フライング・ジングルベル
シナモンの薫る氷点下2℃
太陽の遠吠えを合図に
凍った魚たちが一斉に動き出す
無重力のモビー・ディックが波打つ12月を蹴って
灰色の薄皮で隔てた宇宙を目指す
硬質のきらめきと
顔も知らない神様で飾られた街は
誰かの願いの切れ端を黒いびろうどの隙間に隠して
きいきいと
ブリキの幸福を歌う
ケーキと宝石と余白を埋めるためのキスと
詰め込んだ靴下でブラックジャックを作ろう
肥大した新皮質を叩き割って
眠る扁桃体を叩き起こして
やわらかなしろいあしで
雪の上を歩こう
チラシの裏で作ったクリスマスカードには
「来年まで月の裏側にいます」
とだけ書いて
うな垂れるビルの谷間から
千々に破いて吹雪に混ぜた
そのうちの幾つかは
淡い金色の鈴の音になって
「ねえママ、月の裏側にサンタがいたよ」
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