"逃避"

「言いたいことを誰にも傷つかないように吐くことすら許されないこの世の中は一体何だ?
ここにいる存在価値は何だ?
我々は何故、傷つけられるために生きなければならないのだ?
都合の良いようにこの世の中は作られている。いつまで振り回されなければならないのか。」
そんなことを考えながら、私は一人喫茶店でホイップクリームがたっぷりかかったホワイトモカを貪るように飲み干す。ゲロ甘で吐き気がするくらいのコッテリさが、私の日々の怒りと鬱憤を包み込む。「ふぅ…」とため息が次第に少なくなると言うことは、感情の嵐が通り過ぎた証だと私は勝手に決めている。しかし実際はただの思い込みで、根本的な解決はいまだに出来ていない。何十年も前の怒りも、学生時代別れたあの人への不満も。そんな出来事も全て、身体に悪い物で埋めることにより、感化させ、麻痺らせることが出来る。

「このまま私の感情が凍ってしまえば」

そんなことを何年も前から思い続けている。



いきなり飲んだことにより、頭の中がぼんやりしてきた。ようやく私の意識が一度リセットされる。鼓動も早くなり、汗も出てきて、呼吸が荒くなる。周りには沢山の若者がいる。心配かけないように私はこっそり目を瞑る。
あぁ、周りの音が段々と遠くなっていく。近くの女性の高い声が、そろそろ言葉を認識しなくなって、音だけが耳に入る。次第に私は突然、スマホの画面をつけたまま、ほんの少しの間だけ息を引き取った。ほんの数分間くらいだろうか。その場で心臓を止めた。

あっ…、ここの世界は私しかいない
手元の血塗れのナイフが、春の甘い香りがする風と共に飛んでいった。あたり一面は白く、足元には飲み干せそうな川が流れている。手に汲んで口の中に入れる。「甘い…美味しい」私を包み込むような味がした。涙して私は何度も、その川を飲んだ。お腹が膨れたくらいで一度やめ、辺りを歩くことにした。周りには、私を縛り付ける人もいない。うるさい音楽の音もなく、蝉と、川と、微かに揺れる木と、明日を運ぶ空の音だけがした。

「ここならもう、独りじゃない」

ずっと居たかった。何時間も何ヶ月も。
私が死ぬ時まで。

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