナが5類となり、移動制限などの大幅解除、テレワークからオフィスにより戻す動きなども起こり、ワーケーションはどうなっていくのか?ということを感じる方も増えているのではないだろうか?世界ではデジタルノマドと呼ばれる方々が、少しずつその渦を作ってきており、日本にも既に東京や京都を中心に、少しずつ海外からのワーケーション訪問者も増えてきている事実はある。

では、日本国内の今の動きやこれからの動向を見るために、先日大分県別府市で開催された「別府ワーケーションWEEK」を例にして見ていきたいと思う。


大分県別府を軸にワーケーションを語るので、別府のワーケーション情報は下記を参照のこと。

ワーケーションを取り巻く今の動向

2023年12月に仙台市で開催したワーケーションMEET UPには東北地方を中心に、ワーケーションに関心のある方々が集った。初めてワーケーションのイベントに顔を出した方も多数。

2024年を迎える日本国内のワーケーションを取り巻く状況はどのようになっていくのか?これらを当協会の理事・古地優菜がCNET Japanに2023年のワーケーションと2024年の動向を探る--ワーケーションは「オワコン」か」という題目の下、記事を寄稿した。これを基に考えていきたい。

まず、テレワーク実施率だが、パーソル総合研究所のデータによると、2020年4月の緊急事態宣言後で比較すると最も低い水準だ。ただし、私は前々から「コロナ禍期間中との比較」ではなく「コロナ前と比較すべき」と主張している。そこと比較すると10%上昇しており、コロナ禍を通して、ライフスタイルや働き方を見直した結果、テレワークが定着した企業や個人事業主などが増えたことは事実である。オフィスのより戻しの話もあるが、重要なのは「5年前と比較すると、明らかにテレワーク実施者が増えた」という事実だ。

さらに、ワーケーションの実施層にも変化があり「普段の職場や自宅とは異なる日常生活圏外の場所で、仕事(テレワーク)をしながら自分の時間も過ごすこと」の定義でアンケートを取った結果、実に75%がやったことがあるにも関わらず、ワーケーションと認識していない、いわゆる「無自覚・無意識ワーケーション」の層でもあるということも明確になった。

つまり、今の日本では想像以上に「ワーケーションっぽいことをやっている」「ワーケーションをやってみたい環境にある」人が多いのである。これは、当協会が主催しているワーケーションMEET UPでも傾向が見られ、どの地域の開催時にも非会員の参加が増えてきたほか「ワーケーションに興味があるから」と地方都市から参加される例も目立ってきたのだ。

ワーケーション実践者代表として話していただいたのは愛媛県拠点の武市栞奈さんと、滋賀県拠点の花田和奈さん。もはやワーケーションは都会の人のみのものではない。

別府ワーケーションWEEK内では、これらに着目して多拠点居住サブスクADDressのコミュニティマネージャーを務める愛媛県が拠点の武市栞奈さんと、旅好きフリーランスコミュニティ@worldの代表の滋賀県拠点の花田和奈さんにもお話を頂き、今までと変わってきているワーケーションの像を明らかにしていった。通常では東京都内在住のワーカーにスポットライトを当てるのだが、もうそれだけではなくなってきているのが本質的なワーケーションになってきている。

武市栞奈さんの愛媛県に拠点を置きながら実現している生き方について

・都会→地方、の一方通行のワーケーションではなく、多面的に見た、ワーケーションの実践者が増えてきている。

・そこには「居住地」や「雇用形態」の垣根がなくなってきており、むしろそこを制限することで、自らワーケーションの声を聞きにくい環境を作っている。

・地方都市在住者は自らがワーケーションに出ることで、実は自分たちの地域の誘客につながっている。

・ワーケーションの入り口が、徐々にコミュニティとなってきており、今後は如何に初めての方に参加いただくのか、が全体のキーワードになってくる。

・より「ライフスタイル」「働き方」に着目する個々の動きが増加。

今回の別府で着目したいのは上記であるが、その他にも理事・古地の記事では親子ワーケーションや企業の制度、デジタルノマド等、多面的に触れているので是非参照頂きたい。

別府に集まった19都道府県からの参加者たち

別府の名所・海地獄、訪れた人もいれば、訪れなかって人もいる。

期間中に別府に集まった参加者(チャットグループへの申込者)は、総勢40名越えでなんと19都道府県から。その内訳は、茨城・栃木・東京・神奈川・長野・滋賀・京都・大阪・奈良・兵庫・香川・広島・愛媛・福岡・大分・熊本・宮崎・鹿児島・沖縄。今までのワーケーションは「都会→地方」という一方通行の論調が大きかったが、これだけを見ると、非常に幅広い方が参加されたことが分かる。そして、参加者の最多は大分県内、別府市内から自主的にこうした働き方やライフスタイルに興味を持った方の参加だった。

また、職種も多種多様で、会社員から経営者、フリーランス、視察に自治体職員など様々だ。もし、これで「首都圏在住者の会社員に限る」という制限をつけたら、ここまで多種多様な参加者も集まらなければ、ワーケーション自体も非常に狭いものとなっていただろう。

夜の鉄輪温泉(かんなわ)はライトアップもされて景観が綺麗だ。

例えば、東京の会社に勤めながら鹿児島県内に在住する会社員、奈良県内でバリバリ案件を取得するフリーランス、茨城県内で会社を経営する方。こうした多種多様な方が集まったから、ワーケーション実施中の討論イベントが盛り上がったと言えるだろう。

ワーケーションのメリットは、役職や地域の垣根も関係なく、交わることができる点にある。その中に、地元の方が混ざり合っても問題がなく、そうして共通認識の「ライフスタイル」や「働き方」の価値観にマッチする人同士が混じり合うことにある。そこから各々のスタイルで成果を出すのだ。

B-biz LINKの末崎さんも溝邊さんは、積極的に他地域のイベントへ顔を出すなどをしており、それが別府の受け入れに活きている。

そして、今回の多種多様な方が集まった理由としては、勿論ゲストの幅を広げた点もあるが、主催となる別府市の外郭団体、(一社)B-biz LINKの存在が大きい。末崎博樹さんと溝邊芹那さんはワーケーションの担当として、実施するにあたり、当協会の主催する横浜市でのワーケーションMEET UPや神奈川県鎌倉市で開催されていた鎌倉ワーケーションWEEKにも実際に参加して学びに来ただけでなく、実際に開催することをお知らせしたり、ワーケーションを実際に行っている人と繋がりを作っていったことだ。

最近のワーケーション施策は二極化してきており、集客に苦労する地域と、難なく集めてしまう地域に分かれる。難なく集めてしまう地域に最近共通しているのは、地域の方が自らワーケーションを実践して、ワーカーとの繋がりを作っていっている点だ。その中で、当協会や@worldのように「ワーケーション好きが集まるコミュニティ」と直接的に繋がりを作ることで、誘客ができている。

観光じゃない別府、そこに全てがある

熊本から別府へ移住した別府の一休さん・花田潤也さんの街歩きはユーモア溢れて大好評だ。

別府がワーケーションに向いている理由は、観光地だからではない。今回の実施期間を見ていても、別府の観光名所である、地獄めぐりを全て行っている方は多くはなく、どちらかというと別府の日常で滞在をしている。

その典型例が「温泉」だ。観光コンテンツに見えなくもないが、別府には公衆銭湯が多く存在し、地元の生活に根付いている。個人で訪れても、企業の合宿で訪れても「温泉」でのリフレッシュが図れるだけでなく「観光地としての強制がない」というのが自然な姿であることだ。

街中にある、公衆銭湯。まさに別府のライフスタイル。

なので、別府にワーケーションへ来るきっかけは「別府が好きだからワーケーションをしに来てみた」か「ワーケーションが好きだから別府に来てみた」の2つになる。ライフスタイルと働き方を充実できるから好まれるのであろう。

そんな別府には様々なワークスペースもあるが、コワーキングa side-満寿屋-は、ADDress別府A邸の家守・星悠さんがコミュニティマネージャーを務めるなど、地域との繋がりを非常に重要視している。

コワーキングa side-満寿屋-で実施された懇親会。地域の輪も感じられる。

当協会の公認ワーケーションコンシェルジュ(別府エリア)でもあり、コンテンツを鉄輪温泉エリアでプロデュースする菅野静さんは、鉄輪温泉の雰囲気に惹かれ、大阪から移住を決めて、湯治ぐらし株式会社を別府市内で立ち上げた。

別府へ移住した井手正広さんは、私自身は8年以上の繋がりだ。

Space Beppuでコミュニティスペースを立ち上げ、九州のインバウンドの取り組みも精力的に行う井手正広さん、別府の一休さんとして親しまれ、街歩きやコーディネート、市内の温泉の入り方説明張り紙のキャラクターにもなっている花田潤也さんも、別府に惹かれた移住者だ。

観光地だから別府にワーケーションの方が集まっているのではなく、温泉を中心とした多様なライフスタイルや働き方が寛容的に受け入れられ、更にチャレンジする土壌もたくさんあることが、別府が評価されている理由の1つであろう。

別府へ移住した菅野静さんは、鉄輪温泉に一目惚れして移住を決めた。別府への移住者同士は仲も良く、また元々の別府市民とも仲が深い。

別府で見る、これからのワーケーション

ビッグローブの芳賀康平さんは、自身と別府のストーリーを語る。別府と関わった事で、会社のミッションを動かせた。

では、これらを通して、別府の関係人口作りはどうか?過去に別府に来られた企業は今でも繋がりを持っている。例えば、ビッグローブ株式会社では、温泉が好きな芳賀康平さん(当協会の公認ワーケーションコンシェルジュ〜温泉〜)もその1人だ。芳賀さんは、温泉ソムリエの資格も取り、別府と共に会社ミッションにも挑んだ。

芳賀さんは、ご自身の体験から、温泉入浴を仕事に活かし、攻めの温泉活用を思いつき、「温泉ワーケーションは仕事に有効だ」という免罪符を盾に、別府市と共に様々な取り組みを行った。例えば、下記にあるような鉄輪温泉・北浜温泉・明礬温泉などでテストを図り、ウェルビーイングへの効果を測った。

さらに芳賀さんは活動を通して、別府とのつながりが深くなり、シェアハウス湯治ぐらしに 「BIGLOBEワーケーションスペース」を開設した他、個人ですじ湯温泉のサポーター会員になるなど、まさに別府市の自治体と双方でやっていきたいことを実現させていったのである。

別府での経験は更に「ONSEN WORK」に広がっている。ビッグローブ株式会社が提供するワーケーションの企業向けのサービスであるが、コロナ5類以降、利用者も着実に増えているという。

(一社)B-biz LINK時代に別府市のワーケーションの基礎を作った魚返将和さん。別府のワーケーションに強い自信を持つ。現在は別府市役所に戻り、B-biz LINKと連携しながら盛り上げる。

「自然に溶け込む」というのがキーワード。芳賀さんは一例で、こうした例が別府では増えている他、今回の参加者も「また別府へ来たい」「みんなで行きたい」という意見がたくさん聞かれた。多様なライフスタイルを受け入れてきたからこそ、このような意見が飛び出してきたのだろう。

縛りをつけては行けない、これからのワーケーション

各所からの自治体職員とワーカーが別府でこれからのワーケーションと地域との交わりについて根で語り合った。

アフターコロナとなり、ワーケーションへの考え方も変えていかなければならない。大きな点と言えば「無理して大手の有名な企業に、お金を払ってきてもらう」という点よりも「ワーケーションをできる環境下であれば、垣根なく来てもらう」という発想の転換を如何にできるかである。

結果的に、人口比率的に都市部の人材が多いのが当然ではあるが、垣根を取ることで、今度は世界中のワーケーション実践者を対象にすることだってできる。地域内に何かを起こす人材は、多様な考え方ができる人。そこにもはや居住地や雇用形態は関係がない。縛りをとき払うことで、本当の意味で自治体が手にしたい姿を目指すことができる。

私は初心者や初めての方と話す機会も増えているので彼らに聞くと「自治体のモニターツアーは縛りが多過ぎて参加ができないので諦めていた」「誰に聞いたら良いのか分からない」と言った声が多かった。

皆さんそれぞれの意見を持っており、フリーダムに意見をぶつけ合って、良い議論になった。

私はこれからのワーケーションの施策において、如何に幅広い門戸を広げていき、来るきっかけをワーカー目線で考えていくかが重要だと考えている。要は自治体のエゴを無くし、徹底的にワーカー目線になることで、結果自治体が叶えたいことが進んでいくという考え方だ。

別府ワーケーションWEEKでは、初めての方や会社員の方もお呼びしたく、またフリーランスの方にも優しくするために以下の4点が大きなポイントとなった

・開始は日曜日、これは会社員の方が有給をわざわざ取らなくても移動できるようにするための配慮。

・月曜日には何も入れない、これは特に月曜日は会議が入りやすいため、フリーにする。結果的に2日目がフリータイムとなるため、会議がない方は自主的に地域に慣れに行く。

・全てのイベントを強制させない。結果的に参加したい人は自ら参加しに来るため意欲的。

・参加者同士や地元の方がコミュニケーションを取れるようにするため、チャットグループのみ作成。

これらは徹底してワーカーニーズを掴んで行ったことである。勿論、これからも様々な声がワーケーションには聞かれてくると思うが、時代の変化を正確に捉えて、反映させていくことで、これからも自治体もワーケーション好きもWin-Winになるような取り組みが続いていくことを切に願っている。

別府を気に入って帰った方が多数。プログラムも大事だが、そういう雰囲気の地域づくりも、もっと大切。

最近のワーケーションは、本質を突いたワーカーも増えてきた。世界で増えてきているこの流れ。別府に見る「ライフスタイル」「多様性の許容」「働き方」「垣根の排除」。そこから各々でどういうミッションと答えを導き出すのか。

まだまだワーケーションはこれから、面白くなりそうである。今回の別府の様な事例を出す地域が日本にどんどん増えてくることを願っている。

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