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『ザ・クリエイター/創造者』批評

『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』の監督として有名なギャレス・エドワーズ監督の新作『ザ・クリエイター/創造者』を鑑賞しました。

あらすじ
遠くない近未来、人を守るはずのAIが核を爆発させた—— 人類とAIの戦争が激化する世界で、元特殊部隊の〈ジョシュア〉は人類を滅ぼす兵器を創り出した“クリエイター”の潜伏先を見つけ、暗殺に向かう。だがそこにいたのは、兵器と呼ばれたAIの少女〈アルフィー〉だった。 そして彼は“ある理由”から、少女を守りぬくと誓う。やがてふたりが辿りつく、衝撃の真実とは…

公式サイトより

ギャレス・エドワーズ監督はポストコロニアリズムが根底にある監督です。『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』はアウトローたちが力を合わせて帝国に一矢報いる作品でした。今作も抑圧された人々の抵抗がテーマの作品であり、西欧諸国の人間たちがアジアに散らばるAIたちを攻撃し、主人公の人間がAIたちの手助けをするというのがざっくりとした構図です。

今作はほとんどのシーンがSONYのFX3という50万程度の安価なカメラで撮られています。シネマカメラの中では最安価クラスのカメラで、僕もグルメテレビ番組の料理撮影で使っていたようなシンプルなカメラです。
FX3で大作SFを撮るなんていうのは前代未聞ですが、代わりにポストプロダクションに何十億円もかかってるそうです。
画的な問題はほとんど感じず、むしろさすがギャレス・エドワーズといった感じの迫力でした。

撮影は素晴らしかったものの、気になったのはアジア描写です。西欧が禁止したAIをいまだに野放しにしているという設定で登場するのがニューアジアという架空の国家です。
日本とベトナムとタイとチベットとアフガンをそのまま鍋に入れて形崩れするまで煮込んだみたいな描写の数々に唖然としました。しかも全てステレオタイプ的でちょっと古い。詳しい単語は忘れましたが、縦書きの看板に書かれていた「◯◯ー」というような促音(伸ばす音)が横向きに書かれていて驚きました。日本をモチーフにしてるのに美術スタッフに日本人は一人もいなかったのか?いや、美術スタッフじゃなくても指摘するレベルの間違いでは?

ニューアジアという架空の国だからという建前で敢えてアジアのいろんな文化様式をそのまま登用しているのかもしれないが、アジア人としては雑な描き方をしていると思ってしまいます。

ギャレス・エドワーズは『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』を見ても分かるとおり、フランシス・フォード・コッポラ監督の大傑作『地獄の黙示録』から強い影響を受けた監督です。エドワーズのポストコロニアリズムも『地獄の黙示録』から来ているものだと思われますし、東南アジア風なビーチでの爆撃という戦争描写のモチーフも『地獄の黙示録』への憧れによるものでしょう。もっとも、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』の時は『地獄の黙示録』を真似ようとしたもののうまくいかず、途中で実質的な監督業務を脚本のトニー・ギルロイとバトンタッチする憂き目に遭いました。『地獄の黙示録』という映画は奇跡の映画なので仕方ないことですが。

この映画の問題点は雑なアジア描写と関連してもう一点あります。人間vs非人間という構図に西欧とアジアを当てはめてしまうことです。人間vs非人間と西欧vsアジアの構図を結びつけてしまうことこそ、この映画におけるエゴの強い西欧人と同じなのではと思います。リベラル色の強い白人であっても根底に無意識の差別意識があったり、白人であることの選民意識を持っていることはよくあることですが、この映画においては良くか悪くかテーマを裏打ちする意味を持ちます。エドワーズは自分を主人公に当てはめていたかもしれませんが、実際にはアリソン・ジャネイ演じる大佐と重なります。

前述のアジア描写を含め、人間vs非人間の構図も含め、今作は白人の啓蒙主義や自分の気持ちを満たす偽善的チャリティーであるとも感じてしまいます。

また、今作で思い出すのはイスラエルとパレスチナの紛争のことです。イスラエルの高官がパレスチナ人のことをhuman animalと呼んだことやイスラエルとパレスチナの武力の非対称性はこの映画と恐ろしいほどに合致しています。もちろんこの映画が完成した時にはハマスによる虐殺テロは起きていなかったので、これは全くの偶然です。偶然ですが、エドワーズが人間vs非人間の構図を地域に当てはめて描いたことも、イスラエルとパレスチナが紛争していることも、人種や宗教と深く紐づいた必然なのです。

そして今作が西欧側の市民とアジアの市民をほぼ不可視化したことこそ、イスラエルとパレスチナの問題の本質的な問題と直結しているのです。この問題を正しく認識できているのは、僕が知る限りスロヴェニアの哲学者スラヴォイ・ジジェクだけなのですが、長くなるし、映画の話から逸れるので今回は割愛します。

少し批判的な話が多くなりましたが、かなり完成度が高いSF大作なので是非劇場での鑑賞をお勧めします。

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