アップルパイの日🍎

※注意しておくと、この話にアップルパイは出てきません。

　ドールとのセルフポートレートを屋外で撮るという生活を9年近く続けているのだが、ある時から『せっかく海沿いに住んでるのだから海で撮影しよう』と思いたち、自宅から3km程離れた海へ自転車で通うようになった。
とは言えただの古い漁港なのだけれど。

①人が居なくて（人が居るとドールを出し辛いし集中出来ない）
②ある程度ごちゃついてて（何も無い or 情報量が多い絵が好き）
③何となく景色が良くて気分が良い。

の条件を満たすそこそこええ感じの場所なので運が良ければ写真が撮れて、とりあえず何は無くともの脳死状態で行くにはうってつけだったのである。

　通い始めてしばらくして、ある日の事。
自転車で海に向かう道すがら、なんか良い匂いがする。

アップルパイだ！！！？＼＼\\٩( 'ω' )و //／／

しかも海に近づくにつれ匂いが濃くなっていく。
普段は潮の香りで磯臭い漁港がまるで一端のパティスリーの如く。

いや、待てよと。

海沿いで化学工場も数多くあるので、もしかしたら私がアップルパイの匂いに感じているだけでケミカル臭の一種なのかもしれない。そういうこともあるだろう。私は冷静な人間なのだ。
深呼吸したい気持ちを抑えて、あまり吸い込まないようにしてその日は撮影を終えた。
　
　しかし、それは度々起こる現象であり毎日では無いにしろ数日おきに。風向きのせいなのか何なのか、下手をすると3km離れた自宅までアップルパイの芳しい香りがしていることに気が付いた。
人は、一度認識してしまったら同じ事象にいち早く気付くみたいな事が多々ある。

特に『香り』に関しては人間の五感の中でも、嗅覚だけが記憶をつかさどる海馬という脳の部位にほぼ直接的に信号を送ることが出来るらしい。

匂いと脳と記憶、そして漁港にアップルパイの香りという強烈なギャップによりさらに深く刻まれるが訳がわからない。

年中鼻炎持ちの家族に『今日めっちゃアップルパイの匂いするから！！！マジで！！！』と訴えても認識すること叶わず誰とも共有する事なく、ひとり長いこと謎のまま過ごす事になった。
アップルパイなのかケミカルなのか。
それともこれは、私だけが感じている何かなのか？？
とりあえず【アップルパイ（仮）の日】としてその日に当たるとラッキーだと思うことにした。
　
　そしてコロナ禍2020年。
旅にも出られず引き篭もりが加速し、自転車で海まで行っては写真を撮りおやつを食べるというご機嫌なニートが板についていた。
行きつけの漁港に飽きた私は、新天地を求めて海沿いを少し北上し徘徊してみる事に。
工場、物流倉庫、大型トラック、ドッグフードで有名なドギーマンの犬の形をした工場（かわいい）
人気の無い広い道をひた走っていると、奇しくもその日はアップルパイ（仮）の日。

一際濃いアップルパイの香り、その大元を偶然発見することになる。間違いない。
　

業務パンの関西圏シェアNo.1
『オリエンタルベーカリー』

その大阪にある唯一の工場だったのだ。

良かった！ケミカルじゃなくて本当にアップルパイだった！（HPを確認したところ、多分アップルデニッシュの可能性が高い）
長年の謎が解けた興奮で写メを撮って帰った。

これからは深呼吸しながらアップルパイを浴び、憂なくセルフが撮れる事でしょう。
ありがとうオリエンタルベーカリー。
いつかパン食べます。直売所も近いし。
　
　
（ちなみにトップの写真は2019年にアップルパイかケミカルか分からない時に香りに包まれながら撮影したものになります。）